私たちは、20年後にどんな世界に住んでいるのでしょうか? ベストセラー『2040年の未来予測』を出版した元日本マイクロソフト社長の成毛眞氏は、未来には、人口減・社会保障などの暗い面と、テクノロジーや医療の進歩など、明るい面と両方があるといいます。未来に伸びる会社や人材の特徴はどのようなものでしょうか。今回の対談は、未来の事業について。『起業は意志が10割』を執筆された守屋実氏と、未来の会社や、成功する経営者について考えます。

成毛眞(以下、成毛):『起業は意志が10割』には50以上の新規事業開発や起業を経験して、いまなお止まることを知らない守屋さんの姿が描かれていますね。これは私のような米系企業にいた人間からすると驚きです。なぜなら、米国人は45歳くらいでリタイアしたい。できることなら働きたくないんですよ。

守屋実氏(以下、守屋):がむしゃらに働いている米国人の大半はアーリーリタイアするために、一生困らないお金を稼ごうとしているわけですよね。

成毛:そうです。私がマイクロソフトを辞めたのは2000年ですが、同時期に辞めた米国の幹部連中は誰一人まともに働いていません。会社を立ち上げるわけでも新しい事業をつくるわけでもなく、農場を立ち上げてワインをつくっています。あんまりおいしくもなく、ほぼ趣味です。それを考えると守屋さんのモチベーションは信じられないんですよ。

守屋:最初から明確な意志を持っていたわけではありません。大学を出て入社したミスミ(現ミスミグループ本社)で社長だった田口弘さんの影響がとても大きいです。

 入社したときに田口さんに「新規事業のプロになれ」と言われたんですよ。「日本には経理のプロや法務のプロはいるが新規事業のプロはいない。経理や法務はその仕事だけやり続けるのに、新規事業は立ち上げるとその事業の責任者になってしまって事業を立ち上げる機会がなくなるからだ。だから、あなたは、事業を立ち上げたら、うまくいってもいかなくても一定期間が過ぎたら、とにかく次に移りなさい」と。

成毛:新人の守屋さんに言う田口さんもすごいですし、それでプロになった守屋さんもすごいですね。

守屋:はい。でも、振り返ると田口さんにそう言われたから今こうなっているんです。その結果、ミスミで10年、その後に田口さんが立ち上げたエムアウトで10年、計20年で新規事業に合計17回携わりました。その後に田口さんから「もうそろそろ独立しろ」と言われて。あまり前向きではなかったんですが、これまた田口さんがそう言い続けるので独立しました。

<span class="fontBold">守屋実(もりや・みのる)氏</span><br/> 1969年生まれ。明治学院大学卒。1992年にミスミ(現ミスミグループ本社)に入社後、新市場開発室で、メディカル事業の立ち上げに従事。2002年に新規事業の専門会社、エムアウトを、ミスミ創業オーナーの田口弘氏とともに創業、複数の事業の立ち上げおよび売却を実施。2010年に守屋実事務所を設立。新規事業創出の専門家として活動。ラクスル、ケアプロの立ち上げに参画、副社長を歴任後、博報堂、メディバンクス、ジーンクエスト(ユーグレナグループ)、サウンドファン、みんなの健康、ブティックス、SEEDATA(博報堂グループ)、AuB、TOKYOJP、みらい創造機構、ミーミル(UZABASEグループ)、トラス、日本クラウドキャピタル、テックフィード、キャディ、フリーランス協会、JAXA、セルム、FVC、日本農業などの取締役、顧問、フェロー、理事など、 リクルートホールディングス、JR東日本スタートアップなどのアドバイザー、内閣府などの有識者委員、中国・山東省工業和信息化庁の人工智能高档顧問を歴任。2018年4月にブティックスを、5月にラクスルを、2カ月連続で上場に導く。著者に『<a href="https://www.amazon.co.jp/dp/4065212235/" target="_blank">起業は意志が10割</a>』(講談社)、『新しい一歩を踏み出そう! 会社のプロではなく、仕事のプロになれ!』(ダイヤモンド社)がある。</a>
守屋実(もりや・みのる)氏
1969年生まれ。明治学院大学卒。1992年にミスミ(現ミスミグループ本社)に入社後、新市場開発室で、メディカル事業の立ち上げに従事。2002年に新規事業の専門会社、エムアウトを、ミスミ創業オーナーの田口弘氏とともに創業、複数の事業の立ち上げおよび売却を実施。2010年に守屋実事務所を設立。新規事業創出の専門家として活動。ラクスル、ケアプロの立ち上げに参画、副社長を歴任後、博報堂、メディバンクス、ジーンクエスト(ユーグレナグループ)、サウンドファン、みんなの健康、ブティックス、SEEDATA(博報堂グループ)、AuB、TOKYOJP、みらい創造機構、ミーミル(UZABASEグループ)、トラス、日本クラウドキャピタル、テックフィード、キャディ、フリーランス協会、JAXA、セルム、FVC、日本農業などの取締役、顧問、フェロー、理事など、 リクルートホールディングス、JR東日本スタートアップなどのアドバイザー、内閣府などの有識者委員、中国・山東省工業和信息化庁の人工智能高档顧問を歴任。2018年4月にブティックスを、5月にラクスルを、2カ月連続で上場に導く。著者に『起業は意志が10割』(講談社)、『新しい一歩を踏み出そう! 会社のプロではなく、仕事のプロになれ!』(ダイヤモンド社)がある。

成毛:他のことをやる選択肢はなかったんですか。

守屋:新規事業開発を繰り返していたら、いつの間にか好きになってしまって、それ以外に興味のない人間になっていました。業界構造を変えるような事業の立ち上げに快感を覚えるようになり、全く飽きません。私も成毛さんのように外資企業にいたら違う人生があったかもしれません。与えられた環境が自分にたまたま合致して、20年間育てられたことが大きかったです。そして、楽しくなって、今でも同じ道で頑張っているという感じですね。

成毛:ただ、手がけてきた事業の数が多いだけでなく業種も広範囲ですよね。

旧来型の業界のどこかに新しい手段を持ち込んで、仕組みを変える

守屋:確かに、独立してから経営参画した企業をいくつか挙げると、ラクスルは印刷事業で、キャディ(CADDi)は金属加工仲介、シタテルは衣服生産です。ただ、手がけている本人としては八百屋をやるのか果物屋をやるのかくらいの差です。

 最初に入社したミスミは営業スタッフの属人的な営業で成立していた金型や部品の販売の世界に、カタログによる通信販売を持ち込んだ会社でした。私の原体験はそこにあります。それ以後、旧来型の産業のサプライチェーンのどこかに新しい手段を持ち込むことで仕組みを変えてきました。業種ではなく構造に着目しています。20年でこうした稽古を相当量こなしてきたので、初めての業種でも既視感があるのかもしれません。

成毛:どのような場所で経験を積むか。原体験は大事ですよね。私の場合、編集者になろうとしてアスキーに入ったら、子会社のアスキーマイクロソフトへ出向になって、コンピューターと関わるようになりました。これが守屋さんと同じで、はまったんですね。私は技術者ではありませんが、大学のときに趣味でハンダごてを手にして8ビットのCPUキットをつくっていたような人間だったんです。この環境にいたせいで、完全にテクノロジーオリエンテッドな人間になりました。

 出版した『2040年の未来予測』もその延長線にあるのかもしれませんね。この本は、テクノロジーの側面から未来を提示していますが、今現在の技術を見れば未来はある程度予測できます。多くの人が「いやいや、あんなもの普及しないでしょ」といっているものが10年後に主流になる。約10年前にオモチャ扱いされていたスマートフォンが分かりやすい例ですよ。そこの見極めが楽しい。

守屋:ベンチャーやスタートアップ企業の成長性を判断する際に重視するのもテクノロジーですか。

成毛:はい。むしろ、そこしか見ていません。テクノロジーオリエンテッドかどうかを判断基準にしています。個人的な投資を始めたのはマイクロソフトを辞める直前くらいですが、その頃から一貫しています。現在出資している国内のスタートアップはロケットやライフサイエンス系です。私は投資で莫大な富を築こうという気概は一切ありません。10年後くらいに伸びそうなテクノロジーに楽しみ半分で投資している感覚です。

投資の鉄則は、「自分が分からない分野に投資をしない」

成毛:投資の鉄則は「自分が分からない分野には投資しない」です。『2040年の未来予測』にも書きましたが、これからはマクロ要因が複雑さを増しますから、この鉄則はなおさら強固になるはずです。「分からないところに投資しない」は起業にも通じますから、幅広く事業を創出している守屋さんはやはりすごいですよ。

 ただ、これだけ新規事業を手がけていると「事業をしたいんですが、なんかいいネタないですか」と漠然と答えを求められることもありませんか。

守屋:多いですね。しかしその場合は「結局、あなたは最終的に何をしたいんですか」とお答えするしかありません。大企業の新規事業も、独立して起業する人も、時代にいくら合致した事業を始めたとしても、自分の軸が決まらないとふらふらしてしまいます。最後の最後で力を出し切れなくなる。結局、非効率だし、成功確率も下がります。今回の新刊『起業は意志が10割』も、どこかのタイミングで自分の意志を持って、自分なりの一歩を踏み出してほしいという気持ちをタイトルに込めました。

成毛:そうですよね。事業開発や起業に限らず、やりたいことが自分で分からない人は多いですね。私も「どうすればいいですか」とよく聞かれますが、答えは1つで「やりたくないことはやるな」。極論ですが、嫌いな人には会わず、食べたくない物は食べない。そうしていると、やりたいことが見えてきます。ゼロから積み上げていくより、消去法のほうが見えやすい。

 例えば、私の場合、できることなら会社に行きたくないし、可能ならば口も開きたくない。そうするとテクノロジー商売しか残らないんです。だから、たまたま就いた仕事ですが私には合っていました。テクノロジー商売は堅そうなイメージがあるかもしれませんが、小売りなどに比べると緩い。もちろん、売り上げが伸びてきたらメチャクチャ忙しくなりますし、実際になりましたが、やりたいことだったらそういう局面を迎えても苦にならない。

 逆説的ですが、自分が何をしていいか分からないときには嫌いなこと、やりたくないことから考えるのは有効だと思いますよ。意志を通すにはいろいろなやり方があるわけですが、実際、事業開発や起業に踏み出した際に、うまくいく事業と失敗する事業は分かるものですか。

守屋:うまくいくケースは実はいまだによく分かりません。いくら頑張ってもダメなときもあります。「努力を重ね、ラッキーも何回か重なると時々うまくいく」というのが事業開発や起業の本当のところではないでしょうか。

成毛:守屋さんが言うと説得力がありますね。

業績が悪いときに落ち込まない「鈍い人」は伸びる

守屋:でも、失敗する事業は共通点があります。ビジネスモデルよりは人が原因ですね。

 意志とも関係するのですが、大企業の新規事業では当事者が自分事として捉えられるかどうかが重要です。その人がいかに優秀であろうと、上司の命令でやっていたり組織の一業務として取り組んでいたりすると、事業としての生命力が弱い。

成毛:平日の朝9時から夜6時までの業務の1つとしてしか考えられないとダメですよね。死に物狂いの外資や、リスクを背負ったベンチャーが相手なわけですから。

守屋:そうなんです。ベンチャーやスタートアップの場合は、大半の人は自分事として取り組んでいるので、そこの心配はいりません。むしろ、もっと単純な話で、仲間が増えて不和が起きたり、成長して経営陣が調子に乗って、アクセルとブレーキの踏み方を間違えたり。

 あと、意外に多いのが、業績が少し悪くなると、この世の終わりみたいに落ち込んでしまうケースですね。そんなに簡単に物事が進んだら全員が成功しますよ。基本的にうまくいかない前提で、うまくいったときにおごらず、うまくいかないときも落ち込まない人が成功しやすいですね。

成毛:鈍さは大事ですよね。投資先の若い経営者にも言っているんですが、失敗に気づかない人が一番成功するかもしれない。

守屋:気づかなければ落ち込みようがありませんからね。

成毛:ですから、ダメ出しをする人や批判的な見方をする人を最初は周りに置かないほうがいいかもしれませんね。自分が気づかなくても周りに言われて「あれ、失敗したかな」と気づく可能性もありますから。スタートアップだと業界の重鎮や元官僚のオジイサンを取締役に起用しがちですが、気を付けたほうがいいですね。私も頼まれますが「ジジイは置くな」とすべて断っています。

 鈍さは本当に重要で、失敗に気づかなければ、成功に気づかない場合もあります。年収が10倍くらいになっても、お金を使わず仕事に没頭する日々を送っているから気が付かない。周りに言われて「え、俺、成功したの?」と自覚したりする人が実際にいますからね。

 成功も失敗も気づかずに長く続けていると、向こうから何かが転がってくるんですよ。長続きする根性がないと運も呼び込めないんですね。もちろん、何も不安を抱かずに没頭できる人は問題ないんですが、そうした人は少数派です。

 また、そういう人だけが成功者になるわけではありません。みんな、自分なりに将来の日本や世界がどのようになるかを描けばいいんですよ。『2040年の未来予測』には、私が予測する未来を描きました。そういった本からまた自分なりに考えるのもいい。そうすれば、不安は軽減できるはずです。想定さえできていれば人は強くなれますから。