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噺家・柳家三之助の「落語の世界へようこそ」
第7回 まくら
2007/06/01

 6月になりました。クールビズ,なんという言葉が身近になって「衣替え」という言葉と置き換わりつつあります。われわれ噺家も6月からは単衣(ひとえ)の着物,ということになるんですが私たちが落語を演じる「高座」という場所,ここは照明が強いため,お客様よりも暑いんです。なかなか世間通りの感覚で更衣するというのは難しいのですが・・・ここはやせ我慢やせ我慢。

 さて,今回からはいよいよ落語についてのお話をしていきましょう。一席の高座はいくつかの流れがあります。その流れに沿ってご説明してゆきましょう。

噺の頭につくので「まくら」
噺家・柳家三之助
噺家・柳家三之助

 出囃子に乗って登場した噺家は座布団の前に座ると扇子を前に置いてお辞儀をします。扇子を前に置くのはお客様とわれわれ芸人を隔てる結界のような意味合いがあるといわれ,同じ空間にありながらこの結界を張ることでお客様とわれわれとの間にある種の緊張感をかもし出すような,そんな気がいたします。迎え手といわれる拍手はこの頭を下げるところまで頂戴できますと,とても嬉しいです。

 中には高座に出た瞬間にかけ声をくださるお客様がいらっしゃいます。 「待ってました!」とか「たっぷり!」なんというかけ声は芸人の気持ちを高揚させますし,また他のお客様の気持ちも高まりますね。

 昔はその芸人の住んでいるところ,町名でもって声がかかるということがありました。例えば八代目桂文楽師匠は,上野の黒門町に住んでおりましたので「待ってました!黒門町!」なんという風に,古今亭志ん生師匠ですと「日暮里!たっぷり!」なんて韻を踏んだりして粋なもんでした。声をかけて嬉しいような町名もだんだん少なくなってしまって残念です。「待ってました!日の出荘二号室!」これじゃあどうも締まらねぇ・・・。

 たいていの場合,噺家はいきなり噺に入ることはいたしません。お客様にご来場のお礼を申し上げたり,自己紹介をしたり,季節や時候の挨拶などから「まくら」といわれる噺の導入部に入っていきます。

 「まくら」というのは「頭に付く」という洒落から生まれた言葉のようです。噺の頭に付くからまくら,というわけですね。基本的にまくらというのは本題の噺に応じた話題であるとか,また小咄などを指すのですが,最近ではフリートークとでもいいましょうか,縦横無尽に噺家の視点から世の中の森羅万象を話題にして楽しんでいただく,独立したまくらが増えてきました。雰囲気としては「漫談」というものに似ているかもしれませんが噺家がやる場合は「まくら」と言って差し支えないでしょう。

 なかには「まくら」だけで一席になってしまうものもあります。古典落語を期待されていたお客様は驚かれるかもしれませんが,お客様が楽しんでいただける,噺家のおしゃべりは全て「落語」と言ってもいいのだと思います。わたくしの師匠である十代目柳家小三治も「まくらの小三治」というありがたいようなありがたくないようなあだ名がありまして,このまくらの部分だけが本になったり,CDになって発売されていたりします。

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