豊崎 あははははは、評価が極端に割れましたねー。
大森 なんでこんなに評価が低いの? 間違ってるよ!
これは、「なんで僕はこんなにダメな引きこもりなのか」について、最初から最後までひたすら弁解しまくる、潔いまでの言い訳小説です。主人公の男は、法事の席で、親戚のおばちゃんや母親に、30歳を過ぎても働きもせずに何やってんだって責められる。“あんたが何考えてるか知らないけど、こっちに分るように話さないといけない”って。こういう場面、めちゃめちゃありそうじゃないですか。
すごく身につまされるシチュエーションから幕を開けるんだけど、そこから始まる主人公の言い訳が、あり得ない長さのモノローグでえんえん続く。作品の9割以上の分量ですよ。この設定だけでも素晴らしい。そして最後に、なんだその言い訳は! って、思いきり突っ込まれる。
豊崎 ていうか、気づいてみたら誰も聞いてないんですよね。
言い訳話がひとくぎりした主人公が周囲を見回す。“いつの間にか日が暮れて灯りがともっている。レースのカーテン越しの外に、まだ夕日が少しある。私はいま、長々と喋っていた。どんな話だったか。本当のことを話したか。「あんたちょっと、」と母が、たぶん台所からだろう、「自分がいままで何を言ったかよく考えてみなさい、ほんとに。」”。
おかあさん、いつのまにか台所に移動しちゃってる。
大森 みんな忙しくて、いつまでもそんな長話を聞いちゃいられないと。
豊崎 で、自分の顔を見るたびに火がついたように泣く親戚の子どもがぽつんと目の前で正座してて“もう終り?”って(笑)。
大森 3歳の女の子がね。
しかも、その言い訳の中身がまたすごい。どっからこんなヘンなことを思いつくのかというような話なのに、妙なリアリティがあるんですよ。要するに、中学1年の始業式の日に、ある先生にあいさつしそびれたと。そのあと毎朝、道で一緒になるのに、最初にあいさつできなかったもんだから、いまさら挨拶するのも変な気がしてあいさつできない。3年間ずっと気まずい気分を抱えて、ひたすらそのことだけを悩みながら登校していた、と。
この気持ちは非常によく分かるんです。僕も、パーティで何度も会ってるのに、いまだにあいさつしたことがない作家ととかいるわけですよ。一体いつあいさつすればいいのだろうとずっと気にしてる(笑)。もう、なんとなく知り合いになっちゃってる気がして、いまさら名刺を出せない。そういうのを思い出しましたね。
読者に共感してもらえそうな、そういう体験を出発点にしながら、この小説はどんどんエスカレートしていって、なぜか主人公は、あいさつできなかったその先生と対決することになる。そこに至るまでの話もあり得ないことだらけなのに、先生が、戦時中にやったことを告白し始めると、さらにすごいことになって。
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