2019年も、多くの企業が積極的な採用活動を展開すると見られ、中小企業が採用に苦労することに変わりはなさそうだ。厳しい採用環境が続く中、ブランド戦略のコンサルタント・村尾隆介氏は独自のブランディング手法を用いることで、中小企業の採用をバックアップしてきた。
 村尾氏は特に、求職者のための合同企業説明会などでのプレゼン力を付けるための指導に力を入れている。今回、同氏のプレゼン特訓に臨んだのは、高知県土佐市の廣瀬製紙。特別に大学生3人にも参加してもらい、リアルな質疑応答が繰り広げられた。廣瀬製紙のリクルートチームはこれにうまく対応できただろうか。

 廣瀬製紙は高知県土佐市の自然に囲まれた環境の中にある。創業は1958年で従業員はおよそ140人。同社は不織布製造の分野で、高い技術を持っており、我々に身近な製品も数多く製造している。

 例えばカステラの上にぴったりかぶせてあるシート。剥がしてもカステラがくっ付かない仕様には独特の製造ノウハウがある。また、花粉を99%カットする三次元マスクなどにも同社が開発した技術が使われている。

 現在、特に売り上げが伸びているのは、海水を淡水化し、生活に使用できる水に変えるフィルターだ。日本には豊富に水があるが、海外では深刻な水不足に悩んでいる国も多い。そのような国で廣瀬製紙の技術が役に立っているという。現在、取引先の7割を海外が占めている隠れたグローバル企業なのだ。

 ところが、優れた技術や製品を持っている同社も、そのことをうまくPRできず人材不足に苦しんでいるという。

村尾隆介(むらお・りゅうすけ)氏
村尾隆介(むらお・りゅうすけ)氏
中小企業のブランド戦略を手掛けるコンサルタント。スターブランド社の共同経営者・フロントマン。14歳で単身渡米し、米ネバダ州立大学教養学部政治学科を卒業後、本田技研工業に入社。退社後、食品の輸入販売ビジネスで起業。事業売却を経て現職。日本に中小企業のブランディングブームを起こした第一人者。『今より高く売る!小さな会社のブランドづくり』(日経BP社)など著書多数。日経BP総研 中堅・中小企業ラボの客員研究員として、すごサイ(すごい採用プロジェクト)を監修する(写真:鈴木達文)

 今回、同社の5人のリクルートチームメンバーがプレゼン特訓に臨んだ。プレゼン発表会に参加したのは、リーダーを務める専務取締役の馬醫(ばい)光明さんをはじめ3人。残りの2人は業務の都合により、録画映像での参加となった。

 村尾氏は練習会に当たり「今日は実際に学生が参加してくれています。緊張していると思いますが、何より楽しんで話すことが大事。それが学生にも響き、ファンをつくることにつながります」とアドバイスした。

 まずはトップバッターである専務の馬醫さんが会社の全体を紹介した後に、営業・製造・品質・経営管理グループの各メンバーが部門の業務内容を説明する流れだ。

 馬醫さんがアピールしたのは大きく3点。「業界初、世界初にこだわったものづくり」、海外の取引先が7割の「グローバル企業である」こと。そして、UターンやIターン、大企業出身者など「豊富な人材が集まっている」ことだ。

 そんな廣瀬製紙が求める人材は、「自然が大好きな人」「ロダン顔負けなくらい考える人」「(坂本)龍馬みたいに行動する人」だと伝えた。

まず専務の馬醫さんが登場し会社全体を説明した。「業界初、世界初にこだわったものづくり」、海外の取引先が7割の「グローバル企業である」こと。そして、UターンやIターン、大企業出身者など「豊富な人材が集まっている」ことをアピール
まず専務の馬醫さんが登場し会社全体を説明した。「業界初、世界初にこだわったものづくり」、海外の取引先が7割の「グローバル企業である」こと。そして、UターンやIターン、大企業出身者など「豊富な人材が集まっている」ことをアピール

業務内容とやりがいを語る

 2番目は、中途入社2年目の杉本圭央さんが営業の業務について紹介。営業は会社の司令塔で、お客様の声を開発の現場に伝えることが役割だと説明した。

 また、海外のお客様と接することができるのが魅力で、引き合いもどんどん増え、やりがいがあると熱弁を振るった。営業を繰り返して製品化が実現すれば、お客様が長期間ファンになってくれる、また製品を購入してくれるという流れにもやりがいを感じると披露。

 3番目は映像でのプレゼン参加となった製造チーム。まず、紙の製造工程を詳細に説明。そのうえで、製造チームは休みの日も一緒に出掛けるほど仲がいいと雰囲気の良さをアピールした。

 製造現場にあるやりがいとしては、技術を習得できたときに成長を感じる点を挙げた。そして、自分たちが製造した製品が店頭に並んでいるのを見ると、自分の仕事が社会の役に立っていることを実感できることも充実感につながっている。

 4番目は、同じく映像での参加となった品質向上グループ。製品の品質をチェックし、改善を提案する役割を担う。やりがいは、チームで仕事を成し遂げたときの達成感だと話した。

 最後は、リクルートチーム唯一の女性である経営管理グループの小松知栄さんだ。

 経営管理グループは、原価管理やコストダウン計画などの財務管理から人事、外国人インターンシップの受け入れ、社員教育と幅広い業務を4人の社員でこなしている。自分たちは経営の羅針盤であると話した。

 やりがいは、自己成長を感じられたときだという。経理や特許、法務など、専門的な知識が求められるので勉強が欠かせないが、難しいからこそ日々成長できると語った。

 プレゼン終了後は、本番の企業説明会と同様に質疑応答が設けられ、実際に大学生からさまざまな質問が出た。

 まずはRさんから「入社したら、いろいろなグループで仕事をするというよりは、一つの仕事を極めるというイメージなのか」という質問があった。入社後の仕事内容やその後のキャリアパスは学生にとってやはり気になるポイントのようだ。

 これに対し、馬醫さんは「事務職の経理や営業、生産管理、購買など多様な業務があるが、面接で適性を判断して配属を決める。最初の部署で3~5年働き、その後本人の希望を聞きながらローテーションしていくことが多い」と返答した。

 Kさんからは「今、最も力を入れている製品は何ですか?」という具体的な質問が出た。

 これに対しては、「海水の淡水化フィルターは世界中でマーケットが広がっている。また、今後は再生医療分野にも挑戦していく」と馬醫さんが返答した。

 グローバル展開について興味を示したのはAさん。「具体的に、どの地域の国と関わりが深いのか、また出張や会議など交流の仕方はどのようなものがあるのか教えてほしい」と、現場の様子を知りたがった。

 馬醫さんは「取引先はいろいろな地域に及ぶが、アジアでは中国や韓国が多い。英語圏は現地の代理店を通しており、将来的には自社の拠点を設立したいと考えている。今後注目しているのはベトナム。ベトナムからの採用も強化したい」と話した。

 経営や業務内容に関する質問が続いた中で、Rさんから根本的な質問が飛び出した。「皆さんは、なぜ廣瀬製紙に入社されたのでしょうか?」というものだ。メンバーそれぞれが入社当時を思い出して回答していった。

 営業の杉本さんは「もともと海運代理店で仕事をしていた。そのときに得た貿易書類の作成といった自分が持っている知識を、取引先の7割が海外である廣瀬製紙で生かしたいと思った」と話した。

 経営管理の小松さんは「父親が廣瀬製紙で働いていたという縁はあったが、初めはまったく興味がなかった。しかし、ナノファイバーの事業が立ち上がった際に、人材を募集しており、今までにないものを作るという挑戦に、自分も協力したいと思った」と言う。

 馬醫さんは「もともと大手メーカーに勤めていたが、海外の事業を畳むことになり、メンバーのリストラをしなければならなかった。精神的に疲れて、妻の実家である高知で新たな生活を始めた。地方なのに、最先端の技術を持つ廣瀬製紙の存在を知り、興味を持った」と振り返った。

プレゼン終了後、学生はプレゼンターに対し彼らの入社理由を聞いた。馬醫さん(左)、小松さん(中)、杉本さん(右)は照れながらも当時のことを正直に語った
プレゼン終了後、学生はプレゼンターに対し彼らの入社理由を聞いた。馬醫さん(左)、小松さん(中)、杉本さん(右)は照れながらも当時のことを正直に語った

村尾氏講評「フォーマット化を崩す工夫を」

 質疑応答を終わった時点で、大学生たちの感想をもとに、村尾氏が講評した。

 大学生のAさんが、廣瀬製紙の事業や仕事はまったく知らない分野の話で、専門用語が多かったと戸惑い気味だったことに対し、村尾氏が次のように対策をアドバイスした。

 「社会人になって時間がたつと、当たり前だと思って使ってしまう言葉も、大学生には意味が分からないことが多い。専門用語は使わず、丁寧な説明を心掛けるべき。例えば、単に海水から淡水化すると言っても、ピンと来ないので、世界情勢やニュースの内容から入ると親しみがわく」

 また、同じAさんからは「プレゼンターの全員が、仕事のやりがいを紹介します、と言っていたのが”言わされている感”があり、本当のやりがいには聞こえなかった。もう少し自然な形で導入できると良かったのでは」という鋭い指摘もあった。

 関連してRさんも、「仕事のやりがいとして、達成感や自己成長を挙げるのはやや当たり前に感じた。もう少し、こういう仕事で何を達成できてうれしかった、など、具体例があると気持ちが伝わったと思う」と感想を伝えた。

 これらに対して村尾氏は、「良くも悪くも、学生たちはプレゼンターを見透かしていて、フォーマット通りに言わされているというのは敏感に感じるもの。そこを崩していくのも工夫のしどころ」と話した。

 全員が同じタイミングでやりがいに触れるので、言わされている感が出た。そこで、5人中2人はプレゼン中ではなく、終了後に「ここで学生からよく聞かれるのがやりがいは何だという話ですが……」とつなげていくことを村尾氏が提案。プレゼンのパターンを崩すことで、フォーマット感が薄まるのだ。

「どうキャリアアップできるか」の説明も

 このほか、村尾氏からは、唯一の女性である小松さんには、学生が気になる女性としての働き方、キャリアアップについてぜひ語るべきというアドバイスがあった。

 女性の働き方について説明する際も、プレゼンがすべて終わったあとに質疑応答のような形でプレゼンターのほうから「ここでよく聞かれるのは女性の働き方についてなのですが~」と話していくと自然な形になる。このように一つ目の質問を自分たちで導入すれば、学生たちからも質問が出やすくなる効果もあるという。

 また、グローバル企業についてのアピールについては、「取引先の7割が海外」と聞いても、そのすごさは学生には伝わりづらい。「ホンダやキッコーマンと同じ割合だ」と比較して説明すると、中小企業でも興味を引きやすくなると村尾氏は指摘した。

 ただし、あまりグローバル企業であることを強調しすぎると、今度は英語が苦手な学生は不安に思ってしまう。そのため、入社後に語学のフォロー研修があることなどを一言伝えることで不安が払拭される。

 製造技術や財務の専門技術についても同様で「好きであることは大事だけれど、今技術が習得できていなくても大丈夫。入社後に習得できる」ということを伝えるとよいと村尾氏はアドバイスした。

 特訓後、すぐにも本格的に採用活動に取り組んでいくという廣瀬製紙。大学生の意見を参考に、一層プレゼン内容をさらに磨き、どのような人材を獲得していくのか、注目したい。

廣瀬製紙は、2018年12月1・2日に大阪と東京で開催された「高知就職・転職フェア2018冬」に出展。プレゼン力を高めただけでなく、ブースを飾る椅子カバーや写真入りタペストリーなども用意して臨んだ。東京会場(写真)では、馬醫さんの説明にじっくり聞き入る参加者の姿があった
廣瀬製紙は、2018年12月1・2日に大阪と東京で開催された「高知就職・転職フェア2018冬」に出展。プレゼン力を高めただけでなく、ブースを飾る椅子カバーや写真入りタペストリーなども用意して臨んだ。東京会場(写真)では、馬醫さんの説明にじっくり聞き入る参加者の姿があった

 (本記事は、日経ビジネスオンライン「欲しい人はこう採れ! 中小企業の採用最前線 」2018年12月28日掲載の記事を一部改編したものです)

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