活発化する自動運転実証、自治体にとってのインパクト

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物流へのインパクトも大きい自動運転、国際条約と社会受容性が浸透のカギ

元田 光一=テクニカルライター【2016.6.21】

 前回の記事(関連記事)で見たように、超高齢化社会に突入した日本では、自動運転によってタクシーやバスのドライバー不足を補うことが、買い物弱者、移動弱者の課題解決に役立つ。こと買い物弱者の救済に関して言えば、遠方にあるスーパーマーケットの商品を自宅まで届けてくれるサービスや、物流拠点間の配送効率化も効果を期待できる。もちろんそこにも、自動運転の技術は有効だ。

物流分野でもドライバー不足が問題に

 国土交通省は2008年に、「物流2015年問題」として、2015年にはトラックドライバーが14万人不足すると予測した。実際に2015年になってみるとそこまでの人員不足には陥っていないようだが、タクシー/バスドライバーと同様に高齢化や若年層にあまり人気のない職業であることなどが原因となり、ドライバーの人手不足が深刻化している。

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写真1●自動運転でつくばのテストコースを4台の隊列で走る大型トラック(NEDOのホームページより引用)

 ドライバー不足で物流が滞ることになれば、全国各地に均等に食品や日用品が届かなくなる。買い物弱者だけではなく一般消費者でも必要な時に必要なものが手に入らず、日本経済に影響を与えることが懸念される。一方で、ドライバー不足を解消して物流コストを削減できれば、今よりももっと安く商品を購入できるようになる可能性もある。このような背景から、自動運転技術の活用は物流分野におけるドライバー不足を解決するためにも期待されている。

地域内の宅配にも自動運転

 物流は長距離輸送と、地域内での宅配に大別できる。このうち長距離輸送を主な対象とした特徴的な取り組みに、大型トラックの自動運転による隊列走行がある。先頭車両のみドライバーが運転し、その後ろを一定の距離を保って複数の無人運転車両(レベル4)が走行するものだ。日本では新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が、2008年から2013年まで大型トラックの自動運転による隊列走行の研究を行い、つくばのテストコースにおいて4mの車間距離をとった4台の大型トラックの隊列走行を実施した(前ページ写真1)。この隊列走行も、2020年前後の実用化が目標になっている。

 隊列走行では、後続車両が同じ物流会社のトラックである必要はなく、「それぞれを別会社が管理するトラックにすれば、物流の効率を上げることができる」(東京大学次世代モビリティ研究センター長の須田義大教授)。米国では、車車間コミュニケーション、自動ブレーキ制御、広域無線ネットワークなどの技術を融合し、トラックの隊列走行をオペレーションする米ペロトンテック(Peloton Tech)といった会社も立ち上がっている(写真2)。

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写真2●米ペロトンテックは、自動走行が可能な大型トラックの公道における隊列走行試験に成功した(ペロトンテックのWebサイトより引用)

 こういった、大型トラックによる長距離輸送は、公民連携でできることはあまりない。これに対して、地域内の宅配部分は取り組めることがあるかもしれない。それを予感させるのが、米グーグルが2016年2月に取得した「Autonomous Delivery Platform(ADP)」というサービスの特許である。

 ADPでは、レベル4の無人運転トラックが鍵のかかったロッカーを運ぶ(図1)。小分けされたロッカーには配達する商品が受取人別に入る。受取人は、無人運転トラックが到着したら、ロッカーにPINコードを入力してロックを解除し、商品を受け取る。ヤマトホールディングスなどは、「顧客にはセールスドライバーの手渡しで」というスタンスで、今のところ、ここに自動運転を使おうという意識はない。ただ、買い物弱者が遠方にあるスーパーマーケットに電話で商品を注文し、無人トラックで都合のいい時間に玄関先まで商品を届けてもらうといったサービスを実現できると考えれば、魅力的ではある。自治体が買い物弱者対策としてADPのような仕組みを採用してもおかしくはない。無人運転トラックにドライバーではなく、受取人を補助するスタッフを同乗させるモデルも考えられるだろう。

図1●グーグルが特許申請しているADPでは、NFCカードやクレジットカードを使ってロッカーから荷物を受け取ることも可能(米国特許商標庁より引用)

ドローンやロボットの活用も買い物弱者を救済する

 もう一つ、物流によって買い物弱者を支援するという視点で捉えると、自動運転車以外に、ドローンや物流支援ロボットによる荷物搬送も有効な手段になる。

 幕張新都心でロボットタクシーと自動運転の実証実験を行う千葉市では、楽天など民間企業との共同プロジェクトで、ドローンによる宅配の取り組みについての実証実験も行っている(図2)。東京湾臨海部の物流倉庫からドローンで約10km離れた幕張新都心の集積所に荷物を運搬し、そこから別のドローンで高層マンションに宅配する。千葉市の構想では荷物だけでなく、処方医薬品や要指導医薬品もドローンによって宅配することで、病院での待ち時間の負担軽減などで利便性を向上させようとしている。

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図2●幕張新都心では高層マンションが多く、将来的には各部屋のベランダや各階のポートに荷物を宅配することを目指している(千葉市のホームページより引用)

 ロボットタクシーに自動運転技術を提供するZMPは、ロボット技術によって自律移動する物流支援ロボットCarriRoを開発した(写真3)。CarriRoは、1台目を押して運んでいくと2台目、3台目が自動的に追従してくる「かるがも走行」を実現した台車スタイルのロボット。現在、私有地内での利用を前提に今夏からの販売開始を予定しているが、いずれは公道で自律走行する無人配送での活用に期待されている。

写真3● CarriRoの自律走行についてはまだ開発中。まずはかるがもモードで、搬送業務の生産性向上を目指す(ZMPのホームページより引用)

 利用イメージはグーグルのADPに似ている。利用者は、精算が終わった商品をCarriRoに搭載された宅配用ボックスに入れてロックをし、そのまま自宅に帰る。自宅に着いたらスマートフォンを使ってCarriRoを呼び、玄関先でロックを解除して商品を受け取れば、CarriRoはまた自律走行で店舗まで戻っていく。遠方からの配送に利用することは難しいが、近隣のスーパーマーケットでの買い物でも、重い荷物を運ぶ負担を減らしたいというニーズは少なからずあるはずだ。

技術的には近づいてきたレベル4(完全自動走行)

 ここまで見てきたように、自動運転の取り組みは着実に前進している。日本をはじめ海外でも様々な実証実験が行われており、人の力を一切借りずに自律走行する車の実現は、技術面からはかなり現実的になってきた。米フォードモーターが実施したように、赤外線レーザーレーダーと3D地図などを活用し、真っ暗闇でヘッドライト点灯せずに自動走行することも可能になっている(写真4)。

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写真4●雪道に続き真っ暗闇での自動運転実験にも成功したフォードモーター(フォードモーターのホームページより引用)

 一方では、公道での実験中に、障害物を避けるために一旦停止して車線変更をしようしたグーグルの自動運転車が、後方から来たバスの側面に衝突するという事故も起こっている。グーグルの自動運転システム(AI)はバスの接近に気が付いていたものの、「車線変更しようとしている自分を見つけて、止まってくれるだろう」という判断のもとで発進したことが原因と見られる、いわゆる“だろう運転”による事故だ。

 ただ、このような事故は人間でも起こしがちで、公道における運転の経験不足から来ていると考えられる。“路上教習”として引き続き実証実験を重ねていけば、技術面ではレベル4(完全自動走行)の実用化はそう遠くないと思われる。

 とはいえ、自動運転、それも日本で期待されるレベル4の自動運転を実際に利用できるようになるには、技術面以外に大きな課題がある。規制と社会受容性だ。

自律運転車の課題はジュネーブ条約

 どんなに技術が成熟しても、法的に認められていなければ、公道で自動運転を利用することはできない。大きなハードルになっているのは、「車両には運転者がいなければならない」とするジュネーブ条約(道路交通に関する条約)である。日本がジュネーブ条約に批准している限り、少なくとも条約の解釈の面でレベル4が認められる必要がある。

 米国ではこの課題に対して「AIを自動運転車のドライバーとみなす」として、米運輸省のNHTSAがグーグルが行っているAIによるレベル4の無人運転を容認する見解を示している。また、州によって自動運転に関するルールが統一されていないため、フォードモーターとボルボやグーグル、さらに配車サービスを提供するUberとLyftの5社が「Self-Driving Coalition for Safer Streets」という企業連合を設立し、公道で自律運転車を走らせるための法整備について連邦政府に働きかけると発表した。

 日本でも、ジュネーブ条約の課題をクリアするアプローチについていろいろと考えられているが、神奈川県のさがみロボット産業特区において公道での実証実験を行ったロボットタクシーは、「自律走行の技術と遠隔監視、管制システムを連携させることがドライバーの代わりになる」(ロボットタクシーの中島 宏社長)と考えている。

 もちろん、国内の法整備も欠かせない。その意味では、自動車として扱われない、歩行者と同程度の時速6kmで移動する車両なら、実用化の時期が早まる可能性がありそうだ。

現時点でも自動運転の社会受容性は意外と高い

 一方で、無人の車が公道を走っている状況を違和感なく世間に受け入れてもらうという、社会受容性を高めていく取り組みも重要である。

 自動運転について、一般的にはどのように捉えられているのか。警察庁の委託を受けて日本能率協会総合研究所が行った、「自動走行の制度的課題等に関する調査研究報告書」における自動運転に関するアンケートでは、「アクセル・ハンドル・ブレーキ操作のすべてが自動的に行える自動走行システムの利用意向」について「利用したい」と答えた割合の合計は69.3ポイントで、「あまり利用したくない」と答えた35.5ポイントの約2倍である(表1)。また、自宅前の道路で自動運転の実証実験を行うことについても、「賛成する」「どちらかといえば賛成する」(47.6%)が「反対する」「どちらかといえば反対する」(12.3%)を大きく上回っており、現時点で自動運転の利用に対する期待は高い。

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表1●「平成 27 年度警察庁委託事業:自動走行の制度的課題等に関する調査研究報告書」(日本能率協会総合研究所)から抜粋

 人の移動とモノの移動を支援する自動運転。その活用は、買い物弱者や移動弱者を抱えて高齢化に窮する市町村の悩みを解決する。実用化し、我々の生活に溶け込ませていくために今やれることは、地方自治体と企業が一体となって「各地の公道で実証実験を繰り返して安全性をアピールし、受容性を高めていくこと」(東京大学の須田教授)である。

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