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大森 だってこれ、本格ミステリじゃん。

豊崎 そおぉ? そんなたいした謎じゃないじゃん。

大森 いや、こんなネタが仕込んであるとは思わないから意表を突かれた。いわゆる「日常の謎」系列なんだけど、仏像の修復師が主人公というこの設定じゃないと成立しない「仏像の謎」だし、ホワイダニット(編集注:why done it。なぜ、その犯罪が起きたのか、の設定)も非常によくできてる。推理作家協会賞の短編部門候補作に推薦したいくらいですよ。よくこういうの書いたなと思った。本格ミステリのセンスがある。

豊崎 まあ、森さんのこれまでの作風からするといちばん変わってるとは思いますけど。

大森 だから、どういう世代のどういう人がどういうふうに読んでも短編のどれかには引っかかるように対策してあるんですよね。技のデパートみたいな短編集。傾向としては山田詠美の「風味絶佳」系で、いろんな変わった職業の人が登場する。

豊崎 がんばる人にエールを送る人生応援歌的な作品集だと、わたしは思いました。しかし、森さんという作家は、書けば書くほどうまくなっていきませんか?

犬の里親探しをしてるボランティア女性を語り手にした、一見地味な「犬の散歩」にも感心しました。構成がすごく巧みなんですよ。書きようによっては押しつけがましい人情話に終わりそうな話を、エピソードの配置の工夫で見事な一編に仕上げている。

大森 会話でいうと、「ジェネレーションX」が優れている。

豊崎 あー、うまいですよねえ。

携帯電話の会話を細切れに明かすことで、だんだん話の全体像が見えてくるという構成。消費者のクレーム処理に出掛けるために車に乗り込んでる40歳間近の男と、20代の若い男の物語なんですよね。で、運転しない方の若い男が複数の友だちに次々と私用電話ばっかりかけてるから、中年男がいらつくと。

“あ、もしもしヒラタか、今イワサキに聞いたけど、なんだよ…腹痛? 下腹部がきりきり? いやダメだって、腹痛ごときでドタキャンはねえって…つうか、約束だろ、参加することに意義があんだろ”

って調子だから、読んでる方も最初は「ほんとにいまどきの若いものは…」とか不快に思うんだけど、携帯電話の内容の意味が分かってくるにつれて、中年男とともにいつのまにか若い男を応援してる自分に気づくんですよね。

大森 最後はどうせこうなるだろうっていう予想に対して、それをもう一つひねったオチがつく。

豊崎 そうそう、そのひねりに関してもちゃんと伏線があってね。こういう短篇集って、「いい小説教えて〜」って言われたとき、人に勧めやすいんですよね。絶対、この中の1編くらいは好きになれる小説があるはずだから。

まあ、中原昌也とかが好きな人には勧めませんけど(笑)。わたしは対抗を付けましたが、今回「風に舞いあがるビニールシート」が受賞しても、なんの違和感もないと思いますよ。

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