2.「身八つ口」(みやつぐち)と「振り」 「身八つ口」とは着物の脇に開いた切れ目で,脇の下あたりにくる。また,袖付けから袖下までの開いた部分を「振り」という。どちらも女の着物にはあるが,男の着物にはない。
なぜ,脇の切れ目があるのか。世間一般に言われるのは,日本の気候は多湿なので,着物にこもる熱や湿気を逃して体温調整するためだというもの。ならば,女性よりも平均体温が高い男性の着物には,なぜ切れ目がないのだろうか。男性の場合は女性よりも衿あわせが深い(胸のVゾーンが大きく開いている)上に,帯の幅が狭い。したがって熱がこもりにくいので,通気孔を開ける必要がないのだろう。 「身八つ口」と「振り」の出現は,おはしょりとも関連する。前述のように,江戸時代初期の女性の着物にはおはしょりはなかったが,おはしょりをとった着付けが定着するのに伴い,着物に「身八つ口」と「振り」ができたようだ。というのも,自分で着付ける時,おはしょりを調整するには,両脇の切れ目から手を入れないとうまくいかないのだ。 中谷によれば,「身八つ口があるために,着付ける時に着物を折り込んだり絞ったり,ふくらみをもたせたり,ということができます。女性の体の柔らかな形を出せるのも,身八つ口のおかげ。昔話でいうと,(ここが開いていることで)赤ちゃんに母乳をやりやすかったというのもあるでしょう」 身八つ口は,母性をイメージさせると同時に,一方では女性の活動性とも関係してくるようだ。「身八つ口が開いていると,着物における動きの許容範囲は広がります。袖が自由になるから,腕も伸ばしやすくなりますね。最初から女性の社会進出とまではいかなくても,身八つ口ができたことで女性がより活発に動けるようになったのは事実でしょう」と中谷は言う。 「身八つ口から手を入れる」という話にちなみ,こんなエピソードを思い出した。銀座のクラブや京都の祇園など,花街の女性たちの口に上るようになった話題でもある。
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