キーパーソン登場

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オープンデータは利用者視点で公開を、国の役割は仕様やルールの整備

内閣官房 政府CIO上席補佐官 平本健二氏に聞く

聞き手:井出 一仁=日経BP総研 イノベーションICT研究所、柏崎 吉一=エクリュ【2017.5.30】

政府が掲げるオープンデータの推進を、自治体がそれぞれ手探りで進めている。多彩な取り組みにチャレンジする自治体もあれば、まだこれからというところも多い。そもそもオープンデータで何を目指すのか。財源や人材に制約のある自治体が、市民や企業とうまく協働を進めるポイントは何か。電子行政の基盤整備に取り組む内閣官房 政府CIO上席補佐官の平本健二氏に見解を尋ねた。

内閣官房 政府CIO上席補佐官の平本健二氏 (写真:陶山 勉)
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――内閣官房IT総合戦略室は2015年2月、「地方公共団体オープンデータ推進ガイドライン」を公表しました(関連記事)。政府だけでなく自治体にも、保有するデータについて国民共有の財産としてオープンデータの推進を求めたものですが、自治体の間では取り組みに温度差があります。

 オープンデータを活用した市民協働などに積極的に取り組んでいる自治体としては、たとえば横浜市、金沢市、神戸市、北海道森町などが知られています。これらの自治体には共通する特徴があります。

 一つは、地域コミュニティが強いこと。市民の行政参加意識が高く、地元で活動するさまざまなNPOやエンジニアが集まるコミュニティ側から役所に対して、自分たちが暮らすまちをよりよくしていこうという提案が前向きに行われています。

 もうひとつの共通事項は、自治体の現場の職員が楽しんで取り組んでいるという印象を受けることです。もちろん、トップである首長の理解はあるに越したことはありませんが、現場の活気が大切と感じます。

――ただ、自治体の職員の中には、「オープンデータのメリットがわかりにくい」「新しい仕事が増えて面倒になりそう」と敬遠する意識もまだまだあるようです。

 他の自治体での成果や事例を見せるとよいでしょう。

 オープンデータを進めることは、職員の業務負担の軽減にもつながります。オープンデータ施策を推進する立場にある情報政策部門などは、各部局に対し「データカタログサイトにデータを公開してください」という持ちかけ方ではなく、「あなたの仕事も楽になりますよ」と切り出してみるとよいでしょう。

 たとえば、行政が公開するオープンデータを利用した、ゴミの収集品目と収集日を一覧できるアプリ「5374.jp」によって、市民からのごみ収集に関する問い合わせが減ったという声もあります。職員の問い合わせ対応業務の時間が減るだけでなく、市民も手元のスマートフォンなどでいつでも確認できるので助かります。

「My広報紙」や「ちばレポ」はオープンデータの好例

――自治体のWebサイトですでにデータを公開しているといっても、紙のスキャンイメージやPDFファイルにとどまり、「オープンデータ」の要件(機械判読に適した形式で、二次利用可能なルールの下で公開されていくこと)を満たしていないケースもあります。市民や企業がデータをアプリや分析ツールに取り込むために、わざわざ手入力する手間がかかります。

 職員が事務作業で作成している表計算ソフトなどのデータをわざわざ紙に印刷したりせず、アプリケーションに依存しないファイル形式であるCSV形式などで公開すれば、市民側がデータを再入力する二度手間は減らせます。市民だけでなく、庁内文書を取り扱う職員にとっても、データを再利用しやすくなり仕事の生産性が高まります。電子行政の推進にもつながるでしょう。私はもともと電子行政の推進が担当ですが、オープンデータの推進も本質的に同じことから、府省や地域の取り組みを見てきました。

 興味深い事例の一つに、「My広報紙」があります。このサイトでは、全国各地の自治体が作成する広報紙の内容をWebで閲覧できます。その自治体に暮らす人だけでなく、他の自治体に住む人にも地域の魅力を伝えられるほか、自分の住む自治体の広報と比べることで、まちづくりに関心を持つきっかけにもなります。

「My広報紙」の最新号掲載画面
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 宅配の新聞の購読者数が減少傾向にある最近は、広報紙が新聞の折り込みでは届きにくくなっています。市民にすると、子育てや介護に関するイベント情報、利用できる助成金といった情報をWebで確認できるので便利です。防災や災害後の支援情報を探すのにも役立つでしょう。自治体もせっかく手間をかけて作成した情報がより多くの読者に届くのでうれしいと言います。まさにオープンデータを利活用したサービスの好例です。

 ただ、こうした取り組みに意欲的な自治体と、そうでない自治体の違いが、はた目にはわかりにくいことは残念に思います。取り組みの裏側をメイキング映像のような形で市民や、他の自治体の職員に見せると、もっと関心を集められたり、参考になったりするのではないでしょうか。

――オープンデータを推進したくても、財政面で厳しいと考える自治体も多いのでは?

 すでにあるものを有効活用すれば、橋や建物をつくるほどには、お金はかからないはずです。自治体がすべてをやろうとしないで、得意なことから着手すればよいでしょう。

 たとえば、市民から「オープンデータを活用したアイデアソンやハッカソンなどのイベントをやりたい」という提案があったら、市が保有する公会堂などの施設を活用してみてもよいでしょう。実施するイベントについては、「市の広報紙で取り上げますよ」と声をかければ、参加する市民にとっても励みになります。

 講演の依頼や参加の呼びかけで商店街や自治会に声をかけたり、大学と民間の連携をコーディネートしたりするのも、自治体の得意な分野のはず。こう考えると、案外お金をかけずにできることが数多くあります。関係者・参加者にはそれぞれ得手・不得手があるので、互いに得意なところを持ち寄って、苦手なところは補完し合おうという考え方が、市民協働などの趣旨にも合致します。

 先日、道路や公園ベンチの損壊を役所に知らせることができる千葉市のスマホ向けアプリ「ちばレポ」について興味深い話を聞きました。ちばレポを用いて、市民が自発的に、腐食したカーブミラーの根元の写真を撮って、市に知らせているそうです。放置すればカーブミラーが倒れてけがをする可能性もあります。市民がまちづくりを行政任せにせず、また言われてやるのではなく、自発的にこうした動きが出てきたら、そのまちはさらに暮らしやすくなるでしょう。市民がまちづくりに主体的に参加することが自治行政の本来の姿ではないでしょうか。

自治体職員も「一生活者」の視点で

内閣官房 政府CIO上席補佐官の平本健二氏(写真:陶山 勉)
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――せっかく職員がやる気になっても、あるいは、ITに明るい職員がいても、その職員が異動して担当が代わると、後が続かない可能性もあります。

 公務員の異動が現状のルールとしてある以上は仕方ないですが、データの公開や活用、それを利用した市民との対話は一つの部署だけで完結する話ではなく、部署を超えて取り組むものです。部署横断的に人材を育成・発掘する活動を地道に続けることが大事です。

 例えば、防災部局と観光部局といった異なる部局がデータを互いに見せ合うと、「こんなデータの捉え方や使い方があるのか」と驚かれることがあります。部局の担当者自身がそうした刺激を受けて、見方や仕事に対する姿勢が変わるきっかけになることもあります。

 同じことは、役所だけでなく、地場のNPOやコミュニティについても言えます。キーパーソンが抜けてしまうと、先細りになりかねません。いつも同じ顔ぶれではなく、門戸を広げ、常に新しい人材を巻き込んでいく必要があります。

 このとき特に自治体の職員の方に留意してほしいのは、役所の部署を超えて話を聞いたり、役所の外に出向いて市民と一緒に語ったりする機会では、職員自身が役人ではなく、参加者と同じく「一生活者」の視点を持つことです。私もそう心掛けています。

 ただ、こうしたことを苦手と感じる方もいるようです。躊躇(ちゅうちょ)する個人のなかの“心の壁”が、オープンデータの推進を足踏みさせる案外大きな要因であると感じます。

――“心の壁”を取り去るにはどうしたらよいでしょうか。

 技術面でも企画内容としても、いきなり難しいことをやる必要はありません。地域課題を解決するといっても、テーマを広げ過ぎないで、まずは自分にとって身近な子育てなどから始めて、慣れてきたら徐々に広げていけばいいのではないでしょうか。

 「Evidence Based Policy Making」(データ・証拠に基づく政策立案)の重要性が強調されるようになりましたが、大上段に構えなくても、例えば神奈川県が公園に関するデータをオープンデータとして公開しているように(関連記事)、まずは身近なところから行動を変えてみるとよいでしょう。

 公園は、高齢者も子育て世代も利用するなじみのある施設である一方で、防災などいろいろな切り口があり、関心が高いと思います。案ずるより産むがやすしで、こうした身近なデータを使って意見を交換してみると、いろいろな発見があります。

共通語彙基盤を使った埼玉県の取り組みは画期的

――自治体でのオープンデータの取り組みに対する国の役割は?

 国の役割は、データの流通や利用を促すための仕様の標準化と、公開されたデータの二次利用可能なルールなどの整備だと考えています。前者の一つとして注力しているのが、情報共有基盤整備事業の一つである「共通語彙基盤整備事業」です。後者では「政府標準利用規約」や関係法令の整備を行っています。

 共通語彙基盤については埼玉県の58市町村が2016年3月に利用に関する合意を取り決め、2017年1月から順次データを公開しています(関連記事)。公共施設情報、イベントカレンダー、広報紙URL、観光地情報など10種類のデータの公開形式を共通化したのは、市町村の枠や業務分野を超える非常に画期的な取り組みです。各自治体が公開するオープンデータの項目に使われる語彙や書式、データベースの構造的な仕様などをそろえることで、企業や個人は市町村のオープンデータを横断的に利用したアプリなども開発しやすくなります。

「埼玉県オープンデータポータルサイト」のトップ画面
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 一例を挙げると、イベント情報や災害支援情報の年収要件などで「対象者」というデータ項目があります。これまでは、子どもであれば「6歳から12歳まで」という書き方もあるし、「小学生」という表記も混在していました。このような表記上のルールをそろえることで部署を超えてデータベース間の互換性が高まります。その結果、一度入力したデータの再入力の手間も省けます。

――自治体は国が定めた語彙にそろえていけば、共通化ができるわけですね。

 実は、用語の根拠となる法令や、目的の異なる各業種で使われる共通の用語(語彙)を抽出するのは、物事を抽象化する力と実務的な知見が求められ、なかなか一筋縄ではいきません。

 そこで、この共通語彙基盤で用いる語彙や技術的な仕様については、現場にある既存の用語やニーズを見るのはもちろんのこと、米国政府が進める「NIEM(National Information Exchange Model:米国政府と関係機関間の情報交換の標準的なモデル)」や「Schema.org」といった海外の有識者やコミュニティの取り組みも参照し、国際標準に基づく実用性と将来性を持たせています。専門家やアプリを開発するユーザーの声を反映しながら、よりよいものにしていきたいと考えています。

 また、2017年1月に経済産業省が開設した「法人インフォメーション」(省庁が保有する法人情報を一元的に閲覧できるサイト)も、裏側で共通語彙基盤やLOD(Linked Open Data)と呼ばれる国際標準の技術を利用しています(関連記事)。法人のポータルサイトですから調達、信用、制度に関する情報も欲しいという利用者の声を受けた「ストーリー」を描きながら、将来像を示しつつ拡充しています。利用者の声を聞きながら、より使いやすいものに進展させたいですね。

 ほかにも、東日本大震災後に復興庁などと協力して立ち上げたデータベースサイト「復旧・復興支援制度情報」があります。国や自治体が提供する各種支援情報を、個人や事業者がキーワードやカテゴリを基に絞り込んで検索できるサービスです。各自治体のデータはそれぞれの自治体のWebサイトなどで公開されており、そうしたオープンになったデータを集約しているため、このデータベースを利用すればワンストップで情報を探すことができます。

 実際はそれぞれの情報をひも付けるために、行政サービスの品目をひも付けるタグによってデータを統合しています。自治体が公開するデータがバラバラの書式やファイル形式ではなく、オープンデータとして標準的な形式で公開されれば、こうしたデータベース型のサービスも、より開発しやすくなるでしょう。

 さらに行政だけでなく、民間が提供するデータも組み合わせることで、図書館の蔵書検索サービスである「カーリル」のようなサービスも、もっと出てくるはずです。

そろそろ「なんでも自前」を変える時期

――オープンデータの公開を支援するために、自治体向けに国がツールを一元的に提供するようなやり方もあるのでは?

(写真:陶山 勉)
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 ツールについては、国が何でも主導することではないと考えています。国はあくまで最低限の仕様やルールづくりに集中します。ツールは市場のなかでその時々でよいものを選んでいけば、デザイン性も高められ、コストも抑えられます。それも官民連携だと思います。

 例えば、自治体が自前で構築・運用するWebサイトではなく、民間のホスティングサービスを利用したり、他の自治体と相乗りしたりして、そこにデータカタログを公開するケースも増えていくでしょう。ホスティングサービスもデータカタログを作成すためのソフトウエアもいろいろあります。財政的にも潤沢ではないわけですから、なんでも自前でやろうとする方針をそろそろ変える時期だと思います。

 職員も日頃の課題に対する解決策に気づいて自分で対応できることもあれば、それぞれの得意分野を生かして市民と一緒に解決してもいいでしょう。

 ぶれてはいけない点は、官や民など関係者の連携により、利用者の視点でよりよいサービスをやろうよ、ということです。いわゆる、サービスデザイン思考*の考え方です。もともと行政職員は、まちや暮らしをよりよくしていこうという志で入庁したはずですから、迷ったらその初心に帰ればいいと思います。

*サービスデザイン思考とは、利用者の行動や感情まで含めた体験全体が最良となるように、サービス提供者の視点ではなく、利用者が望んでいることを理解したうえでサービス全体を設計する考え方。英米政府が電子行政サービスの原則として採用しており、日本政府も2017年6月頃に決定する「新たな電子行政の方針」に盛り込む予定。

――オープンデータの推進における今後の展望は。

 単発的な事例を公開する段階は、そろそろ一巡したのではないでしょうか。これからはさらにストーリー性が求められます。先述のように、行政サービスを官だけで提供するのではなく、官民が連携して利用者の視点に立ったよいサービスをつくるためには、周りをうまく巻き込むことが必要です。

 開発したアプリケーションも国民の公共財産と考えると、ある自治体がつくったソースコードも関係者の合意や規約に沿った形であれば、オープンデータとして他の自治体が利用したり改良したりして社会全体の便益が高まるように流通できると考えています。

 これからは、アイデアをビジネス化、事業化するプロデューサーのような存在が求められるでしょう。ストーリー性とみんなを楽しませるような気持ちや遊び心が原点にあってほしいと思います。

 実はいま、さまざまな業種の体験学習に関するイベント情報を効果的に発信できないかと考えています。子どもたちの教育の側面からも重要です。それを実現するために、業種・業界を横断して流通するデータの形式が必要になります。その段階で、業種を横断したデータ流通の仕様の標準化をさらに進められればという戦略です。オープンデータとして公開されれば、そこからさらに新たな活用事例が生まれるはずです。

 皆さんの期待に応えられるよう、さまざまな取り組みを国としても進めているところです。ぜひ力を合わせて行きましょう。

平本 健二(ひらもと・けんじ)
内閣官房 政府CIO上席補佐官
平本 健二(ひらもと・けんじ) デジタル技術による行政サービス改革を担当。既存の行政の枠組みでは解決できなかった課題を、調査、検証からサービス展開まで一貫プロジェクトとして実施。国・自治体を通じた調達情報、支援制度情報総合サイトを構築・運用するとともに、文字・語彙・コードなどの基盤整備、Webサイトの抜本的な見直しなど、行政サービス改革を総合的に推進。センサー技術やAI(人工知能)などの先進技術の導入の検討に参加するとともに、ハッカソン等の技術者との協働イベントにも積極的に参加している。各種国際会議にも参加し、東京大学で次世代人材の育成にも取り組んでいる。経済産業省CIO補佐官も兼任。

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