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充実生活見つけた
手作りに賭けた情熱<その1>~社内ベンチャーで始まった手作り万年筆工房~
2006/07/17

 いつ頃からの習慣だったのだろう。ある時期,子どもが中学生になった時などのお祝いに贈られる品物というと,万年筆と相場が決まっていたものだ。初めて万年筆を手にした時は,なんだか,大人の仲間入りをしたようで,少し誇らしげな気持ちだった。これまで鉛筆しか使ったことのない子どもが,消しゴムでは消せない筆記用具を持ったのである。

 それは,ボールペンがまだそれほど普及していなかった時代のことで,書類の作成を始め,文書と呼ばれるものすべてが,ペンや万年筆で格調高く書かれた時代のことだった。

ペン先と書きここち

 手作り万年筆を作っている工房があると聞いて思い出したのは,そんな幼い頃の情景だ。そこで,デスクの周りやら引き出しの中やらを見回してみたのだが,残念ながら,身の回りには万年筆は見あたらなかった。ただ,記憶の中にだけ,父親に買ってもらった黒くて少し太めの万年筆が鮮明に蘇ってきた。

個性豊かな手作り万年筆

 その万年筆工房は,東上野の通りに沿った小さなビルの2階にあった。「中屋万年筆」と書かれた表札は,小さくて,お世辞にも商売気があるとはいえない。部屋におじゃますると,職人さんたちは万年筆を相手に細やかな作業に没頭していた。

 万年筆。これほどオリジナリティに富み,個性を主張する筆記用具も珍しい。工房を訪れ,何本かの万年筆の使い心地を試させてもらって感じたのは,紙の上を滑るように,なでるようにペンが走る心地よい書き味である。もちろん,極細のペンから極太のペンまで何種類もある。音楽の楽譜を書くように工夫されており,横に引くと細く,縦に引くと太く書けるものまである。

 確かに,万年筆は筆記用具のひとつにすぎない。しかし,それらは何人もの職人の技によって支えられ,現代に伝わってきたのである。ボールペンやサインペンが全盛の現代にあって,世界中の人びとに,いまだに愛され続けていることは使ってみれば納得できる。

中田さん

 中屋万年筆を立ち上げた中田俊也さん(45歳)は,プラチナ萬年筆の社員でありながら,手作り万年筆の社内起業を志した。手作り万年筆は,大量に作られ,大量に使い捨てられる商品ではない。販売数量は少ないので,部材はロット単位で注文しないと調達できず,採算が合わないというのが現状だ。こんな状況では,今後,手作りの万年筆は作られなくなってしまうのではないかという危機感が頭をもたげた。

 手作り万年筆の伝統を守り,ビジネスとして成立させていこうとした志は素晴しい。しかし,決して右肩上がりの事業ではない。社内で人材を募ることもできず,資金も十分ではないという状況から始めなければならなかった。

 まずは,部材の調達から始めなければならない。万年筆の部材は小さいものが多く,ひとつひとつの単価は安い。したがって,それらの部材を製造してもらうためには十数年分のロットを注文しなければならなかった。まさか最初から,十数年分の部材を在庫として大量に抱え込むわけには行かない。プラチナ万年筆にいたときと同じ問題に突き当たったのだ。

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