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ラジオ体操コミュニティを起点に「健幸」なまちづくり

市立病院の充実で安心感の提供目指す――坂出市長 綾宏氏に聞く

井上俊明【2017.8.25】

瀬戸大橋のお膝元で、工業都市として有名な香川県坂出市。だが2015年の国勢調査によると、同市の人口は約5万3000人と5年前に比べて5%近く減った。3期目を迎えた綾宏市長は、「住みたいまち」づくりを市政の最重要テーマに掲げ、市立病院の新築・移転をはじめ、様々な施策を打ち出してきている。「健やかに」そして「幸せに」暮らせる「健幸のまち」が目標だ。

(撮影:菊池一郎)
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――「健幸」に暮らせるまちづくりを市政の方針に掲げていますね。

 ええ。今年2月にできた日本健幸都市連合にも加盟しています。これまでにも、健康づくりに取り組もうという自治体が集まる団体に関心を持ったことはあるのですけれど、大きな広場で運動しようというような趣旨で、坂出のような小さい自治体にはちょっと合わないと思っていました。一方で、私は幸福度についても研究しており、各種のランキングも興味を持ってながめていました。

――その一環として、市立病院の新築・移転を実現しました。

 坂出市立病院は、全国でも数少ない黒字の自治体病院でした。前の市長の時代に、「赤字を出したら潰す」と、徹底した経営改革が行われたからです。一方で老朽化・狭隘化しており、耐震性にも問題があって、サービス面での評価は高いとはいえませんでした。人口5万人少々の坂出市には、市立病院のほかに、400床近い民間の大病院、カトリック系の病院など主な病院だけで3施設あります。厚生労働省の立場からすればそんなにいらないだろうということになるでしょうね。病院とか介護施設がたくさんあると、やはり住民は気軽に行ってしまい、結果的に医療費が高くなって医療費削減を進める国の政策に逆行しますから。気軽に受診すれば精神的な面を含めて疾病の予防になると思うのですが。

――自治体病院ならではの役割が必要です。

 市立病院は何をすべきなのかという課題はあります。24時間体制で救急を手がけ、診療科も増やしてきたので、異常を早期に発見して治せるものは治します。一方近隣の市には、労災病院や子供専門の病院があるので、お互いに機能を分担していきたいと考えています。また、こうした近隣の病院で治療を終えた患者を受け入れるのも大切な役割でしょう。そのほか、市内に離島があるので、巡回診療に行くのも大事な役割だと考えています。

 このように市立病院の役割はいろいろありますが、やはり、いつでも診てくれるという安心感を住民に与えることが一番大切だと思っています。そうすれば高齢者は安心して坂出に住めるでしょう。ただ、ホームドクターとしては診療所がありますし、療養型の病院ではないですから短期間で退院してもらうようにします。市民に適正な利用を呼びかけるのは簡単ではないですがね。

2014年末に新築移転した坂出市立病院(同病院のホームページより)
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――旧病院の跡地は、どのような活用法を考えていますか。

 私は「健幸のまち」づくりのポイントはコミュニティをどう確立するかだと思っています。ですから、市立病院の跡地には駐車場を整備したうえで、地域包括ケアの担当者や自治会関係者などが会議や研修などに利用できる施設を造りたいと考えています。複合的・複能的に子育てを支援できる施設も念頭にあります。

ラジオ体操広場を4カ所に設ける

――地域コミュニティ形成のために、これまでどんな手を打ってきましたか。

「出前市役所」として市役所の部課長を担当制にして住民のミーティングに派遣しています。以前は自ら地域へ出かけて行きました。いろいろ要望が挙がってきますし、知恵もいろいろ出てきています。

 それに5年前から、ラジオ体操広場を市内4カ所に作りました。6時半近くになると毎日音楽が流れるんですよ。80歳、90歳の高齢者でも覚えていますからね。いつでもどこでもだれでもできますし。一人じゃなくて大勢でやるから元気も出ます。また、「今日はあの人きていないな。ちょっと見に行こうか」という流れで、独居の高齢者が倒れているのを発見したこともありました。コミュニティの形成や「見守り」の役割も果たしているわけです。坂出では、地域でなくラジオ体操という違ったソフトで、住民同士がつながっています。

 ラジオ体操は当市独自の取り組みで、健幸づくりの核となるものです。ここが固まったので、日本健幸都市連合に入ったのです。

――「コンパクトシティ」が市政の目標ですね。

 坂出は、JRの駅を中心に半径1km以内にほとんどの公共施設が集中しています。高校も4つあります。でも、住まいがないのが問題です。夜間人口に対する昼間人口の比率が、四国で最も高いほどです。坂出で働く人は、市外に住み坂出に住んではくれない。利便性とか交通の便の良さをもっとアピールしなくてはと思います。実際、快速電車に乗れば、高松へは約15分、岡山へだって40分ことでいくことができます。JR坂出駅前のマンションや一戸建ての所有者の中には、交通の便の良さを評価して購入した人が少なくないようです。

  ただ最近、介護サービスが付いた「サ高住」という高齢者向けの住まいが市の中心部に3つできました。余生は住み慣れたところで暮らしたいという高齢者が少なくない表れでしょう。

――特養などの施設は建設しないのですか。

 高齢者にもプライドがあるためか、介護が必要になっても施設には入りたくないというのが一般的ですね。だから、求められているのはサ高住のような住まいだと思います。それに2025年以降は、高齢者が減るわけです。償却に数十年かかる施設を作ってもやっていけるわけがない。これもサ高住のような住まいが求められる理由です。坂出は高齢化率が30%を超えているので、認知症対策も力を入れています。市内に専門の医師がいるのでその先生と連携して、認知症カフェを作ったりしました。

高校生の行動でアルメニアと縁

(撮影:菊池一郎)
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――「健幸」というと若い人にはなじみにくいかなと思いますが、若者向けに打ち出した施策には、例えばどのようなものがありますか。

 先ほども申し上げました通り、坂出市内には高校が4つあります。うち3校は県立で、普通科、商業科、工業科が1校ずつです。商業科では商店街で模擬の商売をしたり、工業科は男子の新体操が活躍したりしています。校長先生とも年に何度か話し合っています。それぞれ特徴を生かして教育活動をやってくれればいいと思います。大学はありませんから、高校生の自由な発想を取り上げて行政に生かしていかないと。

 例えば、10年ほど前ですが、市内の高校生がテレビか何かで、アルメニアに日本の絵本を集めている人がいるのを知って、こちらから送ってあげたことがありました。これをきっかけに坂出市との交流が始まったのですが、そのうちに日本大使館が向こうにできて、国同士の外交関係も広がってきました。元はといえば高校生の思いつきから始まった国際交流です。市としても、こうした自由な発想を伸ばしてやりたいと思います。若い人の発想を生かしていくことで、市外の大学に行っても、卒業後に帰ってきたくなるような環境を整えたいですね。

綾宏(あや・ひろし)
坂出市長
1953年香川県坂出市生まれ。学習院大学経済学部卒業。1987年に坂出市議会議員に初当選し、以後連続6期務める。2009年坂出市長に初当選。現在3期目

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