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噺家・柳家三之助の「落語の世界へようこそ」
第54回 蜘蛛駕籠
2009/04/24

 だいぶ暖かくなってきました。4月から身の回りの環境が変わった方もいらっしゃると思いますが、もう慣れましたでしょうか。

 九州で桜の咲いたのがもうひと月も前なのに、北海道ではぼちぼち桜の便りが聞こえようというこの時期、穏やかな陽気に身体をあずけることの出来るよい日和ですね。

町民の旅の乗り物は駕籠
噺家・柳家三之助
噺家・柳家三之助

 「蜘蛛駕籠」という噺をご存じでしょうか。なかなか日常使わない漢字ばかりなので、噺家になった当座にはずいぶん苦労をさせられました。

 前座の仕事のうちに「楽屋のネタ帳をつける」というのがありますが、噺の演題にはこのような面倒な字がずいぶんと出てくるのです。実はわたくし、実際の帳面に「蛛蜘駕籠」と書いて先輩に小言を言われたことがありまして、その他「厩火事」とか「蒟蒻問答」とかややこしいものに悩まされたのも今はよい思い出です。あ、念のため申し上げておきますが「蜘蛛駕籠」「くもかご」と読むんです。

 落語を一席申し上げるときに、みなさんを噺の世界にすっと入ってきてもらうことを念頭に置きながら、昔と今との違いにそっと触れることがございます。落語の登場人物は昔も今もあまり変わりはないんですけれど、やはりそれを取り巻く生活環境は激変しました。現在当たり前だと思うものが、昔はそうではなかったということにふっと気づいてもらうことが大切です。

 その中でも交通の進歩というのがめざましいなとつくづく思います。われわれ噺家が日本全国いたるところでおしゃべりが出来るのもこの交通の進歩あればこそ。中には世界をまたにかけて飛び回っている人もいます。

 そのかわり、あまりにも便利なために日帰りできるところが増えてしまったのが残念です。土地のうまいもの、うまい酒に全くありつけずにまるで近所に小買物に出かけたような簡便さで自宅に帰ってきてしまうのは、寂しいと思うこともございますな。

 噺に出てくる乗り物というのはそれほど多くありません。旅といえば歩行、というのが当たり前で、大名だとかよほどの身分でないと旅を通して乗り物に乗るなんてことは無理なはなしです。庶民にかろうじて手が出るものは船や馬、そして今回登場する「駕籠」です。

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