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慶楽(日比谷)〜癖になる「ラーハン」

2005年6月13日

「んー……やっぱりラーハンかなぁ…」

昼メシを迷ったあげく、こんな謎のつぶやきをボクがするのは、決まって日比谷近辺を歩いているときである。

ラーハン? そう、ラーハン。いったいラーハンとは何なのか。実はこれはボクが個人的に名付けたメニューである。正確には「上湯炒飯」といい、日比谷の「慶楽」という広東料理の店で食べられる。「慶楽」とは創業30年以上の古い広東料理の店。有楽町の線路横の一見大衆食堂のような店だが、どのメニューもちゃんとうまい街場の良店である。でもこの店に来たら是非「上湯炒飯」(1000円)を頼んで欲しい。スープにチャーハンが入った得体の知れない料理が出てくる。それをボクは心の中で「ラーハン」と呼んでいるわけだ。勝手にそう呼び出してもう10年近くになるだろうか。

去年、マルハから「ラーハン」というカップ麺が出されたようだが(売れたのかな…?)、それが出る前から、ボクはこの店のこのメニューを「ラーハン」と呼んでよく食べに来ていた。カップ麺のそれはラーメンのスープにご飯を入れたものなのだが、この「上湯炒飯」はチャーハンを入れる。しかも別にラーメン・スープではなく、チャーハンについてくるような中華スープに混ぜるのである。でもね、ホント、まさに「ラーハン」という感じなのだ。なにしろラーメン丼に入って出てくる。丼になみなみ入ったスープ。んでもって中にドワーーッとチャーハンが沈んでいるのである。そう、炒めたメシが沈んでいるだ。聞いた感じ脂っぽそうだがそうでもない。意外とあっさりしていて胃にも優しく、二日酔いでも食べられる。チャーハンがいい感じにスープを吸ってまた違う妙味になっており、実に後をひく。広東ではお茶漬け代わりにスープチャーハンを食べるというが、さもありなんと納得する味である。

また、これをオーダーすると面白いことが起こる。周りの客でこのメニューを知らない人はみんなギョッとするのだ。隣のテーブルに座ったサラリーマンとかが「なんだあの不思議な食べ物は!」とか目を丸くする。そんでもってボクがいかにもうまそうに丼の底まできれいにすすると、彼は心の中で「次はアレにしよう!」と決める。表情でわかる。そうやってこのメニューはこの店で広がっていったのだろう。「あの、スープにチャーハンを入れたようなやつ、ください」とビジュアル的な説明でオーダーする人は、たぶんこの店でこれを目にして驚いた人だ。

小さい頃、ボクはチャーハンについてくる中華スープが大好きで、親に隠れてチャーハンをスープに浸したりしていた。ボクがこのラーハンを大好きなのは、そういう幼児体験もあるのかもしれない。スープに浸したチャーハンはなんというか「子供の頃の夢」を実現させるような禁断の味なのである。

あ、ちなみに、「ラーハンひとつ!」と頼んでも通じない。「スープチャーハン」とか言わないと通じない。ラーハンはボクの造語なので、あしからず。

店データ

慶楽
東京都千代田区有楽町1-2-8
Tel:03-3580-1948
11:30 〜 22:00
日休

さとなお

本名:佐藤 尚之。1961年東京生まれ。本職は広告会社のクリエーティブ・ディレクター。

1995年、個人サイト「www.さとなお.com」を立ちあげ、現在約1000万アクセス。ネット上での活動をきっかけに出版や連載を手がけるようになる。著書に「うまひゃひゃさぬきうどん」「ジバラン・フレンチレストランガイド」「さとなおの自腹で満足!」「沖縄やぎ地獄」「沖縄上手な旅ごはん」など。最新刊はエッセイ集「人生ピロピロ」(角川文庫)。今年は鮨の本なども予定中。

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