裁判になると会社は社員の「過去」を掘り返す

Q 今後、民事裁判に発展することはありうるのでしょうか。かつての電通事件の裁判の資料に目を通すと、電通側(被告)は、24歳の男性社員の私生活(父親との関係、女性関係)にまで踏み込み、会社の正当性を主張しています。

 裁判に発展すれば、事件の内容などにもよりますが、会社の側がその社員の過去にさかのぼり、既往症など何らかのことを持ち出し、会社には非がなかったと主張することはありえます。

 精神疾患になった高橋さんのケースが裁判になるとすると、電通側は、高橋さんの生育歴などにさかのぼり、過去にも精神疾患になっていなかったかなどを調べる可能性はあります。これは、自死などの裁判では頻繁に起きていることです。

 それについていえば、私が会社と争おうとする依頼人(本人、家族、遺族など)に説明しているのは次のことです。

「裁判などで会社の側は過去にさかのぼり、調べてくることがある。それを法廷に持ち出すこともある。そのことは、あらかじめ心得ておいてほしい。会社のそれらの言い分や主張の多くは、説得力のあるものではない」

 会社の側が社員のことを過去にさかのぼり、「こういう問題があった」と持ち出すものの中には、事実とはかけ離れたものもあります。それらを聞いていた本人や家族、遺族などがショックで体調を崩してしまうこともあります。

 ただし、今回は、電通は遺族と裁判をすることは望んでいないだろう、と私は想像します。ここまで厳しい世論を受け、なおも、裁判で闘うことは求めていないと思うのです。少なくとも、これ以上、遺族や世論を刺激し、火に油を注ぐことは避けたいと考えているだろう、と私は思います。