ブランド戦略のコンサルタント・村尾隆介氏は独自のブランディング手法で中小企業の採用活動をバックアップしている。知名度の低い中小企業にとってポイントとなるのが、セミナーや説明会でのプレゼンだ。学生にとってカッコよく魅力的に映るかどうかが、応募数に大きく関わってくるからだ。そのため、村尾氏は特にこのプレゼン練習に力を入れている。
 すごサイを導入した企業からは、ダイレクトリクルーティングやインターンシップの場でのスキルアップは言うまでもないが、日頃の営業先での話し方などにもこのプレゼン練習の成果が生きてくると“副作用”にも喜びの声が寄せられている。
 今回、村尾氏のプレゼン特訓に臨んだのは、トラックやトレーラーなど大型車両の整備を得意とするいづみ自動車(千葉県市原市)だ。外国人社員を含む6人で結成されたリクルートチームメンバーが、事業内容や会社の魅力をプレゼンした。プレゼン会場での聞き手には、現役の大学生も参加した。
 「今期の採用成績が振るわなかった企業でも、まだチャンスはある」と村尾氏。いづみ自動車のプレゼン特訓を基に、今期後半戦や来期に向けて、すぐに実践できるアドバイスを紹介する。

 都内某所の会議室に、男性社員たちの威勢の良い掛け声が響き渡った。

 「ガチで行こうぜ!ガチ!!」

 これから、ブランド戦略コンサルタントの村尾隆介氏による採用プレゼンの特訓が実施されるのだ。挑戦するのは、いづみ自動車のリクルートチーム。共に働く仲間を募集するため、各部署から6人が選出された。現役大学生を含む、20人ほどの聴衆を前に、チームは円陣を組み、掛け声で気合いを入れた。

村尾隆介(むらお・りゅうすけ)氏
村尾隆介(むらお・りゅうすけ)氏
スターブランド社共同経営者・フロントマン。“小さな会社”のブランド戦略を手掛けるコンサルタント。中小企業のブランディングブームを起こした第一人者。米ネバダ州立大学教養学部政治学科を卒業後、本田技研工業に入社。独立し、食品の輸入販売を始める。事業売却を経て現職。その成功ノウハウを、小さな会社や店舗に提供している。『今より高く売る!小さな会社のブランドづくり』(日経BP)など著書多数。サステナブル経営ラボ・客員研究員として、すごサイ(すごい採用プロジェクト)を監修する(写真:清水盟貴)

トラックの安全運行を支援していることをアピール

 トップバッターは総務の江島良太さん。会社概要を説明した。

 1967年創業のいづみ自動車は現在、従業員67人。千葉県の民間整備会社の中ではトップクラスの売り上げを誇る。メディアでの露出も多く、2018年6月に公開された映画『空飛ぶタイヤ』では撮影協力として携わり、エンドロールに社名が載ったことを説明。聞き手の関心を誘った。

 次いで、メカニックエンジニアの伯嘗原(ほうきばら)真一さん。

 冒頭で「大型トラックを間近で見たことはありますか?」と聞き手に問い掛けた。物流で活躍する大型トラックのエンジンの排気量は1万ccを超え、タイヤは1本100キロにも及ぶ。エンジンオイルの量は30リットル以上で、生涯走行距離は100万キロを超えるという。

 いづみ自動車の社員たちは、車両整備や定期点検に全力で取り組むことにより、このような乗用車とは比べ物にならないマシンであるトラックの「安心安全な運行をサポートしている」とアピールした。

 続けて伯嘗原さんは、特に今、自動車整備で欠かせない電子制御システムの整備について披露。例えば、普及しつつある衝突被害軽減ブレーキシステムは、実はトラックの技術から始まっていると解説。「エンジニア集団は、日々成長している。未体験の作業や最新技術に進んで挑戦できるガチな仲間を求めています!」と呼び掛けた。

 3番手はエレクトリック(電装)エンジニアの石井貴之さん。カーエアコンや灯火類の修理整備を担当する。「トラックは、ドライバーにとってはオフィス。クーラーやヒーターが効かないと快適に仕事はできない」と話した。

 また、バックカメラの備え付けや整備にも力を入れており、ガソリンなどを運ぶタンクローリー、土砂を運ぶダンプ車など、積載物によってトラックのスタイルが変わるため、車種に合わせたバックカメラを提案し、顧客の安全向上に努めていることを強調した。

 4番手はボディー(車体)エンジニアの藤野寛記さん。彼が携わっているタンクローリーの配管の修理や、事故車の修理、電装、塗装の業務について、車体が大きいために生じる苦労話を交えながら説明した。

 聞き手に注目されたのが、5番手、メカニックエンジニアのバララ・アヌズさん。14年4月にネパールから日本に来た外国人社員だ。日本語学校で日本語を学び、専門学校を経て18年4月にいづみ自動車に入社。現在はメカニックエンジニアとして働いている。

 「もともと乗用車しか触ったことがなく、緊張していた」と話すアヌズさんだが、入社後の研修によって大型車両のことを一から勉強できた。研修ではクルマのことだけでなく社会人としてのマナーも学べたという。

 「最初は分からないことがたくさんあって、僕も頻繁に質問しましたが、誰もが優しく教えてくれました。すごく良い仲間と仕事ができて幸せな生活をしています!」と流暢な日本語で元気よく語った。

写真/バララさん
写真中央がネパールからやってきたメカニック、バララさん。研修ではクルマのことだけでなく社会人としてのマナーも学べたという。いづみ自動車で良い仲間たち恵まれたようだ(写真:清水盟貴)

社員の一体感も伝わった

 最後に、リクルートチームのリーダーでもある営業の竹本俊平さんが総括として、いづみ自動車の3つの特徴を説明した。

 1つは、国家資格である二級自動車整備士を目指すための社内学校「いづみアカデミー」があること。先輩整備士の教育により、3年を目標に資格取得を目指せる。2つ目が、海外事業に力を入れていること。アヌズさんの採用に次いで、スリランカからも1人受け入れ予定だという。また、ベトナムでの教育事業もスタートしている。最後に3年間家賃無料の借り上げ社宅に住むことができることを説明して、プレゼンを締めくくった。

 プレゼン終了後は、質疑応答が行われた。

 大学生からは「二級自動車整備士の資格を取るための社内学校には、入社後に入学するのか?」や「海外進出とは、具体的にどんなものか?」という質問が出た。そのほかの聞き手からは「プレゼンが全員男性だったが、女性社員もいるのか? 募集するのかも知りたい」「有給休暇は取れるのか?」「文系でも入社できるのか?」といった質問が出て、一つひとつにリクルートチームが丁寧に回答した。

 いづみ自動車のプレゼンを、現役大学生はどう感じたのだろうか。

 「発表の声のトーンが聞きやすかった」「プレゼン中、話していない社員も話している社員に合わせてポーズを取ったり、質問を受けたときには社員同士が向かい合って相談したりしている姿にチームの一体感が感じられた。明るい会社なのが伝わってきて、親しみを持って聞くことができた」

 このようなポジティブな意見が多かった一方で、改善点もあったようだ。

 「専門的な話は難しかった。30リットルのオイルが多いのは分かるが、どれくらい多いのか分からず、思考が止まってしまう。ある程度知識のある専門学校生に話す場合と、一般の学生に向けて話す場合とで内容を分けてもいいかもしれない」「業種や職種の説明がたくさんあって、メモをしていると追い付かない。この仕事のポイントはこれ、というのが一言で表されていると良かった」

 これに対して村尾氏も、「学生は一生懸命メモを取ろうとする。その際に、例えば『スマホでどんどん写真を撮っていいですよ』と伝えるなど、フレキシブルさを持たせるのも一つの方法」とアドバイスした。

 そのほか、聞き手からは、次のような意見が出た。

 「最初にプレゼン全体の目次のスライドがあってもよかったのでは」「細かい作業内容も大事だが、それぞれがなぜ今の仕事を選んだのか、何を感じながら働いているのか、人となりを出していったほうが、親近感を持てる」「次のプレゼン担当者にバトンタッチする際に、この人はこういう人です、と紹介しながら渡すのも一案ではないか」

写真/竹本さん
リクルートチームのリーダー、竹本さんは、いづみ自動車の業界の中での先進性をアピールし、プレゼンを締めくくった(写真:清水盟貴)

事前に業界でのポジションを示すと分かりやすい

 今回のプレゼンを受けて、村尾氏がアドバイスした採用プレゼンを魅力的に見せる工夫について、紹介していきたい。

1.プレゼン前は、自分たちで場の空気をつくる

 どれだけ練習を積んでも、プレゼンは緊張するものだ。いづみ自動車は、円陣を組み掛け声によって、仲の良さをアピールできるとともに場の雰囲気を温めることができた。「シーン……」とした雰囲気から話し始めるのは誰でも緊張する。その場合は、掛け声でなくても、自分たちで拍手をしてから始めることでも場を温められる。説明会にはさまざまなシチュエーションがあるので、自分たちで場をつくる意識が大切だ。

2.写真は社員の顔が写ったものを選ぶ

 プレゼンの中で紹介する写真は、できるだけ社員の顔が見えるものを選ぶ。さらに表情が見えるように大きく使うと、会社や社員の雰囲気が伝わりやすくなる。

3.ユニフォームは新品ではなく一度洗っておく

 いづみ自動車は、採用活動のために、リクルートチーム専用のユニフォームを新調した。全員が同じ服装でプレゼンをすることで、一体感が生まれる。ただし、新調したばかりだと折り畳んでいた際のシワが付いているなど「下ろしたて感」が出てしまうので、一度洗って体にフィットさせると、より見栄えがよくなる。

4.スライドの1枚目に、業界動向をまとめておく

 まず自社が属する業界の平均年齢、社員数など、全体傾向を見せておくと、その後のプレゼン内容が伝わりやすくなる。学生が入社を躊躇するような、いわゆる斜陽産業の場合は、時代の動きに合わせて、新しい取り組み(海外展開や、新技術の開発など)をしていることをアピールするとよい。

5.立つときの姿勢は、右手を隠して前で組む

 リクルートチームが前に出て、横一列に並ぶ場合は、立ち姿勢をそろえるとよい。このとき、腕を組むのは「拒絶」の印象を与えるためNG(no good)で、体の前で軽く手を組む姿勢がベスト。右手は武器を持つ手と言われているので、左手で右手を隠すように組む。

6.すぐに答えられない質問が出たら、その質問を繰り返す

 質疑応答では、どの種類の質問に誰が答えるのかをチームで決めて、想定質問に回答する練習をしておくとよい。とはいえ、想定外の質問は必ず出てくる。答えに詰まったときは「受けた質問を繰り返す」というテクニックがある。例えば、「残業はありますか?」と聞かれた場合、すぐに答えずに「残業ですか? 残業はですね……」と一度繰り返してから答え始めると、頭が整理できる。そのスタイルを練習しておく。

 以上のポイントをぜひ、自社の採用プレゼンでも役立ててほしい。

 最後に村尾氏は「業界自体を次世代の憧れにしていくことがすごく大事。いづみ自動車には、そのパワーがある。自動車整備の業界をけん引し、次世代の憧れの存在になってほしい」といづみ自動車のリクルートチームにエールを送った。

 今回のアドバイスを踏まえ、さらに採用プレゼンをブラッシュアップさせていくいづみ自動車。これからの採用活動に注目していきたい。――この後、いづみ自動車は会社紹介の動画撮影に臨んだ。リクルートチームが中心となって準備を進め、当日の進行役を担い、魅力的な動画に仕上がった。

全員写真
写真中央はいづみ自動車の社長、田村圭氏。同氏は、すごサイを通して、プレゼンがうまくなっただけでなく、自社を深く考える人材になったと、社員の成長ぶりに目を見張ったという
すごい採用プロジェクト「すごサイ」の詳細はこちらから

この記事でご紹介しているいづみ自動車様の動画もご覧いただけます。
https://nvc.nikkeibp.co.jp/sugosai/201801/