あなたは、20年後に自分がどんな世界に住んでいるのか想像したことはありますか? 元日本マイクロソフト社長の成毛眞氏は、年金・社会保障・医療などを筆頭に未来は暗いと予測します。ただ、未来を知り、何をすべきか考えれば、豊かな人生に変えられます。2040年の私たちの衣食住はどうなっているのでしょうか? 注目のベストセラー『2040年の未来予測』(日経BP)を出版した成毛氏が、気仙沼ニッティングの御手洗瑞子氏と考えます。

成毛眞氏(以下、成毛):『2040年の未来予測』は読者の年齢によっても受け止め方が異なるようです。若い人からは「テクノロジーのパートは将来への希望が持てた」という声がある一方、「社会保障制度の章を読むと、日本は税金は増えるのに年金は減り、暗たんたる気持ちになった」との声も寄せられています。本書にも書きましたが、日本は直近の8年で社会保険料が26%も増えています。残念ながら、この先の未来も日本の経済成長率はずっと横ばいでしょう。なので、給料は上がらない。しかし、高齢者が増えるので、払わなければならない社会保険料がますます増えていくのは間違いありません。

『2040年の未来予測』132ページより抜粋

御手洗瑞子氏(以下、御手洗):私も、最も興味深かったのは社会保障の部分です。社会保障のベースとなる人口の変化は予測の精度が非常に高い分野ですが、この本で20年後の世界を数字とともに突き付けられて、より現実味をもって感じられました。

 特に私が宮城県気仙沼市という、日本の少子高齢化の先を行く土地に住んでいることも関係しているかもしれません。高齢者が多くて、若者が少ないことは、街を歩いていても実感できます。若者が今後ますます少なくなるのは確実ですから、「どうやって、この⾼齢者たちを⽀えるんだろう」と考えてしまいます。

御手洗瑞子
株式会社気仙沼ニッティング 代表取締役社長

東京生まれ。東京大学経済学部卒業。マッキンゼー・アンド・カンパニーを経て、2010年9月より1年間、ブータン政府に初代首相フェローとして勤め、産業育成に従事。東日本大震災後の2012年、宮城県気仙沼市にて、高品質の手編みセーターやカーディガンを届ける「気仙沼ニッティング」の事業を立ち上げる。2013年に法人化し、現職。規制改革推進会議の委員も務める。好きなものは、温泉と日なたとおいしい和食。

成毛:そうなんですよね。考えてみれば当たり前ですが、人口は急には増えたり減ったりしません。テクノロジーがいくら進展しようが、少子高齢化はどうにもならない。今の10代の人口が40代になったら増えることは絶対にあり得ないんですよ。

 とはいえ、社会保障の未来を嘆いていても何も解決しない。個人的には、気仙沼での御手洗さんの取り組みに2040年を豊かに生きるヒントがあると思っています。御手洗さんの会社(気仙沼ニッティング)では60歳前後の女性が一から編み手さんとして働き始める場合も少なくないと聞いていますが。

御手洗:はい。当社は東日本大震災後の東北で、復興支援が引いた後も地域に根付き持続していく産業をつくろうと設立しました。地元の女性たちが編み物のトレーニングを受け、技術を習得し、プロの編み手さんとして仕事をしています。

 編み手は50~60人いますが、今はコロナ禍なのもあり、バリバリ仕事をしているのは30~40人ほどでしょうか。60歳前後の人が多いです。基本は在宅での作業で、技術指導や検品を受けるために週に一度ほど職場に来ます。編み手の中には家族の介護などを抱える人もいますから、自宅で好きな時間に自分のペースで仕事ができる、というのがよいようです。

未来を見れば、メシの種はそこらじゅうにある

成毛:「先細りする年金以外で、適度に働きながらハッピーに暮らせないか」。これからは、ますますそういう老人ばかりになりますよね。ただ、老人みんなを一度にハッピーにしようとするから議論が難しくなっている気がします。もちろん、そういう大きな問題を考えなくてはいけない立場の人もいますが、民間では、やれることをやれる人がやっていくしかない。それが結果的に解決策になるのではないでしょうか。

御手洗:確かに、誰かが事業をコーディネートして仕事を生み出すようなモデルをつくって、それが広まれば、地域も活性化されて、雇用が生まれていくかもしれませんね。編み物に限らず、この形態であれば働きたいという人は多い気もします。

成毛:そうなんですよ。最初にモデルをつくればその企業はもうかるし、結果的に社会全体で幸せになる人も多い。企業や経営者は、最初から1000人が幸せになる枠組みを考えるよりは、10人を幸せにする方法を考えて、次は100人、1000人としていった方が早い。うまくいっているモデルがあればそれを他の人がコピーするから10年くらいすると、思っていた以上に多くの人がハッピーになっている可能性が高い。御手洗さんの会社も、そのモデルになるポテンシャルを秘めていますよね。

御手洗:私の会社はニットですが、地域の中高年の女性が働けて事業としても成り立つ、という観点では、ほかにどんな仕事があると成毛さんは思われますか。

成毛:はい、農産品でもいいわけです。例えば、僕の友達で1本5000円のレンコンを海外の日本人シェフに売っている男(野口農園を経営する野口憲一氏)がいます。このレンコン、涙が出るくらいにうまいんですよ。あまりにもおいしいから、海外の一般消費者に売ってみなよと助言したところ、実際に売り始めて、飛ぶように売れています。

 商品に本当に価値があれば、間違いなく海外でも売れるんですね。グローバルで売れば、マーケットは少なく見積もっても国内の20倍になります。当然、生産量が増えれば仕事もつくれます。誰かが仕組みをつくるという前提はつきますが、レンコンのような商品は日本各地に眠っています。取り扱う商品は農産品でなくても、その地域でしか売っていないお菓子でもなんでもいいですよね。

御手洗:重要なのは商品と市場のミスマッチを誰かが埋めてあげればいいということですね。誰かがうまく事業をコーディネートしてあげれば、企業は成長しますし、それがコピーされれば、今よりも多くの人がハッピーになる。

成毛:「ビジネスモデルをつくる」、「海外に何かを売る」と聞くと、多くの人は、ハードルを勝手に上げてしまうんですね。「何か新しいことをしないとダメだ」、「日本の伝統品でないと海外では売れない」と固定観念にしばられてしまう。でも、そんなことはない。人口や社会の足元の問題を見れば、逆にそれがチャンスにもなることもある。現在の問題から未来を考える視点を持てば、どこにでもメシの種は転がっています。

仕事より山菜採り、大事なことが見つかれば豊かになる

成毛:2040年をいかに生きるかというテーマを考える際には、どこに住むかという問題は切り離せません。『2040年の未来予測』でも触れていますが、2040年は全国的に空き家も増え、住宅コストも下がります。御手洗さんの目から見て、地方、気仙沼のみなさんの暮らしはどうですか。

御手洗:とにかく楽しそうですね。

成毛:ああ、分かります。僕も高校の同級生は札幌にいますが、みんな楽しそうです。河原でジンギスカンをしているだけなのに幸せそうなんですね。田舎は住宅コストだけでなくプレジャーコスト(満足感を得るための費用)も安い。おそらく東京の10分の1以下ではないでしょうか。もちろん、東京には東京でしか楽しめない楽しみがあるのは間違いありません。ただ、住む場所によって生活の満足感やそこに費やすコストの考え方も決定的に変わってくる。そうすると当然、働き方も変わります。

御手洗:そうですね。気仙沼でも、とにかく稼ぎたい、というよりは、ちょうどよく仕事しながら生活を楽しみたい、という気持ちの人が多い気がします。20代で気仙沼に来たときは、その感覚が新鮮でしたし、不思議でした。例えば編み手さんの仕事は出来高制なので、編めば編むだけ収入は増えるのです。でも誰も、一日中編もうとはしません。

 「家事もあるし、家族に負担をかけずにやりたい」とか「そんなに一日中仕事ばかりしていられない」と言います。負担にならず楽しめる範囲で、必要な分だけ仕事をする、という感覚でしょうか。例えばある編み手は、金曜の夕方から旦那さんと車で山にでかけ、週末に夫婦で登山をすることをなによりの楽しみにしていたそうです。東北のほとんどの山に登りに行ったと言っていました。自分の価値観を持って生活している。人生が豊かなんですね。

成毛:ぜいたくですね。

御手洗:そう、ぜいたくなんです。分かりやすい例が春先です。春になると「ちょっと仕事を休みます」という編み手が出てきます。それで何をしているかというと、山に山菜採りにでかけるんです(笑)

成毛:山菜採りのほうが人生における優先順位が高いから、ニットを編んでいる場合ではないんですね。 

御手洗:そうなんです。「冬場に頑張ったから。もういいんだ」と。気仙沼は漁師町だからかもしれませんが、個人事業主の意識が強い。一人ひとりが、自分で生活を良くも悪くもコントロールして自分の人生を生きている印象です。これは女性だけでなく男性も同じです。気仙沼は秋になるとタクシーの台数が減ることがあります。運転手が、山にまつたけ採りに行ってしまうんです。自然とともに生き、生活を楽しみながら、家計を回していく。

成毛:山菜やまつたけを採るか、地方に住むかどうかは別として、これからはそうした生き方も増えていくでしょうね。新型コロナウイルスの感染拡大で働き方が強制的に変わった人も少なくない。働き方や生き方をこれからどうしようかと。多くの人が人生の優先順位を見つめ直しています。2040年を見据えて、気仙沼の人の生き方に学ぶことは少なくないかもしれませんね。『2040年の未来予測』では、さまざまな未来を予測していますが、それを知った上でより自分らしく、豊かに生きていくという選択をぜひしていきたいものです。

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 iPhoneが発売されたのは、たった13年前でした。現在、スマートフォンがない世界は考えられません。テクノロジーだけでなく、ほかのことも、気づいたときには手遅れなのが人間のさがです。

 地震や災害も、リスクを分かっていながらも被災するまで手を打つ人は少ないし、明らかに社会制度は破綻しつつあります。人口は増えず、老人ばかりの国になるし、環境問題も悪くなる一方です。これまでと同じように暮らしていたら、今の年齢によっては取り返しのつかない可能性もあります。

 この本では、あらゆるデータから導き出されるありのままの未来を著者が予想します。

 しかし、暗い未来でも未来を予測できる力さえあれば、どう生きればいいかは自然と分かります。「今日」にはこれから起こることの萌芽(ほうが)があり、現在を見つめれば、未来の形をつかむことは誰にでもできます。

 本書は、ただ知識を得るためだけの本ではありません。読んだ後には、俯瞰(ふかん)的に未来を考え、そして自分の人生を切り開く力がついているはずです。