BCGやアクセンチュアで戦略コンサルタントとして活躍し、無類の本好きとして知られる三谷宏治氏に、「ニューノーマルの時代にこそ読みたい本5冊」について伺った。曰く、「近視眼に陥らず、人類史・ウイルス史レベルでものごとを考えることが重要」とのことで、人類・ウイルスの歴史的経緯を学ぶことができる5冊のおすすめ本をご教示いただいた。

COVID-19でわかった日本の弱点と世界各国の状況

 われわれは常に近視眼的である。日々の関心事は、温暖化などの気候変動より、株価や経済、政治動向などであり、さらには家庭の細事である。今回の米国大統領選でも私はほぼ3日間、ほとんど寝ずにCNNの特番放送を見続けた。これは今後4~8年の世界政治・経済に大きな影響を及ぼすというだけでなく、おそらくはトランプが数年前に行った「政治のバラエティショー化」の影響でもあるだろう。お陰で人々は(私も含め)次期大統領を、その政策や実行力ではなく、「好き嫌い」で選ぶこととなった。これはなんら、家庭の細事と変わりない。近視眼的なわれらにピッタリだ。

 話は脱線したが、この寄稿文のテーマは「ニューノーマル」だそうだ。よくわからない新語の意味を問うても詮無いので、とりあえずは「COVID-19でわかったこと」を書くこととしよう。そしてその結論を一言で言うならば、「近視眼に陥らず、人類史・ウイルス史レベルでものごとを捉えよう」だ。

 「わかったこと」の第一は、COVID-19がこれまでにない特異な感染症であったことだ。「感染力も致死率も中程度」なのだが、「発症前に感染する」ところがなんとも困った点。しかも高齢者や合併症のある者は重篤になるが、若者ではなりにくいので動き回って、感染範囲が非常に拡がりやすい(重篤になりやすい感染症は、感染源がすぐ動けなくなるので、逆に感染は拡がりにくい)。

 しかし未知のウイルスであったことはどこでも同じなのに、その感染者数や死者数は国・地域によって2000倍以上も違う。人口100万人あたりの死者数は(2020年11月10日現在)、米国・メキシコ・ブラジル・フランス・イギリスなどが700~800人程度、ドイツは140人、日本が15人、韓国が9人だ。そしてなんと中国のお隣でもある台湾は0.3人にすぎない。つまり未知といいながら、対応次第でもあったのだ。

 台湾は過去のSARS(重症急性呼吸器症候群)の教訓に学んでいた。態勢を整え、即座に行動し、感染症を抑え込み、2020年度のGDPはプラス2%の成長を見込んでいるという。でも日本政府は過去の類似の感染症に学ばなかった。いや、学んで方針も出したけれど、それが実行されることはなく、逆に保健所は縮小された。しかも古代的情報インフラ(FAX)をそのままにしたまま。

 どうも日本という国は、立派な方針は出すが、その実行はとてつもなく遅い(か逆行する)らしい。感染症対策だけでなくIT基本方針うんぬんもそうだった。そしてたまに急ぐととてつもない暴走をする。アベノマスクも9月入学議論も「ただの思いつき政策」の最たるものであった。そこには定量性も論理性もまったくない。もっと学び、ちゃんと考えようではないか。

人類は、ウイルスの独自機能を取り込むことで進化した

 そもそもウイルスとは何だろうか。忌むべき存在というだけなのか。そして感染症はなぜ最近、猛威を振るうようになってきたのだろうか。前者については『破壊する創造者』が、後者については『感染症の世界史』や『10の「感染症」からよむ世界史』が教えてくれる。

 『破壊する創造者』を読むと、ウイルスは単なる破壊者でなく、われわれの遺伝子内に入り込んで、その進化を加速させている創造者でもあるということがわかる。単なるコピーミスによる漸進的進化ではなく、ウイルスが持つ独自の機能を塊ごと取り込むことで、人類はその進化を続け、環境の激変を乗り越え、この繁栄を勝ち取ってきたのだ。

『破壊する創造者――ウイルスがヒトを進化させた』 ハヤカワ・ノンフィクション文庫、2014年、フランク・ライアン(著)、夏目 大 (訳)

人類の文明化が、感染症を拡げパンデミックを引き起こしている

 そして同時に『感染症の世界史』は、その繁栄こそが、この感染症拡大につながっていると教えてくれる。われわれヒト(ホモ・サピエンス)の文明化そのものが、感染症を拡げパンデミックを引き起こしているのだ。ヒトは密林を切り拓いて自らウイルス感染源に近づき、都市化を進めて互いに密になり、交通機関を発達させて感染を遠くへ急速に拡げるようになった。それが文明化であり、感染症、パンデミックの発生理由だ。

『感染症の世界史』 角川ソフィア文庫、2018年、石弘之(著)

約7万年前に急上昇した人類の能力

 『人体600万年史』や『サピエンス全史』にあるように、ヒトの遺伝子的進化はヒトの誕生(20万年前)で一段落している。そこからの変化は微々たるものである。しかしその能力は7万年前から急激に上がっている。弓矢や土器などの道具をどんどん発明して広め、その生活レベルは格段に向上してきた。それこそが文明的進化だ。人類は190万年前、ホモ・エレクトスにより完全な直立歩行を会得し、長距離を歩き走る能力、道具をつくり用いる能力を獲得した。ホモ・エレクトスは発生したアフリカを出、アジアやヨーロッパに拡がった。しかしまだ文明には行き着かなかった。その次のネアンデルタール人たちも。

『人体600万年史:科学が明かす進化・健康・疾病』早川書房、 2015年、ダニエル・E・ リーバーマン (著)、塩原 通緒 (訳)
『サピエンス全史 文明の構造と人類の幸福』 河出書房新社、2016年、ユヴァル・ノア・ハラリ (著)、柴田裕之 (訳)

 『サピエンス全史』によれば、7万年前の「認知革命」こそがヒトを今日の高み(ときどき混沌)に引き上げた理由だという。ヒトは「虚構 Fiction」、つまり架空のものごとについて考え語る能力を身につけたことで、大規模な協力体制を築き、急速に変化する環境に対応できるようになった。これが「認知革命」であり、その中での3大虚構が「貨幣」「宗教」「帝国」だ。確かにこれまで、宗教対立や国家間の紛争こそが、人々を感染症のリスクに晒し、多くの命を奪ってきた。われわれは、こういった虚構をどう使いこなしていけるのだろうか。そして、文明化の必須項目であった「森林開発」「都市化」「交通網」と感染症対策を両立させていけるのだろうか。そしてもし両立できないなら、何を諦めるのだろうか。

文明はウイルス一つで吹き飛ばされるかもしれないからこそ、長期的視点で考えよう!

 私自身、現代はヒトの文明的進化が主であり、遺伝子的進化など今さら考えても仕方ないことと思っていた。しかし今回「COVID-19でわかったこと」の一つは「近視眼に陥らず、人類史・ウイルス史レベルでものごとを捉えよう」ということだった。ウイルス一つがヒトの文明など吹き飛ばしてしまうかもしれないのだから。

 これからの「ニューノーマル」でわれわれが(ヒトとしての存続をかけて)取り組まなければならないことは、なにごとにつけ「近視眼でなく俯瞰的・長期的視点で調べ考える」こと。まずはみんなでジャレド・ダイアモンドの『危機と人類』から読んでみようか。われわれよりずっと未来を生きる、子どもたちのために。

『危機と人類』日経ビジネス人文庫、2020年、ジャレド・ダイアモンド(著)、小川 敏子、川上 純子(訳)
『戦略読書〔増補版〕』
『戦略読書〔増補版〕』三谷宏治著、日経ビジネス人文庫、2020年6月
 本書は、『経営戦略全史』『新しい経営学』などで知られる三谷宏治氏が、ビジネスパーソンに向けて読書法を解説したものです。
 私たちの体が食べたものでできているように、私たちの思考もまた、読んだ本でつくられています。だから、ビジネスパーソンの読書には「戦略」が必要なのです。
 自分の年齢に合わせて読むジャンルを変える「読書ポートフォリオ・シフト」、効率的にリターンを得る「セグメント別ワリキリ読書」、1冊の本からより多くの学びを得る「発見型読書法」など、コンサルタントならではの読書術が数多く紹介されています。(日経ビジネス人文庫は創刊20周年)