豊崎 これは受賞しますよ。堅いでしょう、これで落としたら、それは鬼。修羅の道ですよ。
大森 なに!? 豊崎さん、これにA付けてるの?
豊崎 だって、フツーに良い小説じゃないですか。
大森 このあとがきがOKなの?
“また、登場人物の流すものとしては《涙》という言葉も使うまいと思った。これらの単語を書かないのを、わたしは逃げとも思わない。それは、わたしにとって、物語のひとつの要素でもある《祈り》に近いものである”。
これはね、豊崎さんがクソミソに言ってた白石一文『どれくらいの愛情』のあとがきと全く同じですよ。あっちを批判してこっちを評価するのはダブル・スタンダードじゃない?
豊崎 ちがいますってば! 北村さんのそれは、昨今ちまたで大流行のお涙頂戴小説に対する嫌みの表明。あとがきにテーマから読み方まで全部書いてしまってる白石さんと同じに扱っていただきとうござらぬ。
大森 同じだと思うけどなあ。北村薫といえども、朝日新聞の連載小説だとこうなっちゃうのかと思ってがっかりしましたよ。
豊崎 でも、『語り女たち』でしたっけ。前に候補になった短編集よりはずっと良いですよ、今回のほうが。
大森 いやいや、あっちのほうがずっと良いよ。だってこれ、がんで死んじゃう話でしょ? 40代の女性ががんで死にそうになった。そしたら若い恋人ができて死を看取ってくれましたって話。
どこがいいのか教えてほしいですよ。
豊崎 あー、分かった。大森さんは、昨今ちまたで大流行の“女殺し”お涙頂戴小説と同じだって言いたいんでしょ。でも、この小説の主眼は女の友情と幸福の形なんであって、若い男うんぬんのエピソードは彩りですよ、彩り。がんで死ぬっていうストーリー展開がそんなに駄目ですか?
大森 駄目っていうか、こういう小説を北村薫が書く必要がない。こんな話はさだまさしに任せとけばいいんですよ! タイトルもさだまさしっぽいじゃん。
豊崎 まあ、北村さんの本領であるミステリ小説じゃない、ましてや本格ミステリでもない、いわゆる女性小説ですからね。40代の女性をターゲットにした女性の生き方小説。でもね、その狙い通り、わたし自身、45歳の女性として共感をもって読めましたよ。
大森 うん。そういう年代の女性のために書いてたんでしょうね。新聞連載小説のメインターゲットになる層だから。
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