新・公民連携 円卓会議 2016

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地方創生を本音で徹底議論する

新・公民連携 円卓会議 2016

構成:守山 久子=ライター【2017.3.31】

こうすれば、地方創生はもっとうまくいく――。2016年12月22日、民間の立場で地域活性化に取り組む8人のキーパーソンが都内・秋葉原に集結した。制度設計の方向性、地方と東京の関係、公民連携の在り方など、本質的な問題を捉えた討論が繰り広げられた。

(写真:北山 宏一)

外の声を押し付けずに地域の動きを引き出す

――日本のPFI草創期から公民連携の取り組みに携わってきた立場から、地域活性化の支援において何が求められていると考えるか。

井熊(日本総合研究所) 最近、「私たちが提案し過ぎないこと」の重要性を感じている。行政もシンクタンクも一生懸命、地方創生について考えてきたが、お仕着せの政策には限界がある。地域の人たち自身が言い出し、動き出さないと、取り組みは長く続かない。

 東日本大震災の後、会社としてボランティア活動に携わった。そのときに社内で話し合ったのは「まず被災者に寄り添うことから始め、本当にできることがあれば何かしよう」ということだった。そして、被災地で現地の人たちと定期的に芋こじ会を開くようになった。最初はみんな落ち込んでいたが、やがて自発的に「このままではいけない」と、その地で途絶えていた絹織物を再興しようと動き始めた。今は自分たちでカイコを育て、手で紡いだ絹で織物をつくり、販売もしている。地域の人たちが1つの芽を育て上げていった様子を見て、強く心を動かされた。

 「啐啄(そったく)の機」という言葉がある。卵のふ化で、ヒヨコが卵の内側からコンコンと合図をしたときに親鳥が外からちょっと突いて助ける、そのタイミングを意味している。外部の人間は、地域の人たちが自ら動き出すまでじっくりと待ち、その啐啄の機を感じられるようになっていくことが重要だと思う。

――地方が発展していくには、東京はどのような役割を担っていくべきか。

河野(森ビル) まず、東京といっても、「外資系企業が集まる六本木や虎ノ門」「金融の中心である大手町・丸の内・有楽町」など、地域ごとに特徴を持っている。

 そこに企業が来るということは、プレーヤーが来るわけで、プレーヤーが来るということは家族を連れてくるということだ。そのための生活環境、住環境、コミュニティの環境などが整っていなければ、世界の都市間競争で生き残れない。

 一方、地方の場合、東京と正面から争って勝つのは厳しいとしても、その地方を選択した人に「心」の満足を提供できる。もちろん、経済が成り立っていることも重要でありバランスは難しいが、東京では得られないものを提供できるだろう。

 都市と地方は、実はそんなに区別して考えることではなく、日本や世界の中での選択肢の1つであり、それぞれの人たちが目指しているもの、置かれている環境の中で選択するということだと思う。

 とはいえ、東京の発信力は他の都市よりも強いのは確かであり、それを地方創生のために生かしたいという気持ちもある。虎ノ門ヒルズが位置する新虎通りでは、2月から常設ブースなどを設けて、日本全国のモノや食などを発信する「旅する新虎マーケット」(*1)がスタートする。

*1 「旅する新虎マーケット」は、2020年東京オリンピック・パラリンピックを活用した地域活性化推進首長連合(会長:國定勇人・新潟県三条市長)が主催。全国から463自治体(2017年1月17日現在)が参加している。約3カ月ごとにテーマを設け、旬の食やアイテムを集め、地方の魅力をアピールする。
常設施設の1つ「旅するスタンド」のイメージ(資料:2020年東京オリンピック・パラリンピックを活用した地域活性化推進首長連合)

――長岡市の市庁舎「アオーレ長岡」(*2)の設計では、市民の参加するワークショップを開いて建物づくりを盛り上げたと聞く。

*2 アオーレ長岡は、2012年に開館した長岡市役所(新潟県)の市庁舎。郊外にあった旧市庁舎の老朽化に伴ってJR長岡駅前の商店街の中に移転し、アリーナや市民交流ホールなどと複合させた。分割された低層の市庁舎の中央に、市民が気軽に足を運べる屋根付き広場「ナカドマ」を配している。
ナカドマの様子(写真:日経アーキテクチュア)

隈(建築家) 設計コンペで選ばれると、私たちはまず地元の人たちから「東京の建築家が来た」と警戒される。建築家が設計すると工事費が高くなるのではないか、地元の要望を聞いてくれないのではないかと不安視されるのだ。

 外から乗り込んでいく私たちは、こうした警戒心を解きほぐす作業から始める必要がある。

 そこで最初に、「私たちはコンペ案そのままの形にこだわっているわけではなく、地元の声を反映させながら設計を進める」と伝えて安心してもらった。

 さらに、縮尺50分の1の大きな敷地模型を何種類か作成して現地に持ち込み、子どもたちと一緒に遊ぶイベントを行った。市民参加のワークショップも開催した。建物の中央に設ける屋根付き広場「ナカドマ」をどう使いたいかというアイデアを出してもらい、必要な内容は随時設計に盛り込んでいった。

 そのときには、建築家側が柔軟に対応するという姿勢を直接示していくことが重要だ。同時に、ワークショップの開催によってプロジェクトに対する市民の当事者意識を高めてもらう狙いもあった。

 計画を進めていく過程では、地元の目線を大切にすることも重要だ。

 アオーレ長岡の設計に際して、ナカドマに居酒屋やレストランを設けると、集客装置として高い効果が見込めるという提案もしたことがある。しかし、当時の森民夫市長から「周辺の商店街に人を流したいので、施設内にそうした店舗はいらない」と断わられた。地域の事情を深く読み取らずに安易な提案をしてしまったと反省している。

森田(大和リース) こうした話や、賑わっているという評判を聞くと、人々は興味を持って「アオーレに行ってみよう」という意欲が湧く。地域の活性化には、そんな「ワクワク感を与える」という視点も大切だ。つくる側自身も、面白い建築をつくろうと意欲的に作業していくことで、仕事に誇りや楽しさが生まれる。

(写真:北山 宏一)

個性と制度のはざまで現況を打破するには

――建築もそうだが、農業も外から人が行くと警戒されるのではないか。

小池(ベジタリア) 隈氏が語ったように、外部の人間が地域に入り込むことは簡単ではない。私も農業を始める際に苦労した。

 現在、全国には約42万ヘクタールの耕作放棄地があり、後継者が不足している。こうした実態を踏まえると、農地は簡単に借りられるだろうと思っていたが、そう甘くはなかった。背景には、外からやってきてすぐ離農してしまう人が少なくないという現状もある。時間を掛けて溶け込んでいく努力をして、ようやく地元に受け入れてもらえた。

――その後、ICTを活用した農業支援サービスを展開していくが(*3)、やはり現場に入らないと開発できないものなのか。

小池 私たちは地元の生産者らと組み、収集した圃場のデータを農作業の品質向上や効率化に生かす支援システムを開発してきた。

 自然を扱う農業を対象とするので、理論に基づいてプログラムを構築すればよいというわけにはいかない。実際に作業してみないと分からない点が多い。新潟市や北海道余市の開発拠点では、地域で農作業もしながら開発作業を進めている。

*3 例えば農業用圃場環境モニタリングシステム「フィールドサーバ」は、収集データ(温度・湿度・日射量や農場の映像の記録など)により、データに基づいた栽培管理が可能とする。スマホやタブレットでデータ確認もできる。水稲向けの水管理支援システム「パディウォッチ」(写真・設置イメージ)は、センシング技術を使って水田の管理作業を効率化する。
(写真:ベジタリア)

 このように地域密着の仕事をしていると、外部からやってきた我々も、次第に自然をはじめとする地域の多様な“お宝”を実感するようになる。

 都市から移住すると不便なことも多いが、都会とは違う価値観を見つけ出し、それを楽しんでいる自分に気付く。生活と仕事が充実した先に、明るい未来の社会を描くことができる。自分自身がそこに住んでハッピーになりたいという気持ちが地域活性化の原動力になっている。

 結局、「地方創生」は、外から言われてするものではなく、やりたいと思った人が主体となって進めるものなのではないか。

――地方創生の主体は誰か、という話になったが、地方を拠点とする挾土さんの意見を聞きたい。

挾土(職人社 秀平組) どの街にも、5年から10年を掛けて本物をじっくりつくっていくプロジェクトが1つぐらいあっていいのではないか。

 イベント型の仕掛けを試みても、一時的な効果しか生み出さない。地域ごとに蓄積してきた技と、その技が生み出す本物の景観こそが、人を呼び込む大きな武器になる。

 しかし、その景観をつくってきた職人はどんどん減っている。職人が残っている今のうちに本物を積み重ねていく作業を行う必要がある。

――職人の技術の継承は、かなり危機的な状況なのか。

挾土 職人の仕事を地道に続けていくには根性が必要で、弟子を育てることは難しい。特に最近はテレビやスマホが普及して多くの情報が出回るようになったため、若い職人の関心がほかのことに移りやすい。そういう環境の下で、後継者をどう育てていくのか、頭を悩ませている。

 また、外国人と日本人のどちらを対象にするかで、まちづくりの方向性は変わる。外国人観光客が増えると、地域の店も外国人仕様になっていくからだ。すると目の利く日本人は離れていってしまう。彼らを呼び戻すために、地元の良い場所を1泊2日で回ってもてなすルートをつくるなど、まちづくりの在り方を改めて検討することも必要ではないか。

 もう1つ、地域でユニークな取り組みをしようとすると、既成の法律の制限があって動けないことも多い。ずっと取り組んでいる「歓待の西洋室」(*4)でも、そうした理由で進まない部分もある。

*4 仲間たちだけの手で、当時と変わらない技能で現代の良さと融合させた復元を目指す。プロジェクトは十数年におよび、現在も進行中だ。挾土氏の自邸もまた、技術の粋を集めた空間だ(写真)。こちらは「和」をテーマとしている。
(写真提供:挾土秀平)

 地域に見合った「小特区」や「極小特区」をつくるなど、個性とエネルギーを持ったやる気のある人を許容する制度はできないものかと思う。

 地方創生では特に、個人をベースにした取り組みが重要になる。組織的な動きが色濃くなると、相性が合わない部分が出てくる。

井熊 最終的に大切なのは人だ。魅力を持つプロジェクトであれば、どこかにその価値を理解してくれる人がいる。その人を見つけると、道が開けていくのではないか。良いプロジェクトを企画することが先にあり、法や制度は後から付いてくるものと考えている。

――個々のプロジェクトから現状を変えていく一方、制度をいかに突き動かすかという役割も民間にはある。森ビルはこれまで再開発に合わせて制度提案を試みてきた。

河野 六本木ヒルズ(2003年開業)の都市計画原案ができたのは、1992年。スマホもない時代だ。開業の11年も前に計画して世の中に出る頃には、技術進化とともに、ライフスタイルもビジネススタイルも大きく変化している。法律や制度はこうした時代の変化に適応していない。

 技術革新がさらに加速する中、特区を活用したり、条例も法律も緩和する運用を取り入れたりするなどして、変化を広く受け止められる柔軟性や可変性ある都市計画や建築制度が必要だ。そうすることで、新しいビジネスや文化が生まれ、雇用も創出できる。

涌井(東京都市大学) 昨今は官と民の癒着に対する目が厳しくなり、省庁が民間企業と話をするテーブルが無くなっている。それでも、民間の率直なニーズをぶつけることで法律が変わる場合もある。これから国会に提出される予定の都市公園法の改正案はその一例だ。

 国内にはこれまで総面積12万ヘクタールの都市公園が整備されてきた。ところが行政側は量的水準の達成で満足し、財政収縮が求められると、公園をできるだけ使わせないように様々な行為を禁止する。その結果、価値のない場所がまちなかに残されるという状態を生み出した。

 民間企業から見れば、これほどもったいないことはない。公園を明るく整備してカフェでも設ければ、人が集まる楽しい場所になるだろう。ところが現状の都市公園法には屋外広告物規制などがあるため活用が難しい。そこで私たちは、「公園はいったい誰のためのものか」という原点に立ち戻って法を見直すよう提起した。それにより都市公園法は、民間の活力を大幅に導入する方向で改正案がまとまった。

赤池(ユニバーサルデザイン総合研究所) 行政に働きかける際には、市場でユーザーを動かす手法を具体的に示すと効果的だ。

 例えば、林野庁による国産木材の振興策といえば、大規模な木工団地や林道の整備という供給者向けのプロジェクトが中心だった。それに対して私たちは、商流の末端にインセンティブが付く、「木材利用ポイント」の補助事業を提案し、制度設計をサポートした。その結果、3年間で約1800億円の経済波及効果を生んだ制度が実現した。さらに、より先導的な木材活用モデルを顕彰する、「ウッドデザイン賞」(*5)というアワードも生まれた。

*5 ウッドデザイン賞は2015年に創設された(林野庁の補助事業)。2016年は、外板やフレーム、内装などに木を使ったトヨタ自動車のコンセプトカー「SETUNA」が大賞を受賞。
SETUNAの外観(写真:トヨタ自動車)

 ポイントは、市場に大きなインパクトを与える大企業との連携の道筋を描くことだ。「木材利用ポイントを立ち上げれば、大手ハウスメーカーが国産の地域材を用いた住宅商品を積極的に企画販売するようになる」というシナリオを提示すると、行政も納得して動きやすい。

多機能の組み合わせに民間の知恵を生かす

――地域活性化に向けては、民間の役割が期待されている。国もコンセッション(公共施設等運営権)方式の推進など積極的に動き始めた(*6)。

*6 コンセッション方式とは、所有権は公共側に残したままで、長期間運営する権利のみを民間事業者に売却する民営化手法のこと。2011年のPFI法改正時に導入された。

井熊 日本経済にとって公共資産のバリューを上げていくことは非常に大事。従来の日本の入札制度にのっとって、価値向上を実現するのは難しかった。その点、コンセッションのような、民間の発想でメリハリの利いたお金の使い方ができる制度は、公共資産に新しい価値を生むきっかけになると思っている。

森田 愛知県有料道路運営等事業(*7)では、当社も参加する特別目的会社が2016年8月に契約を締結し、国内初の道路コンセッション事業が動き出した。

*7 愛知県有料道路運営等事業(有料道路コンセッション)は、愛知道路コンセッション(前田建設工業を中心に、森トラスト、大和リース、大和ハウス工業、セントラルハイウェイが出資・設立したSPC〔特別目的会社〕)が、愛知県道路公社と契約して有料道路8路線を運営している。契約期間は2016年8月31日~46年3月31日。運営権対価は1377億円。事業者の主な業務は、運営権設定路線の維持管理・運営業務、改築業務、パーキングエリア(既設6カ所、新設2カ所)の建設、営業、地域活性化(道路区域内外の任意事業)。
地域活性化事業で整備するパーキングエリア隣接の商業施設「愛知多の大地」のイメージ(資料提供:愛知県)
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 当社はパーキングエリアの新築2件と改修2件を担当するほか、パーキングエリアに隣接した商業施設でファーマーズマーケットの整備を検討している。並行して、地元酪農家から買い取る牛ふんなどを用いたバイオガス発電を行い、そこでつくられた有機肥料を地元農家に回す。そして、その肥料を使って地元で取れた有機野菜を出すという、地産地消を実現したいと思っている。道路施設の価値をいかに高めるかという視点から発想したものだ。

 携帯電話とインターネットとカメラを組み合わせてスマホが生まれ、駐車場とトイレとマルシェ、レストランを組み合わせて道の駅ができた。異なる機能を複合することで新しい価値が生まれる。

河野 私たちは、六本木ヒルズや虎ノ門ヒルズに公開空地を持っているが、どういう仕掛けをしたら楽しくなって人が集まるかをまず考える。地域に賑わいが生まれることが、公益にもつながっていく。

 都市公園についても、民間が収益を出しながら管理する公園全体のマネジメントを担えるようになれば、平時のために集客の仕組みをつくり、発災時に震災施設として機能させるといった発想が可能になる。

 例えば、公園にジョギングコースをつくり、更衣室とシャワールームを備えたランニングステーションを何カ所か設けて民間で運営する。いざ地震が発生した際には、ランニングステーションは乳児の授乳や赤ちゃんのオムツ替えを行う衛生施設になる。

涌井 公園に限らず、河川や道路など従来のインフラは、目的とする機能以外での利用を排除してきた。しかし今後は、他の機能も複合化させて価値を高めようという意識が必要だ。社会資本を重層的に考え、多機能化を図ることで、無駄な公共投資も防げる。そうした方向性が生まれてくれば、民間企業が関わる機会は増えるだろう。

赤池 多様な機能を組み合わせる場合、生産性向上というビジネスの「分母」の話も大切だが、付加価値向上という「分子」について、もっと考えるべきだ。そのときに事業益と公益を両立させるCSVの考え方も有効になってくる。

 鹿児島県のメーカー(下堂園)と一緒に開発した「ボトリングティー吟醸茶」という商品は、栽培地の常温の水で有機栽培の茶葉からお茶を抽出しているが、このときに超音波の技術を使ってうま味を抽出している。1本5400円という価格だが、JR九州の「ななつ星」やANAの国際線のファーストクラスなどでも提供され、年間で2万4000本ほど売れた。すると、有機JAS認定を取りたいという地元の茶葉生産者も増えていく。

 こうして地域のいろいろな事業者を連携させて付加価値を高めた商品を開発していけば、生産者の増加につながり、国内・海外での競争力も高まる。現実的な地方創生へと結び付いていく。

森田 ビジネスの世界では、弱みを補っても他社と同じになるだけだ。価値を高めるには、強みを重ねる必要がある。お互いが強みを磨き、それを重ねることで新たな価値が生まれてくる。そうした積み重ねが大事だと感じている。

涌井 本来、科学と技術と技能は一体であるべきだ。しかし今日の日本では、科学と技術はつながっているが、技術から技能へという流れが断絶してしまっている。

 日本人は古来、扱いが難しく多様な自然と向き合いながら豊かな感性と洞察力を身に付けてきた。しかし今、それらに基づく技能が急激に失われつつある。

 今後、日本人が新たな技術やジャンルを開発できるようになるには、かつて備えていた感性や洞察力を再び取り戻す必要がある。

(写真:北山 宏一)
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*「新・公民連携 円卓会議 2016」(開催日:2016年12月22日 場所:TKPガーデンシティPREMIUM秋葉原〔東京都千代田区〕 主催:日経BP総合研究所)より。各氏の発言内容、所属組織、肩書きは会議開催時のものです。

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