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一億(六本木)〜人種のるつぼ、六本木にて 無国籍(?)マグロ生姜焼丼

2005年10月24日

六本木という街は昼メシに困る街である。店の移り変わりが激しいので、せっかくいい店を見つけたと思っても、次に来たときにはもうなかったりする。じゃぁ、どこか違う店と思っても、なかなかいい店が見つからない。昼間は夜と違って閑散としているし、オシャレな店がおいしいとは限らないし(というか逆なことが多い)。

そんな中で「いつ来ても必ずあるし、きっとずっと変わらない」という安心感で溢れている店がある。それがココ。今年で創業してから36年目になるという「一億」である。店内の古さもその歴史を物語っている。俳優座の裏手、防衛庁跡地近くの路地にあるこの店は、常に変化している六本木できちんと固定客をつかんでいる、知る人ぞ知る名店である。

まだ「無国籍料理」というジャンルがなかったころから、バラエティと工夫に富んだ無国籍なメニューを出しており、いまではポピュラーな豆腐ステーキも、この店が世界で初めて作ったメニューらしい。しかも当時から、食材と調味料を自然のものにこだわり、化学調味料類を一切使わない健康志向。六本木らしく時代の先端を行っていたのね(ここ10年くらいでやっと周りの店が追いついた、ってことだ)。でもそのわりに意外と知られておらず、友人に教えると必ず「こんなところにこんな面白い店が!」とびっくりしてくれる店でもあるのである。

この店に来ると、いつも「メニューを全制覇したい!」と思って、他のメニューを頼もうとするのだが、「はい、何にします?」と優しいおばちゃんに聞かれると、反射神経的に「マグロ生姜焼丼定食!」と発声してしまうボクである。だって、これ、うまいんだもん。なんというか、懐かしくて優しい味がする。高度成長期の日本の味がする。いい意味でまだ完成されていない、和と洋の間で揺れまくるあの時代の味がするのである。

薄切りにしたマグロを生姜で香ばしく焼いたものが、鉄火丼のようにズラリとご飯に乗せられている。コクのある、深い味のマグロ生姜焼きには唐辛子と山椒が振られており、実にご飯と合う。というか、豚の生姜焼きが好きな人なら、あの生姜と醤油で甘辛く炒めたうまさはわかるでしょ?

その豚がマグロになると、あのコクある美味さにあっさり感とマグロ独特の香り、そしてやわらかい食感が加わる。不思議な完成度、ご飯との相性がぐっと良くなるのである。創作料理系B級グルメの名品と呼んでもいい。しかも、その丼に味の濃い味噌汁、たっぷりとしたサラダ、おいしい豆腐と漬け物の小鉢がついて880円なのである。実に安いではないか。

他にも10種類ほどユニークでおいしそうなメニューがある。一億玄米定食(980円)、X豚生姜焼定食(980円)、一億チキンカツレツ定食(980円)、タイランドカレー(980円)、その他に日替わりでいくつか。この一億玄米定食もとてもいい。6品ほどの小鉢に完璧な炊き加減の玄米と味噌汁。あぁX豚もいい。日替わりの数品もうまそうだ。ううむ…。でもまぁ、やっぱり初めてなら「マグロ生姜焼丼定食」をオススメしてしまうかなぁ。マグロと生姜焼きという組み合わせが不思議なハーモニーを奏で、六本木という、人種のるつぼのような街によく似合う丼なのである。

店データ

一億
東京都港区六本木4-4-5
Tel:03-3405-9891
11:20〜14:00/17:00〜25:30
不定休

さとなお

本名:佐藤 尚之。1961年東京生まれ。本職は広告会社のクリエーティブ・ディレクター。

1995年、個人サイト「www.さとなお.com」を立ちあげ、現在約1000万アクセス。ネット上での活動をきっかけに出版や連載を手がけるようになる。著書に「うまひゃひゃさぬきうどん」「ジバラン・フレンチレストランガイド」「さとなおの自腹で満足!」「沖縄やぎ地獄」「沖縄上手な旅ごはん」など。最新刊はエッセイ集「人生ピロピロ」(角川文庫)。今年は鮨の本なども予定中。

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