大手アパレルメーカーのA社は、最近、販売現場に特化したマニュアルを作り直しました。店舗の拡充に伴う販売員の確保が追いつかず、入ったばかりのアルバイトでも一定のレベルの接客をしてもらう必要が出てきたからです。

 A社の店舗は都市部に集中しており、外国人観光客も多く訪れます。そのため、外国人アルバイトでも分かるように、マニュアルは英語版と中国語版も用意されています。

 実際に都内のB店では、それを使っている外国人アルバイトは、ほぼ問題なく仕事をこなしています。ところが、不思議なことに、日本人アルバイトの仕事ぶりがさえず、お客様からのクレームも多くなっています。また定着率も低く、すぐに辞めてしまいます。

 そこで、本社の人事部が、B店のフロアマネジャーと日本人アルバイトに個別にヒアリングを行うと、意外なことが分かりました。

 B店の店長は、人材の確保を重要な課題と捉え、日本人アルバイトをいずれ社員に登用できないかと考えていました。そのため、フロアマネジャーたちに「マニュアルに縛られずに、一歩進んだ仕事を教えるように」と指導していました。それによってB店は、日本人アルバイトがかえって仕事を覚えにくい状況になっていたのです。

 あるフロアのマネジャーは、外国人アルバイトに対しては「レジの列にお客さんが5人以上並んでいるでしょう。そういう時はレジの応援に入って」「この棚に、お客さんが広げたままになっている服があるよ。目についたらすぐに畳み直して」などと、マニュアルに書かれていることをなぞった具体的指導をしていました。だから、外国人アルバイトは矛盾を感じることもなく、淡々と仕事を覚えていきました。

 一方で、日本人アルバイトには「もっと周囲を見て」「今やるべきことを先取りして考えて」といった言い方をすることが増えていました。

 「もっと周囲を見れば、今やるべきことを先取りして考えれば、レジに入ったり服を畳んだりという行動が自発的にとれるだろう」と勝手に期待していたわけです。

 しかし、日本人アルバイトであっても、「レジに入って」「服を畳んで」と言われた方がずっと動きやすいし、言われなければ分かりません。結果的に「自分は慣れていない外国人よりも仕事ができない」と悩み、辞めていく人が後を絶たないのです。

 いくら会社がいいマニュアルを作っても、現場で指導する立場にある人間が使い方を間違っていたら、若い人材は育ちません。

 くしくもA社の事例は、それを証明することになりました。

 外国人アルバイトが内容を理解し、ちゃんと仕事を回しているのですから、A社のマニュアルは誰にとっても分かりやすいものになっているはずです。だったら、それをそのまま日本人にも当てはめればいいでしょう。

 それに、将来的に社員になってほしいのであれば、なおさら「基本のキ」から教えてあげることが必要です。そうした基本的なことを繰り返しているうちに仕事をすっかり覚え、やがて、言われなくても自発的に行動できるようになるはずです。