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矢場とん(銀座)〜豚と味噌の相性を発見する

2005年9月20日

この店は好き嫌いが分かれるかもしれない。なにしろ味噌カツなのだ。「あれだけは嫌い」と言っている人を何人も知ってるし。でもね、ちゃんとした味噌カツ、食べたことあります? まさか、変な洋食屋のとか、社員食堂のぐじゃぐじゃのとか、薄っぺらいカツと衣の間に味噌を挟んだ中途半端なヤツとかを食べて「味噌カツってまずいよね〜」って言ってない? そういう人って(名古屋出身者以外で)とっても多いと思うのだけど。

とにかく、一応本場で「これぞ味噌カツ」というのを食べてから文句を言ってほしいと思うのだ。ま、本場で食べた後でも「味噌カツだけは嫌い」と言っている人を知っている。が、「本場の味噌カツは予想以上にうまかった」と宗旨変えした人も何人もいる(ボクもそのひとり)。文句を言うにしても、まずは食べてからにしてみようではないか。

ということで、今回は味噌カツの有名店「矢場とん」。去年の春に銀座に進出した。そう、東京で本場の味が楽しめるのである。

「矢場とん」は、言わずと知れた名古屋の味噌カツの有名店だ。ボクは一度だけ名古屋の本店に行ったことがある。昭和22年創業のとても古い店舗なのだが、もう観光名所化していて行列がすごかった。そのころはボクも味噌カツに偏見があった。んー、なんかベチャッとしていてイヤなんだよねーとか思っていた。とんかつというのは衣のサクサクが必要だし、そのサクサクの中から出てくる肉汁の野蛮な旨みこそが魅力だと思っていたからである。それなのにそんな濃い味の味噌をいっぱいつけちゃったら、衣のサクサクもなくなるし、肉汁の旨みも消えちゃうし、なにより香りが味噌のみになってしまうではないか。そんなものうまいはずがない…。

でもそのとき感じた感想は逆のものだった。「あれ、うまいじゃん、これならイケルじゃん」なのであった。なんというか、確かに赤味噌の味は濃い。口も鼻も味噌の香りで染まる。ただ、味噌の下から豚の香りが立ち上がってくる時の快感が独特なのである。たとえば濃い味の豚生姜焼きを食べている時、味の奥底にある豚の香りが快感なように、赤味噌の奥にあるそれも想像以上にずっと魅力的で、一気に偏見が取れたのであった。味噌と豚は相当相性がよい。そう、ボクはこの店で味噌カツファンになったのである。

その店が去年の春、銀座に進出した。中京圏以外では初出店ということだし、なにしろはずれとはいえ“銀座”である。本店にあったドラゴンズのユニフォームも持ってきて飾ってあるし、Tシャツなどの小物もちゃんと売っていて、相当気合いが入っている。

さて、久しぶりの「矢場とん」の味噌カツ。「わらじとんかつ」(わらじのようにでかい)は、赤味噌が衣になじんで豚の香りとよく合う。味噌というと普通は固形っぽいものを思うが、わりとサラサラの味噌で、味噌味のトンカツソースがまんべんなくかかっている感じを想像してくれればいいだろう。やはり名古屋で感じたときと同じような感想。味噌の香りの中に立ち上がる豚の香りは相当魅力的。下手な味噌カツを食べると半分で飽きたりするのだが、矢場とんのはそのくどさが少ない方だと思う。ちょっとくどいかなと思うあたりでちょうど完食にたどり着く感じ。その程の良さもよい。

「わらじとんかつ」以外にも、舌がやけどする「鉄板とんかつ」もいい。でもいちばんのオススメは、複数人で行って味噌味の「串カツ」をシェアした後、「みそかつ丼」で〆る食べ方。名古屋で開催されている愛地球博ももう数日で終わる。行った方も行けなかった方も、東京で名古屋を感じてみませんか?

店データ

矢場とん
東京都中央区銀座4-10-14
Tel:03-3546-8810
11:00〜22:00
月休(祝日の場合は翌日休)

さとなお

本名:佐藤 尚之。1961年東京生まれ。本職は広告会社のクリエーティブ・ディレクター。

1995年、個人サイト「www.さとなお.com」を立ちあげ、現在約1000万アクセス。ネット上での活動をきっかけに出版や連載を手がけるようになる。著書に「うまひゃひゃさぬきうどん」「ジバラン・フレンチレストランガイド」「さとなおの自腹で満足!」「沖縄やぎ地獄」「沖縄上手な旅ごはん」など。最新刊はエッセイ集「人生ピロピロ」(角川文庫)。今年は鮨の本なども予定中。

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