2019年卒の就職活動が佳境を迎えている。売り手市場の今、中小企業が学生から選んでもらうためには、採用のための自社ブランディングが欠かせない。ブランド戦略のコンサルタント・村尾隆介氏は独自のブランディング手法で中小企業の採用をバックアップしてきた。そんな村尾氏が、今回は、3K(きつい・汚い・給与が安い)とマイナスイメージの強い介護業界で人材不足に悩む隆生福祉会(大阪市)の採用プレゼンテーションを指南する。

 村尾隆介氏が進めている中小企業のための採用支援では、まず企業に、入社1~5年目の若手社員を中心に7人前後のリクルートチームをつくってもらう。このメンバーが中心となって1年間の採用活動を進め、学生向けセミナーや説明会で会社の魅力や仕事内容をプレゼンテーションすることになる。

 今回、村尾氏のプレゼンテーション指導に挑戦するのは、大阪市で介護施設などを運営する社会福祉法人隆生福祉会のリクルートチームだ。同法人の今年の採用目標人数は、15人。若手社員を中心に、8人のリクルートチームを結成した。人手不足が深刻な介護業界において、3Kというマイナスイメージの払拭を狙う。

村尾隆介(むらお・りゅうすけ)氏
村尾隆介(むらお・りゅうすけ)氏
小さな会社のブランド戦略を手掛けるコンサルタント。スターブランド社の共同経営者・フロントマン。14歳で単身渡米し、ネバダ州立大学教養学部政治学科を卒業後、本田技研に入社。退社後、食品の輸入販売ビジネスで起業。事業売却を経て現職。その成功ノウハウを、小さな会社やお店に提供している。日本に中小企業のブランディングブームを起こした第一人者。『今より高く売る!小さな会社のブランドづくり』(日経BP社)など著書多数。中堅・中小企業ラボの客員研究員として「すごサイ(すごい採用プロジェクト)」を監修する。(写真:清水盟貴)

 2018年2月23日(金)、村尾氏のアドバイスを仰ぐため、都内某所に隆生福祉会のリクルートチームメンバーが集まった。今回はメンバー8人のうち3人が、実際に企業説明会と同じ要領でプレゼンテーションを披露した。

 プレゼンの持ち時間は1人5分間。就職セミナーなどで各社に与えられる時間は15分程度の場合が多く、会社全体を1人の担当者が説明し、例えば2つの部署の仕事内容を2人が説明することを考えると、1人当たりの持ち時間は5分程度が妥当なのだ。

 良かった点、悪かった点、話の入り方、終わり方など、10項目ほどの採点シートを付けながら、村尾氏のほか、ここに集まった学生を含む十数人の関係者がプレゼンを評価する。臨場感を出すため、参加者は学生になりきり本番さながらの質疑応答も実施する。

 「初めは皆、時間をオーバーするし、上手に話せません。でも、練習を積むことによって、こちらが感動するほどカッコいいプレゼンができるようになるんです。今日、発表会で学んだことをぜひ社内に持ち帰ってプレゼンをブラッシュアップし、練習も重ねて本番に生かしてください」と、村尾氏は隆生福祉会のリクルートチームにエールを送った。

 緊張した面持ちのメンバーたち。練習の成果を発揮できるだろうか。

トップバッターは会場の緊張をほぐす役目

 プレゼンのトップバッターは、13年前に入社したデイサービスセンター/グループホーム「ゆめ長居公園」施設長の岡田恵介さん。「今日は駅前のうなぎ屋さんで980円のうなぎを食べに来たついでに、このプレゼンテーションをしたいと思います」と親しみやすいつかみでスタート。

 「笑顔」という組織の理念と、同法人では99人の高齢者を介護していることを説明したうえで、「福祉という仕事は給与が安い、きつい、ダサい、臭い、“インスタ映え”しないというマイナスなイメージがあるかもしれないが、その雰囲気を変えていきたいと考えている」と自身の思いを伝えた。

 その後は、隆生福祉会が力を入れている、「グローバル」「テクノロジー」「ブランディング」の3つの柱を説明した。

 グローバルでは、福祉先進国との職員交換制度があり、海外の介護を取り入れていること。テクノロジーでは、床走行式の電動介護リフトを導入するなど、最新の技術を取り入れ、職員の働きやすさを追求していることを紹介。

 ブランディングでは、コーポレートカラーのピンクでパンフレットを新しく制作したり、積極的に地元のメディアに出たり、従来の介護の印象を払拭したおしゃれなイメージを意識したアピールに力を入れていることを説明した。

 プレゼン後の質疑応答では、「有給休暇は何日あるのか?」「英語ができなくてもフィンランド研修には行けるのか?」「職員たちは仲がいいのか?」といった質問が出た。

 さて、岡田さんのプレゼンに対する村尾氏の評価はどうだっただろうか。

 まずは、良かった点として、「グローバル」「テクノロジー」「ブランディング」と介護業界においてカタカナを使ったことを挙げた。学生にカッコよく映るからだ。また、メディアに登場していることは保護者の安心につながるので、PRポイントとなることも指摘した。

 プレゼンでは服装も重要だ。身なりで学生が会社の雰囲気を判断することもある。岡田さんはシャツのボタンやステッチ(縫い目)にコーポレートカラーのピンクを取り入れていて、ビジネスカジュアルの服装は親しみがあって良いと村尾氏。「介護職員がバリバリのスーツ姿だと、違和感があるかもしれない。また、カジュアルに見せたい場合、靴を茶色にするのはGOOD! 黒だとフォーマルなイメージになる」という。

 さらに、「始めはジャケットを着て登場し、学生の前で脱いでからプレゼンをスタートすると、リラックス感を高めることができる」とちょっとしたテクニックも紹介した。

爽やかな服装でプレゼンに臨んだ岡田さん。隆生福祉会のコーポレートカラー、ピンクがボタンやステッチにあしらわれているシャツでキメている(写真:山本祐之)
爽やかな服装でプレゼンに臨んだ岡田さん。隆生福祉会のコーポレートカラー、ピンクがボタンやステッチにあしらわれているシャツでキメている(写真:山本祐之)

 続いて、改善点だ。

 まず、村尾氏は話すときの姿勢に触れた。岡田さんはプレゼン中に腕を組んでいたが、これは心を開いてないことの表れで、学生は拒まれている印象を持ってしまう。また、「トップバッターは、場の緊張をほぐすために、少人数のブースであれば、参加者1人ずつと握手をしてから始めてもよい」と村尾氏はいう。

 次に、プレゼンのスタートと終わり方のテクニック。トップバッターは、これから誰が何の説明をするのか、全体のプレゼンの流れを伝えてからスタートするとよい。余裕があれば、ブースのカベにそれぞれのプレゼンの時間と説明内容、発表者を書いて貼り出しておくと親切だ。

 終わり方については、質疑応答の後に、「それでは学生の皆さん、一緒に働けることを楽しみにしています。ぜひうちにエントリーしてください!」など、発表者なりの最後のコメントやポーズを決めておくといい、と村尾氏はアドバイスした。

 また、質疑応答で出た質問には、プレゼンに盛り込むべき内容のヒントがあると指摘する。「学生の聞きたいことを先に伝えることが、プレゼンテーションのあるべき姿」と村尾氏。今回挙がった、「職員の仲はいいのか」という質問は、多くの学生が知りたいと思うことなので、プレゼンに盛り込んでもいいのではないか、とアドバイスした。

 岡田さんのプレゼン時間は10分21秒。予定より大幅にオーバーし、参加者からは「途中でプレゼンのテンションが落ちてしまった印象がある」という指摘もあった。これに対し、村尾氏は「できればあと3分は削ってほしい。短くすることで、テンションを保ちやすくなる」と指導した。

華やかな部分だけでなく、地味な部分も伝える

 続いてプレゼンをしたのは、17年4月に中途入職したばかりである人材開発部の井上愛さん。裏方で現場を支える総合職の仕事について説明した。

 「現場が近い」「経営を感じる」「社会をつなぐ」。この3つのキーワードが、隆生福祉会の総合職の魅力であると伝えたうえで、井上さん自身も、企業理念の「5つの笑顔」に共感して隆生福祉会に入ったと話した。

 井上さんの具体的な仕事内容としては、メディア取材の対応や海外視察、施設と地域を結んだり、認知症について勉強するようなイベントを開催したりする。地域で一人暮らしの高齢者が孤立しないように、施設を訪問してもらい、孤立を防ぐような取り組みをしていることも伝えた。

 プレゼン後の質疑応答では、スライドに登場する写真に女性職員が多かったことに対して「男性でも働きやすいのか」という質問が出た。また、「総合職は介護の勉強をしなくてもできる仕事なのか」という質問に対して、「できるけれど、働いていると、勉強したくなる。おじいちゃん、おばあちゃんのことをもっと知りたいという気持ちになってくる」と井上さんの人柄がよく表れた言葉で回答した。

 井上さんのプレゼンに対する評価も上々。終始笑顔でアイコンタクトをしっかりとっていること、頼れるお姉さんという印象があったことを村尾氏は評価した。

 改善点としては、「総合職の柱は伝わったが、ルーティンワークの内容が分からない」ことを挙げた。メディア取材や地域のイベントが毎日あるわけではない。華やかな部分だけでなく、日々のルーティンワークという地味な部分を出すことで、学生の誤解や入社後のギャップを防ぐことができる。

 また、話し方にメリハリがなかったので、伝えたいところは声を大きくして強弱を付けるといいこと、「本部」と「総合職」など、同じ意味を表す言葉は、複数使うと学生には伝わらないので1つに絞ったほうがよいと伝えた。

発表者のパーソナリティーを前面に出してもよい

 最後のプレゼンターは、介護職として現場で働いている、入社1年目の滝野あゆみさん。プレゼンテーションでは、介護職の魅力を伝えた。滝野さんが考える介護職の魅力は、「人と関わること」「夢をかなえること」「未来を想像すること」の3つ。

 どれだけ技術が進歩しても、人を支えるのは人であること。そして、入浴などの身体介助だけでなく、利用者一人ひとりの「もう一度、昔習っていたフラダンスをしたい」「夫婦の思い出の写真がないから撮りたい」などの思いに寄り添い、彼らが諦めていた願いをかなえられることをアピールした。

リアルな写真を多用したスライドを使って、具体的に仕事内容をプレゼンする滝野さん。人に関わる仕事の尊さについても伝えることができた(写真:山本祐之)
リアルな写真を多用したスライドを使って、具体的に仕事内容をプレゼンする滝野さん。人に関わる仕事の尊さについても伝えることができた(写真:山本祐之)

 そして、これから高齢化が進む日本の介護の将来を創造し、変えていくことができる。今後は介護ロボットの導入などで職員の負担を減らし、マイナスのイメージから、誇れる仕事というイメージに変えていきたいと話した。

 質疑応答では、「夢をかなえるとは、どのような頻度で利用者の声を聞いているのか」「資格取得などの支援はあるのか」などの質問が出た。

 入職後1年に満たない滝野さんに対し、村尾氏は「目がキラキラしていてきれいだった」と褒めたうえで、改善点として、「もう少し滝野さんのパーソナルな部分がプレゼンに盛り込まれていたほうがいい」とアドバイスした。

 言葉の行間を読めば分かるが、「1年目の私がこんな仕事を任されているんですよ。すごいじゃないですか!」くらいの本音があってもいいのではないか。学生たちは、発表者のプレゼンを見て、尊敬できる先輩かどうか、背中を追うに値する人物かどうかを判断するからだ。

 3人のプレゼンが終わった後、村尾氏は、全部のプレゼンが終わったら、発表者はすぐに学生のところに行き、「質問してくれてありがとう」「ぜひエントリーしてね」と話しかけて名刺を渡すようにアドバイスした。名刺を交換するだけで、その学生がエントリーする確率は50%ほど上がるという。

 改善点はあったものの、隆生福祉会のメンバーたちはそれぞれ堂々としたプレゼンを披露した。本番では、よりブラッシュアップされたプレゼンで学生たちに自分たちの魅力をアピールできるだろうか。同法人では、さっそく3月20日の福祉関係の企業団体が集まる合同説明会にて実力を試した。

(本記事は、日経ビジネスオンライン「欲しい人はこう採れ! 中小企業の採用最前線 」2018年4月17日掲載の記事を一部改編したものです)

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すごサイ すごい採用プロジェクト

――日経トップリーダーと日経BP総研 中堅・中小企業ラボでは、村尾隆介氏監修の下、中小企業が採用を成功させるための「すごサイ(すごい採用プロジェクト)」を提供しています。

「すごサイ」についての説明会を5月17日(木)に実施。ご興味のある方はぜひご参加ください。「『すごサイ』で人材不足の危機を乗り切ってください」(村尾氏)。

詳しい情報はこちらから↓
http://nvc.nikkeibp.co.jp/sugosai/201801/