「日本人は仕事熱心」という常識は、もはや過去のものなのか。実態は世界最下位クラスだとする調査結果もある。どうすれば、皆が生き生きと働ける場をつくりだせるのか。ベストセラー『さあ、才能(じぶん)に目覚めよう』では、強みに焦点を当てることの大切さを説くが、このことが実際の職場でのマネジャーの仕事とどう結びつくのか。日本エンゲージメント協会代表理事の小屋一雄氏が解説する。

小屋一雄(こや・かずお)
ユーダイモニア マネジメント代表取締役。日本エンゲージメント協会代表理事。ギャラップ社の日本における創業メンバーとして参画した後、グローバル企業にてマネジメント職を歴任。2009年に独立。職場の活性化や人づくりのためのコーチング、研修、コンサルティングなどを行う。サンダーバード国際経営大学院経営学修士課程(MBA)修了。京都大学EMBAコース講師も務める。

 従業員満足度やロイヤルティー以上に生産性と強く相関していることから、近年注目されている「エンゲージメント」というキーワードがあります。エンゲージとは何か。エンゲージメントには「婚約」という意味もあることから、組織とそこで働く個人が「良縁を結んでいる状態」だと捉えると、分かりやすいでしょう。エンゲージメントが実現しているとき、従業員たちは仕事を自分事と捉え、楽しみ、組織に貢献しようと自発的な行動を取る。これは、「滅私奉公」や「指示待ち」とは正反対の状態です。

 いまやグローバル企業のリーダーの4分の3がエンゲージメント向上のための投資を強化しようとしているというデータもあれば、エンゲージメントを株式投資の指標とする動きもあります。米グーグルや米アップルが社員のエンゲージメントを常に向上させようとしているのは有名な話です。エンゲージメントを向上させることで、社員の自発的な活動を促し、創造性を引き出すのです。こうした会社では、マネジャーに求められる最も大切な責務の一つとして、エンゲージメントの向上が掲げられています。

部下たちは皆、生き生きと働いているか?

 振り返って日本はどうでしょうか。2017年に日本経済新聞が掲載したギャラップ社の調査によれば、日本企業における「熱意あふれる(エンゲージした)社員」の割合は6%で、調査した139カ国中132位と最下位クラスでした。一方「やる気のない(エンゲージしていない)社員」は70%、「周囲に不満をまき散らしている無気力な(まったくエンゲージしていない)社員」の割合は24%に達しています。以来、ギャラップ社をはじめとする他のコンサルティング会社の調査結果も見ていますが、その状況はほとんど変わっていません。

 これでは、海外の企業に勝つことなどできないでしょう。経済が成長しているときは、とにかくたくさんの仕事量をこなせば、企業は成長することができました。しかし、低成長にある今、単に多くの仕事をこなしたからといって、成長できるわけではありません。必要なのは、革新を生み出す力です。自発的にアンテナを張り、市場の変化を捉えて、売れる製品やサービスを開発する。そのためにも、従業員には生き生きと働いてもらわなければなりません。

 求められているのは、仕事の「量」でなく「質」であり、その質を高めるのがエンゲージメントです。にもかかわらず、いまだに旧来の仕事のやり方を続けていないでしょうか。コロナ禍の今こそ、これまでのやり方を根本から見直すチャンスです。エンゲージメントの向上は日本のビジネス界にとって喫緊の課題です。

無意識バイアスの罠──エンゲージメントを妨げる要因

 どうすれば組織のエンゲージメントを高められるのでしょうか。カギとなるのが「マネジャー」です。従業員と直に接するマネジャーの言葉や行動が、組織のエンゲージメント、すなわち従業員たちのやる気と直結するからです。

 私は、こうした課題を解決するためのお手伝いをさせてもらっていますが、よく見かけるのが、「無意識バイアス(アンコンシャス・バイアス、あるいは無意識な思い込み)」を持ったマネジャーです。部下を抱えるマネジャーが無意識バイアスを持っていると、エンゲージメント向上の大きな妨げとなります。

 たとえば、従業員が生き生きと働けるようにするためには、何でも思ったことを言い合える良好な人間関係を築き、明確な期待値を伝え、しっかりとフィードバックを行い、成長につなげる育成がマネジャーに求められますが、無意識バイアスが強いとそれができないのです。

 よく見かけるのは、自分とよく似た人を高く評価する(類似性バイアス)、自分が経験したことを正しいと判断する(経験バイアス)といった無意識バイアスです。こうした思い込みを持って意思決定をしていたら、部下たちは「指示待ち」にならざるを得ないでしょう。上司と同じ考えを持たなければ評価されないし、上司が経験していないことを提案しても否定されてしまうなら、言われたことをするしかありません。無意識バイアスは、エンゲージメントを妨げるばかりか、組織の多様性をも否定し、イノベーションを妨げる要因にもなるのです。

一人ひとりの「強み」と向き合う

 では、「無意識バイアスの罠(わな)」に陥らないようにするには、どんなことに気をつければよいでしょうか。私がマネジャーたちにお願いしているのは、これまで自分が常識だと思ってきた仕事のやり方や価値観を部分的にでも捨てる勇気を持つことです。プレーヤーだったときの成功体験があっても、それにとらわれてはなりません。

 そうした過去の成功に固執するよりも、新たな知識や価値観との出合いにワクワクできる柔軟性を持ってもらいたいと思います。自分とはまったく違う、あり得ない考え、第一印象で「ムリだ」と言いたくなるようなアイデアが、これまでの自分の常識とぶつかることでどんな火花が飛び散るのでしょうか。そして、その火花がどんな革新を起こすのでしょうか。このワクワクの中に革新の種があります。

 そして、部下たち、一人ひとりの「強み」に関心を持ってほしいと思います。人間に興味を持てなければピープル・マネジャーは務まりません。まず、自分の強みを知りましょう。そうすれば、おのずと他者の強みにも興味を持てるようになります。部下は、上司が自分に興味を持っていると感じると、やる気が出るものです。

 このときに活用できるのが、『さあ、才能(じぶん)に目覚めよう』で紹介されている資質やそれを生かすための行動アイデア、〈クリフトン・ストレングス〉などの強み発見ツールです。それぞれの部下の強みが客観的に分かるだけでなく、自分の無意識バイアスにも気づかせてくれるでしょう。

 部下たちに〈クリフトン・ストレングス〉を受けてもらったら、その結果をうのみにするのではなく、ワン・オン・ワンの対話などで使いましょう。「その強みを仕事でどう生かせるか」「その強みを使ってどんなことをしたいのか」などについて話し合うのです。

 部下の意外な強みに驚くこともあるでしょう。そうした強みを使って業務に取り組んでもらうと、自分にはできなかった成果を上げる部下も現れてきます。そんなうれしい「驚き」こそ、上司冥利に尽きるはずです。

 強みに対する好奇心を持ちながら対話を続けることで、自分とは違う考え方や働き方を受け入れる。これが、無意識バイアスをなくし、エンゲージメントを向上させるための第一歩です。

100万部突破のロングセラー

 トム・ラス著『さあ、才能(じぶん)に目覚めよう』(日本経済新聞出版)は、「人のよいところ」や「優れた点」を34種類の資質(才能)として抽出、紹介しています。人によって異なる、これらの資質こそ、その人を際立たせる特長であり、最高の力を発揮するための「武器」となります。

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