シンポジウムI 超高齢社会 アカデミアからの予測と課題
老年学の立場から
老いること、高齢者の現実 介護予防の重要性
科学的に証明された高齢者の心身の高い能力の活用を
高齢者の真の姿や本質を理解する
超高齢社会における危惧の1つとは、高齢者が増える一方で、労働人口が減ることとされている。しかし、そもそもこの「高齢者」という定義は、平均寿命が短かった時代に特段の根拠もなく65歳以上を高齢者と思考したフレームから作られたものだ。現在のように平均寿命が80~90歳まで延びた社会で、特に前期高齢者の身体機能が非常に優れている状況にあっては、以前と同じ定義でいいはずがない。
特に団塊の世代の多くは、高度経済成長に伴う世界的なビジネス経験を通し、国際的な知識やノウハウを身につけている。その人たちも65歳になれば一律に高齢者だから、年金をもらって慎ましく暮らせということで本当にいいのだろうか。もちろん、中には知力や体力が衰えている人もいるだろう。しかし、多くは65歳を超えても就労意欲があり、それに適応できる健全な体力を持っていることは、科学的にも証明されている。
現実には高齢者がこれほど元気になり、社会需要に充分応えられる存在であるにも関わらず、彼らは常に社会のサービスの受け手としての「分子」であって、「分母」にはなり得ない。そのことが一番大きな問題だ。例えばフランスでは、高齢者が7%の「高齢化社会」から14%の「高齢社会」になるのに100年以上かかったのに対し、日本はわずか25年程で到達した。100年もあれば社会が高齢化に対して熟成され様々な事象も変化し、それに伴って高齢者のイメージも変わっていく。ところが高齢化社会から急速に超高齢社会まで達したことで、人々の意識が容易に変わらない。しかし、高齢者の健康実態や能力、特に社会の生産性との関連性を正しく理解できなければ、その本質を見誤ってしまう。
早期発見と
早期対処で介護予防を
一方、75歳以上の後期高齢者になれば、どんなに病気や介護の予防に努めても、心身の虚弱は必ず出てくる。2030年は、これまでのように若い層が少しずつ高齢化していくプロセスとは異なり、高齢者が高齢化し、後期高齢者が急激に増える社会になる。そこで、高齢者の自立機能を正しく評価すれば、疾病や介護の予防のアプローチも変えられる。事実、要介護の4割を占めるのは、病気とは異なる衰弱、転倒、痴呆といった「老年症候群」であることがわかってきた。これを予防するため、健診によって老年症候群の早期発見と早期対処に導くデータも揃いつつある。今の時点では、できる限り80歳まで元気で生きられるよう介護予防に努めることも1つの方策だ。同時に、高齢者が地域で安心して暮らし、医療や福祉、自分の尊厳や自立を保障してもらえる仕組みを、各々の課題として考えていくことも不可欠である。