趣味の一つは投資の本を集めること。証券アナリスト、ファンド・マネジャーとして長年活躍し、『投資をするならこれを読め』の著者でもある太田忠氏に、ニューノーマルの時代に読んでおきたい投資本5冊をあげてもらった。

 2020年──。数字の語呂的にも非常に良い響きだし、何よりも東京にオリンピック・パラリンピックがやって来るはずの年だった2020年。それが新型コロナショックというパンデミックにより、世界中の人々が日常生活に大幅な制限を強いられ、経済も大幅に悪化。間もなく1年が経過しようとしているが、新規感染者数は増加の一途をたどるばかりで出口が見えない状況になっている。

 当然のことながらマーケットも大きく揺すぶられた。新型コロナ流行初期の株式市場の下げ方は、瞬間風速では過去のどの急落局面よりも悲惨な状況を呈した。その後は経済回復への期待感やコロナワクチン開発の動きで急速に戻して、逆に実体経済から乖離(かいり)するほどの上昇を演じている。

 「人々の常識から外れた値動きが頻発する」というのが、ニューノーマル時代のマーケットだと私は考えている。そこで、そうした状況でもマーケットに立ち向かうことのできる名著のエッセンスを紹介したい。

成功の秘訣は「心の状態」にある

 マーケットの次の展開を知る必要はない、稼げるかどうかは分析力ではない、投資家としての成功は邪念や恐怖心がなく自分の思い通りに行動できる心理状態、すなわち「ゾーン」の心を持っているかどうかにかかっているというのが『ゾーン 相場心理学入門』の筆者の主張だ。

 成功するトレードを実行するためには「一貫性」を手に入れること。これは自分の信念と姿勢によってのみ形成されるものであって、マーケットの中にはない。マーケットは何が起ころうとも常に中立な存在であり、どの瞬間にも様々な情報を発している。それがどのような意味を持つのかは、自分の判断力次第である。そして、投資機会や損益を決定するのはマーケットではなく自分自身である。

 「マーケットでは何事も起こり得る」という考えを持つことによって、トレードを確率で捉えることが重要だ。優秀なトレーダーは「自分の規則に厳格であり、自分の期待に柔軟である」のに対して、典型的なトレーダーは「自分の規則に柔軟であり、自分の期待に固執する」傾向が強い。

『ゾーン 相場心理学入門』マーク・ダグラス(著)、世良敬明(訳)、パンローリング、2002年
『ゾーン 相場心理学入門』マーク・ダグラス(著)、世良敬明(訳)、パンローリング、2002年

自分のタイプを知っておこう

 『投資の行動心理学』も株式市場で成功するかどうかは投資家の心理面によるところが大きい、との主張がメインだ。まずは第8章にあるチェックリストで自分の投資家指数を測定し、自分がどのような投資家であるのかを客観評価してから本文に進んでほしい。

 多くの投資家はトレーディング手法のせいではなく、鍛錬不足によって損失を被っている。テクニカルであれファンダメンタルズであれ、自分が決めたルールに従わなければ何も学ぶことはできない。自分のルール以外のマスコミ、ブローカー、友人などの外部情報に惑わされることが多ければ、常に間違った学習をしていることになる。ほとんどの投資家はいくつもの変数を取り込んで、行動を複雑にしている。

 例えば、マーケットで最も利益を得ることのできるトレード手法はトレンドに追随することである。長期トレンドに限らず、短期においてもトレンドはしばしばマーケットに現れる。しかし、トレンドに従うトレードは投資家にとって最も難しい部類に入る。「ブル(強気)マーケットでブルになり、ベア(弱気)マーケットでベアになる」という極めて単純なことさえもなかなか行えない。

 明らかに悪い決算内容が出ているのに即行動できない投資家は株価が継続的に下落している最中にも、もうすぐ状況は改善すると期待している。そして、ついに反転の動きが始まる前のパニック的底値で買い増すことはせず、まさにその状況で全株を売却するのだ。これは典型的な事実誤認の行動であり、多くの人が事実誤認によって自分の立場を正当化しようとする。損失が膨らんでも損失を現実のものとみなさないのは認知の喪失である。

『投資の行動心理学』ジェイク・バーンスタイン(著)、青木 俊郎(訳) 東洋経済新報社、2017年
『投資の行動心理学』ジェイク・バーンスタイン(著)、青木 俊郎(訳) 東洋経済新報社、2017年

地球上にもう「フロンティア」はない

 「金利ゼロ」「利潤率ゼロ」がグローバル的に進む危機の時代に警鐘を鳴らす書が『資本主義の終焉と歴史の危機』だ。戦後経済の常識の多くが通用しなくなり、世界経済を支配する法則が一変した。IT革命とそれを駆使するグローバリゼーションが原動力となり、今までの資本主義は終止符を打ちつつある。先進国における利潤率の低下が超低金利を引き起こし、「インフレがすべてのけがを治す」という従来の発想は有効ではなく、弊害ばかりが大きくなっている。

 資本主義は「中心」と「周辺」から構成されているが、もはや地球上のどこにも「周辺」となるフロンティアは残されていない。「中心」が利潤率を高めることで資本の自己増殖もできなくなっている。さらに重要なことは、中間層が自分たちを貧困層に落としてしまうかもしれない資本主義を支持する理由がなくなっていることである。

 資本主義はすべての人々を豊かにできる仕組みではなく、少数の人間が利益を独占するシステムだ。世界の総人口のうち豊かになれる定員は15%であり、先進国の15%の人々が残りの85%から資源を安く輸入して利益を享受してきた。だが、今や先進国には「周辺」がないため無理やり作り出そうとしている。リーマンショックの引き金となったアメリカのサブプライム・ローンは「国内の低所得者」(周辺)に住宅ローンを貸し付けて、証券化することで「ウォール街」(中心)が利益を独占した。日本では労働規制を緩和して「非正規雇用者」(周辺)を増やして、「企業側」(中心)が浮いた社会保険や福利厚生のコストを利益にしている。

『資本主義の終焉と歴史の危機』水野和夫(著)、集英社新書、2014年
『資本主義の終焉と歴史の危機』水野和夫(著)、集英社新書、2014年

インデックス・ファンドはドリーム・チーム

 次に紹介するのは『敗者のゲーム』だ。テニスの試合において、プロのゲームとアマチュアのゲームとではまったくその性質が異なる。プロのゲームにおいては、得点は勝者側の狙いが的確に決まったときにはじめて獲得できる。これはまさしく、自ら得点を勝ち取ることが勝利を導くという意味において「勝者のゲーム」だ。一方、アマチュアのゲームにおいては自らのショットが見事に相手側のコートにヒットするなどめったになく、敗者側が一方的にミスを重ねることで結果的に勝者が出来上がる。これが本書の題名にもなっている「敗者のゲーム」であり、株式運用の世界においては、こうした性格が極めて強い。

 なぜ、機関投資家は市場に勝てないのか。それは機関投資家そのものが市場であり、機関投資家全体としては、自分自身に勝つことができないからだ。ここに、インデックス・ファンドのありがたみがある。この非創造的で、安上がりで、頭を使わず、退屈である運用方法が長期的には多数のプロの機関投資家の成績を凌駕(りょうが)できる。インデックス・ファンドとは投資の「ドリーム・チーム」を結成したようなものであり、トップファンド・マネジャーやトップアナリストたちの投資判断を漏れなくひとつにまとめた結果を出してくれる。アメリカで最も成功している投資家であるウォーレン・バフェットですら、個人投資家はインデックス・ファンドの利点をもっと理解すべきだと述べている。

『敗者のゲーム 原著第6版』チャールズ・エリス(著)鹿毛 雄二(訳)、日本経済新聞出版、2015年
『敗者のゲーム 原著第6版』チャールズ・エリス(著)鹿毛 雄二(訳)、日本経済新聞出版、2015年

証券マンとしての豊富な経験が随所に

 『株式投資これだけはやってはいけない』では、株式投資をする上で「やってはいけない」ことが次々とリストアップされている。著者は山一證券で個人営業から経済調査、株式およびデリバティブディーラーなどの業務をこなし、あの倒産劇に直面した証券マン。豊富な経験が随所に生き生きと垣間見え、株式投資が分かり始め「もう少し本格的に取り組みたい」という人々にとっての好著だ。

 真面目な人ほど自分の成績に満足せず、投資技術向上のために勉強する。だが、勉強のしすぎは禁物だ。知識や情報が増えると、判断材料が多すぎて迷いが生じる。もうかっている人は自分のやり方をワンパターンで継続すべきである。株式市場は自分の戦う相手が分からないからこそワンパターンが生きる。もうからなくなってきてはじめて、新たな何かを求めて動き出せばよい。うまくいっている投資家は書籍、セミナー、マネー雑誌、投資番組などに翻弄されてはいけない。

 また、多くの投資家が陥る新値銘柄への逆張りは地獄への第一歩である。新高値銘柄を売ることと新安値銘柄を買うことは避けるべきだ。株価はいったん方向性が定まると、しばらく同じトレンドが継続する。新高値銘柄を信用で売った本人は「天井で売った」つもりになって喜ぶが、そのまま担ぎ上げられて損失を拡大させる。新安値銘柄を「底値で買った」つもりになっても、その後も下落が継続してなかなか損切れない。プロのトレーダーたちが投資対象とするのは新値銘柄だ。新高値銘柄を買い、新安値銘柄を売って短期的な勝負をする。したがって、この逆をやると多くのプロを敵に回すことになる。

『株式投資これだけはやってはいけない』東保裕之(著)、2006年、日経ビジネス人文庫
『株式投資これだけはやってはいけない』東保裕之(著)、2006年、日経ビジネス人文庫
『株が上がっても下がってもしっかり稼ぐ投資のルール 新版』
『株が上がっても下がってもしっかり稼ぐ投資のルール 新版』太田忠著、日経ビジネス人文庫、2020年

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 あなたは、「株を買った。でも持っているだけ」ではありませんか? 上昇相場では誰でもたやすくもうけられる。しかし、いつかは調整局面がやって来る──。目まぐるしくマーケットが変動する時代の投資法を、豊富なアナリスト、ファンド・マネジャー経験を持つプロが指南します。(日経ビジネス人文庫は創刊20周年