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第51回 夢の酒

噺の品格の中心はあとで出てくる大旦那

 夢の続きをみたいと思う気持ち、というのは誰にでもありますな。ごくまれにまたとろとろっとその続きを見ることはありますが、これはコントロールできるものではなく、神頼み。神に頼るほど目が覚めてしまったら、もう続きは見られないという矛盾。そしてこの噺にも続きはありません。

 いやあ。なんと落語らしい。なんと形のない噺でしょうか。形がないから説明なんて本当に野暮。ぜひ一度お聞きいただきたいと思います。何にも頼れない、つかみ所のない、朝靄のような噺がこの「夢の酒」です。

 この噺の本当の骨格、つまりサゲだけで構成するならば五代目古今亭志ん生師匠がよく酒の噺のマクラで小咄としてやっておりますね。20秒で終わっちゃう。八代目桂文楽師匠が品よく仕立ててくれたものが、今現在われわれの「夢の酒」として残っております。あとへ続くものはみな、その品の良さを年頭に置きながら噺を仕上げ、その品格の中心はあとで出てくる大旦那に依存します。あたくしもこの噺、手がけたことがありますが、本当にこの大旦那が難しい。

 今の世の中はとかくギスギスとしがちなのですが、若い人がとんがるのはそれはいつの世も一緒です。そこに年を重ねた大御所が暖かく見守っていて、時々はたしなめてくれ、教えてくれるからこその世の中。年を取るということはまさにこの方法を蓄積していくということなのでしょうな。ああ早く年取りたい。そんなお手本が身の回りにいることの嬉しさが、噺家にはございます。

 お客様には「夢の酒」でこの大旦那の生きてきた道を感じていただければ幸いです。今日はわたくしも黒門町の師匠にならって、ふわふわっと終わりましょう。

 おやすみなさい・・・。


筆者プロフィール

柳家三之助(やなぎや さんのすけ)
1995年に十代目柳家小三治に入門。「小ざる」の名で前座修行ののち、1999年に二ツ目昇進。柳家三之助と改名する。都内の寄席や全国の落語会で精力的に高座を勤める傍ら、インターネット上の様々なコンテンツで落語の普及に努める。興味のあることは片っ端から手を出し、雑誌などのコラムの執筆のほか、2006年に翼のプロとの対談集「オールフライトニッポン(風濤社刊)」のほか、Yahoo!インターネット検定・落語「通」検定の問題作成、公式テキスト「粋に楽しむ落語(インプレスジャパン刊)」を執筆した。最近はウイスキーをこよなく愛する日々である。
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