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マイルス・デイビス 第2回
『カインド・オブ・ブルー+1』
『カインド・オブ・ブルー+1』

 個人的にマイルス・デイビスの最高傑作と考えているのがこの『カインド・オブ・ブルー』だ。わが国の人気からいえば『ラウンド・アバウト・ミッドナイト』(前回記事はこちら)のほうが上だという。これはレコード会社の売り上げ枚数からも証明されている。たしかに『ラウンド・アバウト・ミッドナイト』も歴史的な大傑作である。けれど、ぼく個人としてはどうしても『カインド・オブ・ブルー』をそれよりも上にあげたい。理由は、ここに聴くマイルスの繊細この上ないプレイにある。

 『ラウンド・アバウト・ミッドナイト』における表題曲のリリシズムにも他の追随を許さぬものがあった。しかし本作に収録された「ブルー・イン・グリーン」(試聴できます)の、か弱い女性を思わせる繊細さと芯の強さが同居した独特の表現にはかなわない。《卵の殻の上を歩いているようだ》と形容した評論家もいるが、それほどまでに「ブルー・イン・グリーン」における絶妙な表現は天下一品だ。

 そして、ここではビル・エヴァンスのピアノ・プレイがマイルスの繊細な表現を一層強調してみせる。マイルスとエヴァンス──彼らふたりが組み合わさったことから微妙な表現がこの演奏をはじめ作品の至るところで展開されていく。そこが『ラウンド・アバウト・ミッドナイト』との大きな違いだ。

 『ラウンド・アバウト・ミッドナイト』におけるレッド・ガーランドのピアノ・プレイも素晴らしい。けれど彼の真価が発揮されるのは、賑やかなメロディや次々と変化するコード進行を持った曲においてのことである。一方のエヴァンスは、マイルス同様穏やかな雰囲気の曲を演奏したときに瑞々しいまでの感性を発揮する。

 『カインド・オブ・ブルー』はマイルス・バンドの変遷期に吹き込まれたものだ。これにはふたつの意味がある。ひとつはメンバーの交代期に差し掛かっていた時期の録音であること。そしてもうひとつが、音楽的な変化をこの作品が示している点だ。

 前者についていうなら、曲によってはエヴァンスに代わって、彼の後任となったウイントン・ケリーが参加している。ケリーはガーランドと同じようにスインギーかつ泥臭いプレイに真価を発揮するピアニストだ。マイルスはこのしばらく前から、コード進行に沿って即興演奏を行なう従来の手法から、モード(音階)に基づいてソロを吹く、のちにモード・ジャズと呼ばれる独自の手法を開拓していた。これがふたつ目の意味である。

 ただし。モードを用いた演奏をこの時点で完全に理解していたのはマイルスとエヴァンス、そしてテナー・サックスのジョン・コルトレーンだけだった。主要なソロイストの中では、ケリーとアルト・サックスのキャノンボール・アダレイはまだどことなくぎくしゃくしている。

 それでもこの作品に圧倒されるのは、マイルス、エヴァンス、コルトレーンの演奏が群を抜いて素晴らしいことと、彼ら3人のスタイルには馴染まないが、アダレイとケリーがともに自己のベストを思わせる内容の演奏を披露しているからだ。そして、この一見ちぐはぐに思われる解釈の違いから実にスリリングな緊張感が生み出されていることも見逃せない。そこにジャズ・ファンの心をくすぐる何かが表出されているといっていいだろう。

 マイルスが1959年に残した『カインド・オブ・ブルー』は、発表以来ジャズ史に燦然と輝く内容によって今日まで高く評価されてきた。そしてこの作品が多くのミュージシャンに強い影響をおよぼし、1960年代におけるジャズの方向性に大きな指標を与えたのである。マイルスが『カインド・オブ・ブルー』を発表したことは、単にジャズ作品の傑作を世に残したという事実のみならず、その後のジャズの動きにまで深く関わった点で他の追随を許さない。

 『ザ・レガシー・オブ・マイルス・デイビス Vol.1

『ザ・レガシー・オブ・マイルス・デイビス Vol.1』

 マイルスは1955年にコロムビアと契約し,同社の後押しもあって初のレギュラー・クインテットを結成する。メンバーは,テナー・サックスのジョン・コルトレーン,ピアノのレッド・ガーランド,ベースのポール・チェンバース,そしてドラムスのフィリー・ジョー・ジョーンズという面々。いずれもほとんど無名に近い存在だったが,マイルスのグループに入ってめきめきと頭角を現すようになった。このメンバーで録音したコロムビア移籍1作目の『ラウンド・アバウト・ミッドナイト』は,そのタイトル曲がジャズ・ファンのみならず広く一般のひとたちにも好まれる大ヒットを記録した。ジャズの世界ではすでにスターだったマイルスだが,これによって,以後は《ジャズ界の帝王》と形容されるスーパースターの仲間入りを果たす。

 マイルスは常に次代のジャズをクリエイトしたことで他の追随を許さなかった。『ラウンド・アバウト・ミッドナイト』を吹き込んだ時点で,ジャズの世界ではハード・バップと呼ばれる演奏スタイルが主流だった。これも,彼が1950年代初頭から追求を始めたスタイルだ。それを極めるや,今度はモード(音階)を用いて即興演奏を行なうモード・ジャズを実践に移し始める。その成果として知られているのが,1958年に録音された「マイルストーンズ」と翌年の「ソー・ホワット」だ。そして1961年に吹き込んだ「サムデイ・マイ・プリンス・ウィル・カム」ではその進化形ともいえる演奏が聴ける。一方で,マイルスはアレンジャーのギル・エヴァンスと組んでオーケストラ・ジャズでも優れた成果を残していた。それらの代表的な演奏が,この作品に収録されている「サマータイム」と「アランフェス協奏曲」である。

今回紹介したアルバム
『カインド・オブ・ブルー +1』 『ザ・レガシー・オブ・マイルス・デイビスVol.1』
『カインド・オブ・ブルー +1』
¥1,890(税込み)
『ザ・レガシー・オブ・
マイルス・デイビスVol.1』

¥2,242(税込み)
視聴・購入・詳細はこちら 視聴・購入・詳細はこちら
小川隆夫(おがわ・たかお)、整形外科医・JAZZジャーナリスト。

 1950年生まれ。60年代から70年代初めにかけての学生時代、渋谷や新宿のジャズ喫茶に通い詰める。ニューヨーク大学の大学院在学中にアート・ブレーキーやマルサリス兄弟など数多くのミュージシャンと知り合う。帰国後、『スイングジャーナル』誌の連載を持つとともに、JAZZを中心に約3000本のライナーノーツを手がける(ギネス申請中)。マイルス・デイビスや、ブルーノートの創始者アルフレッド・ライオンの来日時の主治医を勤めるなど、現役の整形外科医としても第一線で活躍中。ブルーノート完全コレクターとしても世界的に知られる。JAZZ関連の著書は『マイルス・デイビスの真実』(平凡社)、『ブルーノートの真実』(東京キララ社)など。JAZZブログは,「Keep Swingin'」。
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