パワハラ、セクハラ、離職率の高さ、残業が減らない、生産性が上がらない……etc etc。職場で発生する様々な問題が行き着くのは、とどのつまり人間関係です。コミュニケーション不全は、すべての問題の元凶と言っても過言ではありません。しかしながらやっかいなのは、コミュニケーションは「どう受けとられるかすべて」で、「伝えたから」「話したはずだから」では通りません。コミュニケーションに悩んでいるのはアクションを起こした側なのに、「アクションを起こされている側に決定権がある」という不条理が存在するのです。

では、コミュニケーションが成立している職場とは、どんな職場なのでしょうか?
それは「心理的安全性(Psychological safety)」が熟成された職場です。

チームメイト全員に発言する機会がある

Psychological safetyは、「自分のマイナスになるかもしれないことでも言える雰囲気が、チーム内にある状態」を示す言葉で、「信頼」(Trust)や「マインドフルネス」(Mindfulness)と混同する人もいますが全く違います。Trustは他者への感情であり、Mindfulnessは自己の感情であるのに対し、Psychological safetyはあくまでも“場(チームや職場)”に抱く感情です。

心理的安全性が熟成された職場では、誰か一人だけが喋りまくって、他のチームメイトがほとんど黙り込んでいることがありません。新人であれ、女性であれ、外国人であれ、役職定年になったベテラン社員であれ、チームメイト全員にほぼ同じ時間だけ発言する機会があり、全員が考え、動き、話します。

自然に分かり合う空気がチーム力を高める

「こんなことを言ったら上司に叱られるのではないか?」
「こんな意見では同僚からバカにされるんじゃないか?」
「もっと立派なことを言わなきゃいけないんじゃないか?」

そういった不安をチームメンバーが抱かないチーム。失敗を素直に言え、他者への心遣いや同情、あるいは配慮や共感があり、それは暗黙のルールとして、自然にそうなる空気が存在する。互いにわかり合うことができれば、自然と共同体(=職場)の中に自分の居場所ができる。

そういった職場では「1+1=3、4、5…」といった具合にチーム力が高まります。まさしく“The whole is greater than the sum of its parts”。アリストテレスが「全体は部分の総和に勝る」と説いたように、協働するチームが生まれるのです。

“腐ったリンゴ”をつくらない職場づくり

そもそも人は誰しも弱い側面を持ち、愚かな振舞いをすることがあるものです。つまり、コミュニケーションを成立させるには、「働いているのは人である」という当たり前のことに気づき、上司・部下といった役割を超え、「人」として自分を語り、「人」として相手に敬意を払い、接する瞬間を大切にすることが肝心なのです。

2年後の2020年には、大人人口(20歳以上)の10人に8人が40歳以上になります。50歳以上に限っても10人に6人が相当します。まさに、職場はおじさんとおばさんだらけです。彼らを“腐ったリンゴ”にしてしまっては、元も子もありません。ついつい「年功序列=悪 改革=若手」とばかりに、優秀な若手ばかりを引き上げがちですが、ベテラン社員にもスポットを当て、彼らに意見する機会を与え、彼らの言葉に耳を傾け、受け止めて欲しいのです。

しんどい時に互いの傘を貸し借りできる、心の距離感の近い、温かい空気のある職場を目指してください。

健康社会学者(Ph.D) 働き方研究家

河合 薫
(かわい かおる)

東京大学大学院医学系研究科博士課程修了(Ph.D)。千葉大学教育学部を卒業後、全日本空輸に入社。気象予報士としてテレビ朝日系「ニュースステーション」などに出演。その後、東京大学大学院医学系研究科に進学し、現在に至る。「人の働き方は環境がつくる」をテーマに学術研究に関わるとともに、講演や執筆活動を行っている。フィールドワークとして600人超のビジネスマンをインタビュー。日経ビジネスONLINEに「河合薫の新・リーダー術 上司と部下の力学」を好評連載中。