赤城亭(神楽坂)〜心静かに、おむすび膳
さあ昼メシを食べよう、と神社の境内に入っていくのって、なんか不思議な気分である。
地下鉄東西線を神楽坂駅で降りて出口1から外に出る。そこは普通に人の多い通りなのだが、左に行って赤城神社への短い参道(?)に入るとその人通りも少なくなる。いくつかの飲食店を横目に見ながら数十メートル歩くと鳥居がある。もう境内だ。土の上に踏み込むとすでに異質な空間。通りから数歩入っただけなのにいきなり緑豊かな神域。突然始まる静謐な時間に少し戸惑ってしまう。雑踏もすでに遠い。鳥の声や虫の声が急に聞こえてくる。歩く足音もなんとなく忍ばせてしまう。そんな感じ。そんな場所にこの「赤城亭」はあるのである。
相当さりげなくこの店はある。入口からすぐの左側。立て看板にメニューが貼ってなかったら確実に通り過ぎちゃうさりげなさ。建ってから60年以上という昭和古民家の入り口に昼でも明かりが灯っている。
引き戸をあけて中に入るときちんとデザインされた古い空間になっており、花器やついたても凝った物。靴を脱いで上がるとそこはまさに昭和初期の座敷。江戸や明治というよりは昭和初期な感じが漂うのがボクなんかには懐かしくうれしい。1階に三つほど、2階にもいくつかお座敷があり、そのときどこに通されるかは賭けではあるが、それぞれの座敷の照明も凝っていて、通される部屋で相当印象が変わることだろう(もし好奇心が湧いたら帰り際に頼んで各部屋を見させてもらうといい)。
さて、昼ご飯。この店は赤城神社境内にあるだけあって、基本的に日本古式の神饌料理(しんせん=お供え物)を出している。というか、赤城神社プロジェクトというのがあって、それの一環らしいからそういう狙いで作られた店なのだ。神饌料理、つまり神様にお供えする米と水と塩を使った精進料理系のシンプルな料理が売りなのだ。
お供え物の米は新潟産・植酸農法で作ったコシヒカリ米。塩は日本海の海水100%から作った塩。水は富士山から流れ出た水を使っているそうである。なるほどなんだかカラダが清まりそうな食事だよね。たまにはこういうのもいい。境内の静けさの中で神様にお供えする食物を静かにいただく、というのは忙しく流されていく日常を見直すのにも良い機会である。
メニューは二つ。赤城おむすび膳(980円)と鯛茶漬け(1300円)。ボクはシンプルに米・塩・水が味わえそうな赤城おむすび膳を頼んだ。お膳の上に塩むすびと梅むすび。そして小鉢二つ。漬け物にお椀。シンプルな構成。一瞬、「980円は高いかも」と思ったが、食べてみるとなるほどシンプルとはいえ丁寧に丁寧に作られている。家の設えや演出、立地などを考えるとそんなに高くないかと思い直す(けど、量を求める男性には物足りないのは確か)。
まず、お椀の味噌汁がいい。ダシの効き方がボク好み。わりと強めにダシが香り、スターターとして気持ちがよい。そして塩むすび。梅むすびもそうであるが、握り方がふんわりしていて、食べると全体がほろっとほぐれる。おむすび専門店でも滅多にこういう握り方は見かけない。おむすびに何が本式とかはないと思うが、ふんわり握ると中の方の米にも空気が届き、全体に均一な食べ心地となる。カチカチに握ったおむすびよりボクは好きなのだ。塩むすびは塩が具として使われている。それも好み。しかも米がおいしいし塩もまろやか。全体に素朴で滋味溢れカラダの奥底からホッとする味。ちょっと暗めのお座敷で、ひとりゆっくりゆっくりいただくと、心がしんと落ち着いてくる。
食べ終わったら、是非赤城神社にお参りしよう。胃の中に入ったお供え物が細胞ひとつひとつに気を送っているような感覚に襲われる。そして再び鳥居をくぐって街に帰るころには、なんかとっても静かな心になっている自分に気がつく。この鳥居を入るところから昼メシが始まり、出るところで完結する。たった1時間弱の時間でここまで自分を落ち着かせてくれる食事も少ない。味とか量とかいうより、真の意味の気分転換として静かに利用してもらいたい昼メシ空間なのである。
店データ
赤城亭
東京都新宿区赤城元町2-15
Tel:03-3266-1080
17:30〜22:00
月休
(編集部注:本文中の「赤城おむすび膳」は現在提供を終了、ランチタイムの営業も休止しています。<2006.10.10>)
この連載のバックナンバー バックナンバー一覧へ 画面先頭に戻る
- 魚竹(築地)〜サカナ系定食屋の横綱 (2006/06/26)
- 三河屋(西麻布)〜揚げ物系定食屋の横綱 (2006/06/19)
- 味芳斎(芝大門)〜辛くて汗ビジョになる牛肉飯 (2006/06/12)
- タニ・キッチン(大森)〜現地ライクなタイ料理 (2006/06/05)
- 鳥つね自然洞(秋葉原)〜卵かけご飯的? 極上の親子丼 (2006/05/29)

