ここから本文です
噺家・柳家三之助の「落語の世界へようこそ」
第13回 目黒のさんま
2007/08/31

 夏休みが終わります。今年の夏はいかがお過ごしでしたでしょうか。夏の寄席に一度くらいは足を運んでいただけましたでしょうか。これから季節は秋へと移ろいでいくわけですが、まだまだ暑い日は続きます。最後まで気を抜くことなく体をいたわりましょう。

 「天高く馬肥ゆる秋」なんてことを申しますが、秋という季節はいろいろとキャッチフレーズの多い季節です。読書の秋、スポーツの秋など枚挙に暇がありませんが、わたくしの場合何をさておいても「食欲の秋」です。」一年中食欲の絶えない中で、唯一胸を張っておいしいものを頂くことができるよい季節になってきました。

 そんなわけで今回は秋を代表する噺、「目黒のさんま」のお話をしましょう。

庶民の目線で作られた噺
噺家・柳家三之助
噺家・柳家三之助

 さんま、というのは漢字で書くと秋刀魚。日本の当て字文化も芸術の域に達しております。まさにその通り!お見事!なんですが、噺はあくまで「話し言葉」。この噺の演題として「目黒の秋刀魚」と書くことはあまり粋ではないような気がします。漢字で書くのか、そうでないのかというくだらないことにちょっとこだわったりするのも好きなんですよね。

 例えば「かぼちゃや」という噺があります。わたくしは「かぼちゃ屋」とは書かないんです。この噺は店を構えないで天秤棒を担いで売り歩くかぼちゃやの噺です。お店を構えていれば「屋」を使ってもいいなあと思うんですが、そうでないものには「や」と使う。これに科学的根拠はありませんが、この方がほんわかして好きなんです。有名な「道具や」もそう。この提案にご賛成の方、清き一票を!

 正しいとか、間違いとか、そんなことよりも大切にしたいことがありますよね。

 「さんまは目黒に限る」という言葉がまるで一般先行発売されたように一人歩きしているこの噺、「寿限無」同様、実際にその噺を隅から隅までご存じの方となると、少し数が絞られるようです。実際に聴いていただくのが一番いいですが、あらすじでしたらインターネットですぐに分かっちゃいますので、是非ひと手間お願いします。

 江戸の落語というものは残酷なもので、東京以外にお住まいの方がこの噺を楽しむには少しだけ地理と歴史のお勉強をしていただく必要があります。目黒がどの辺にあるのかということ、今でこそおしゃれな街である目黒ですがその頃は江戸の田舎の外れ、殿様が狩りに出かけるような場所だったということ、魚河岸が今の築地ではなくて日本橋にあったということなど、基本的なルールは押さえておいてくださいませ。

 この噺の根底にあるのは「庶民」の存在です。世の中がどんなに進んだって、この庶民がいなくなるということはありませんし、本当に社会を支えているのはこの人たち。主役であることに変わりはありません。

 その庶民の目線で作られたこの噺を一言で表すとすれば「殿様はろくな物を食っていない」というお話です。どんなに豪華な食事だったとしても、自分が食べたいものを食べられなければそれは不幸です。身分制度の厳しい中、お上への反骨精神の現れの一つとして、貧しいながらも楽しく暮らしている庶民はそこに「同情」し「共感」するわけですな。

1ページ 2ページへ 次のページへ
この記事のバックナンバーを読む
 
「セカンドステージ マガジン」 配信開始
セカンドステージでは,HTMLメール「セカンドステージ マガジン」の配信を始めました。毎週1回水曜日に配信いたします。
サイト上の更新情報やイベント,セミナーの情報をお送りするとともにメールならではの特典,イベントの提供をいたしていく予定です。
メール配信をご希望の方はこちらのページからで配信登録をお願いします。

→バックナンバーはこちら

セカンドステージ メールマガジン
サイトマップを見る
セカンドステージ連載一覧


日経BP社の書籍購入や雑誌の定期購読は、便利な日経BP書店で。オンラインで24時間承っています。

ご案内 nikkei BPnetでは、Internet Explorer 6以降、 Safari 2以降、Opera 8以降、Netscape 8.1以降またはHTML 4.01/CSS level 1, 2をサポートしたWebブラウザでの閲覧をお勧めしております。このメッセージが表示されているサポート外のブラウザをご利用の方も、できる限り本文を読めるように配慮していますが、表示される画面デザインや動作が異なったり、画面が乱れたりする場合があります。あらかじめご了承ください。

本文へ戻る