すごサイアワード2019

中小企業が“失敗しない”採用活動とは?

就職生の感性を尊重しよう

中小企業の“採用ブランディング”を提唱する村尾隆介氏は「エリア、業種、歴史に関係なく、現代の採用市場では中小企業が一人負けの状態」と話す。そんな村尾氏と日経BP 日経BP総研は、中小企業の採用力を高める「すごい採用プロジェクト(すごサイ)」を実施してきた。村尾氏のブランド力向上の手法を用いることで、企業説明会でのプレゼンのスキルアップはもちろん、若者が魅力的と感じる会社づくりを目指せる。実際、すごサイに取り組んだ中小企業は、短期間で採用力を高めている。2019年度の活動報告会「すごサイアワード」にて、村尾氏が採用活動の秘訣を改めて伝授したのでリポートする。

 2019年11月、都内で「すごサイアワード2019」が開催され、50人以上の中堅・中小企業の経営者、採用担当者が集まった。会社説明会で手応えを感じない、学生からのエントリーが来ない、せっかく採用してもすぐに辞めてしまう……そんな悩みを解決するために立ち上げられたのが「すごサイ」だ。

 「採用ブランディングとは、就活生や転職者に会社を魅力的に見せること。採用は新規事業と同じくらい重要。どれだけ良い商品、サービスを提供しても、人手が足りなければ会社は倒産してしまう。11月の今から準備をすれば、2020年度の採用に間に合う」と会の冒頭で村尾隆介氏は参加者にエールを送った。

村尾さんの会場での写真とプロフィール
村尾隆介(むらお・りゅうすけ)氏
中小企業のブランド戦略を手掛けるコンサルタント。スターブランド社の共同経営者・フロントマン。14歳で単身渡米し、ネバダ州立大学教養学部政治学科を卒業後、ホンダに入社。退社後、食品の輸入販売ビジネスで起業。事業売却を経て現職。その成功ノウハウを中小企業に提供している。日本の中小企業にブランディングブームを起こした第一人者。『できる社長は人が採れない』(日経BP)など著書多数。日経BP総研の客員研究員として、「すごサイ(すごい採用プロジェクト)」を監修する(写真:菊池一郎)

 すごサイにエントリーした企業は、各部署の若手社員を中心に5~7人ほどのリクルートチームを結成する。チームのメンバーは学生に向けた会社紹介のプレゼンを特訓し、1年を通して採用活動を引っ張っていく。

 これまでパワーポイントを使ったことすらなかった社員でも、村尾氏のアドバイスにより魅力的なプレゼンができるようになる。そのプレゼンスキルが本業にも生き、会社全体のプレゼンのレベルを上げることができるのも、すごサイの特徴だ。

動画で会社の魅力をアピール

 今、すごサイで特に力を入れているのが、会社紹介のための動画制作だ。村尾氏が監修して制作した4分ほどの動画を会社のコーポレートサイトやYouTubeにアップする。

 「動画は静止画の約5000倍の情報量が詰まっていると言われている。今はグーグルで企業を検索するのではなく、まずYouTubeで映像がないかを検索する学生が多い。その傾向は今後ますます高まっていくだろう」と村尾氏は説明する。

 どのような動画が出来上がるのか、2019年のすごサイで制作した4社の事例を紹介した。音楽に乗せて、社員たちの働く姿や休憩時間の様子が映し出される。モデルを使わず、実際の社員に登場してもらうのがすごサイ流だ。

 中には社長が趣味の手品を披露した会社もあった。「中小企業は社長との距離が近いことが一番の魅力。笑顔の静止画と自己紹介文よりも、動きが加わることで情報が増える。動画では社長の人となりを伝えてほしい」と村尾氏は話す。

手品社長動画場面
電巧社(東京都港区)の企業紹介動画。代表取締役社長の中嶋乃武也氏が自ら登場し、得意のマジックを披露。同社の採用スローガンは「シゴトをアソベ!」。コーポレートサイトにはマジックコーナーもあり、柔軟な発想の持ち主を応援するというメッセージも伝えている(写真:菊池一郎)

 また、学生が最も気にするランチのシーンは入れたほうがいいとアドバイスした。自分がこの会社に入ったら、どんな雰囲気で働き、どんな社会人生活を送れるのかを伝えるのが動画の役割なのだ。

 制作した動画は会社のコーポレートサイトにアップするだけでなく、会社説明会の冒頭や締めで流すと効果的だ。動画制作に加わったことで、既存社員のモチベーションもアップするという。

 2019年度にすごサイプロジェクトに参加したいづみ自動車(千葉県市原市)も動画を制作した。会場ではこの動画も紹介された。社内でも「カッコイイじゃん!」と社員たちからの評判も上々で、同社は「すごサイフィルムアワード」を受賞した。

 18年度の採用は惨敗だったといういづみ自動車。「20年前くらいまでは、採用に苦労していなかったが、だんだん厳しくなった。ついに一人も採用できない年もあった」と田村圭社長はこれまでの採用活動を振り返った。

 18年11月に開催された、前回の「すごサイアワード2018」に参加した田村社長は、その場ですごサイに取り組むことを決意。1年間の活動の結果、19年度はこの時期に既に9人の内定者を出した。

 19年度の採用活動について田村社長は「営業、整備、車体担当など、部署がバラバラの6人で編成したリクルートチームだったが、皆こんなに上手にそれぞれの役割を持ってプレゼンできるとは思わなかった。驚いた。社内では、彼らが、採用がいかに大変で重要かについて発信してくれたため、会社全体の意識も高まった。会社説明会では、プレゼンが圧倒的に格好いいので、学生たちから注目を浴びる。すごサイは採用活動と社員の成長における最高の場。投資以上の成果を得られた」と採用活動に満足している様子を見せた。

いづみ自動車の動画の一場面
いづみ自動車(千葉県市原市)のリクルートチーム。左端が代表取締役の田村圭氏。
「すごサイで社員のポテンシャルをより引き出せた」とその実感を語っていただいた(写真:菊池一郎)

 会場からは「当社は地味な製造業。映像をあまりに格好良く作りすぎると、実際に学生が入ったときにギャップはないのか」と心配の声も寄せられた。これに対して村尾氏は「あまりによく見せてしまって、入社後にがっかりさせるのは採用詐欺に当たる。格好よくし過ぎないギリギリのところで作る。同時に急ピッチで会社の魅力を高めていく努力もする」と説明した。

中小企業が採用で失敗する理由4つ

 中小企業経営者向け月刊誌『日経トップリーダー』の発行人である伊藤暢人氏と村尾氏の共著『できる社長は人が採れない』が19年10月に発行された。この本には、村尾氏の採用ブランディングが詳細に紹介されている。

 会の後半では、この2人による「失敗する採用活動」をテーマにした対談が実施された。伊藤氏によると、「採用がうまくいかない会社には、必ず理由がある」という。

 まずはコーポレートサイトや説明会で発信している内容と、実際の会社にギャップがあること。例えば、採用面接の1時間前に会社に行き、トイレや喫煙室を使う学生もいる。学生たちは実はしっかりと社員たちの会話を聞いているのだ。喫煙所などでお客様や会社の文句を言っている会社も多いという。

 「やりがいを感じられる仕事」「アットホームな雰囲気」とどれだけアピールしても、二面性が見えたら学生たちは冷めてしまう。エレベーターなどでの会話内容にも注意しよう。

 トイレも重要なポイントとなる。「今どきの大学のトイレはとても奇麗なので、昔ながらの、薄汚れていたり、寒々しかったりするトイレは早々に手を加えるべき。男女共用は問題外だ」と村尾氏は断言する。「トイレはイヤなことがあったときに心を落ち着かせる場所でもあり、温かさが重要。ライトの色味を変えるだけでも雰囲気が変わる」と説明した。

 次に、「社長の服装がカッコ悪い」のも採用に失敗する一因になり得ると村尾氏は言う。昔ながらの“背広”ではなく、細身で体にぴったり合うサイズにするだけで、若く見える。

 「服装なんて……と思うかもしれないが、今の若者は見た目が大事。中小企業の魅力は、社長の魅力でもある。若手が一緒に働きたいと思える社長像が大事。社長がファッション改革をした会社は、採用に成功している」と村尾氏はその大切さを訴えた。

社長ファッションのビフォアアフタ
中小企業の魅力は、社長の魅力。村尾氏は社長のファッション改革やコーポレートサイトに掲載する写真の刷新を勧める。上の画像はすごサイでできる改革の一例(写真:すごサイの案内パンフレットから抜粋)

 「ユニフォームがダサい」のも失敗につながる。特に建設業や製造業は、上下同じ色のいわゆる“作業着”で仕事をする会社が多い。女性が少ない業界では、今も男性のSサイズを渡され、女性はダボダボのまま着ていることもある。

 「ポイントは、女性にもピッタリのサイズを用意すること、上下の色を分けること。1日の大半を着て過ごすユニフォームを、若者が着たいと思えるように改革してほしい」と村尾氏は呼び掛けた。

 最後は「会社のメッセージが学生に伝わらない」こと。企業理念は「関わるみんなを幸せにする」など漠然としたメッセージが多く、学生はどの会社も同じように感じてしまうのだ。そこで村尾氏は、何をしている会社で、何を目指しているのかを分かりやすく伝えるために「コーポレートメッセージ」を作ることを提案する。

 村尾氏がサポートする会社の例を挙げると、水質調査のオオスミ(神奈川県横浜市)は「地球のドクター」、介護事業のアール・ケア(岡山県玉野市)は「挑戦はまっ先に。サービスはまっすぐに。」というコーポレートメッセージを作って発信したところ、どちらも前年より大幅に応募者が増えたという。「挑戦はまっ先に」と発信すると保守的な人は応募してこないが、あえてメッセージを明確にすることで、会社が求める人材が集まる効果もあったとのこと。

 「今発信しているメッセージは、学生や転職者向けではなく、取引先などに向けたアピールになっていないか。今一度、自社が発信しているメッセージがきちんと学生や転職者に伝わっているのか、見直してほしい」と村尾氏は語った。

2020年度はインターンに力を入れよう

 今後の採用戦線はどのように変化していくのだろうか。「2020年度の採用シーズンから就活のルールが変わるため、早い段階から学生と接点を持つことが大事になってくる」と村尾氏は言う。つまり、中小企業も「インターン」が採用のポイントになるというのだ。

 「学生の意見を聞くと、インターンのベストな期間は5~6日。インターン中はアルバイトができないため、できれば期間中の仕事に対してアルバイト料を支払ってあげてほしい。独自のインターンプログラムを組み、近くの大学に持って行ってアピールすることが大事。プログラムには名前を付けよう」と村尾氏は説明する。

 山形県の建設会社、市村工務店では、「インターンシップ トライ・アット市村」(略してトライチ)というネーミングで、3日間と5日間の2パターンから選べるインターンシッププログラムをつくった。

 単なる職場体験ではなく、学生が仕事の面白さを感じられる内容にすることがポイントだ。インターンの最終日は、バーベキュー、焼き肉、鍋のいずれかの打ち上げで締めることをアドバイス。皆でシェアするメニューを一緒に食べると、準備力と気遣いを垣間見ることができるからだ。

 会の最後に、村尾氏は次のようにメッセージを送った。

 「採用活動において、学生たちを平等に扱っているだろうか。学生たちからは、面接のときに自己紹介がなかった、話を聞かずにPCを開いて仕事をしていた、という声が挙がっている。丁寧に扱っているつもりで、どこかで人生の先輩感を出したり、会社に入れてやるよ、という雰囲気を出していたりすることがある。今一度見つめ直してほしい。学生は人生を懸けて、本気で会社を選んでいる。まずは本気で取り組むこと。そうすれば結果は必ずついてくる」

 今後も、すごサイでは中小企業の採用活動を支援していく予定だ。2020年度の採用市場で、多くの中小企業が活躍できることを期待したい。

中堅・中小企業のための採用力アッププログラム
すごい採用プロジェクト(すごサイ)

詳細やお申込みはこちらから
https://nvc.nikkeibp.co.jp/sugosai/201801/

これまでの事例もぜひご一読ください。
https://www.nikkeibp.co.jp/bpi/case/