豊崎 星野さんって、マッチョ性や父権社会みたいなものに対する違和感を、ずっと表明し続けている作家ですよね。
大森 そこにはすごく同感するんだけど、この作品に関しては、むしろ逆効果になってる気も。夢精をツキノモノって呼んだりさ、これは読者が相当ひいちゃうと思うんだけど。
豊崎 そうそう。寛樹が、じぶんのものの考え方とか、セックス観とかをすっきり全肯定してしまうのもちょっとどうかと。
大森 それで爆笑したのがこのくだり。
“友だちでも仕事仲間でも、自分に合う人と出逢ったことはほとんどありません。だからぼくは、結婚していないとか恋人がいないとかいうだけじゃなくて、あらゆる意味で独身なんです。選んでそうなっているんじゃなりません。独身がぼくの性質の一部というか”。これはなかなか良い言い訳ですね(笑)。いつまでも結婚しないことで責められるおたくのひととかは、親にこういうふうに言えばいい。ひかれるだろうけど、うるさくは言われなくなる。
豊崎 そんな寛樹という男が、子どもに好かれるという特性を見込まれて、母子家庭の元に通う、そこで疑似家族をつくっていく話なんですけど。寛樹みたいな男でいいんでしょうかね? いくら元亭主が暴力的な男だったので男性像としてまったく異なるタイプを見せたいからって、こんなヘンなひとをベビーシッターに選ばなくたって。まあ、おかあさんもかなりヘンなひとだけど。
大森 この小説は、もしかしたら、このずれてる気持ち悪い感じが読みどころなのかも。
豊崎 んー、でも、それは狙ったわけじゃないと思うんです。対談とかで判断する限り、星野さんってすごく真面目そうだから。期せずしてそうなっちゃったんじゃないかなあ。
大森 天然ですかね。ラストで寛樹は、植物診断にたよらずに生きていけるようになる。でも、もっとちがうカウンセラーにかかったほうがいいんじゃないかと思いました(笑)。
豊崎 でもまあ、星野さんもそろそろ、ね。
大森 そうですね。三島賞も、野間文芸新人賞も取ってるから、芥川賞を取ると三冠です。
(後編に続く)
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