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三浦 しをん『まほろ駅前多田便利軒』

豊崎 三浦しをんさんの「まほろ駅前多田便利軒」。これはボーイズラブ小説と言っていいんですか?

大森 まあ、そうなのかな。中年コンビが同居する話。

豊崎 三浦さん自身、BL小説好きなんですよね。マンガ家の下村富美による章扉のイラストからもそういう狙いを感じます。

便利屋をやってる多田の事務所兼自宅に、高校時代の同級生で変わり者の行天が転がり込んで居候してるって設定ですね。で、ミステリってほどじゃないけど、いくつかの事件が起こって、二人が探偵のようにそれを解決していくっていうスタイルになってます。

お話としてよくできてるし、非常に読みごこちがよかった。ただ、普通に考えて、直木賞は取れないなと思いました。

大森 つまらなくはないんだけど、どうということもない話ですからね。一部の女性読者には強烈にアピールする人物配置らしくて、萌える人は萌える。行天の変な行動がけっこうツボを突くらしい。お金を全然持ってないところとか。

豊崎 いかにも萌えてくださいってキャラですもんね。ただ、多田の方はいい人過ぎてうざい。

“ケモノバカ一代”(豊崎は、モーレツな動物好き)として感心したのは、最初に出てくるチワワの描写。リアルでしたねー。

大森 そうそう。

豊崎 三浦さんはちゃんと動物を見てるなあと思いました。多田が大晦日に便利屋の仕事でチワワを預かるんですけど、

“チワワはテレビで見るとおり、大きな目を潤ませ、常に震えている生き物だった”

そうなんですよ、なぜか知らねど、震えるんですよ、チワワって。で、それを多田は気にして、寒いのかなと毛布敷いてやったりする。

“しかし、多田がどれだけ心を砕いても、チワワはあいかわらず震えていた。どうやらそういう体質らしい。多田は一月二日になってようやく、チワワの小刻みな振動については気にしないことに決めた”

ここおかしかったなあ。いきなり、最初の章から惹きつけられましたもん。まあ、わたしがケモノバカだからかもしれませんけど。で、行天だって登場してすぐに物語の中に入ってくるでしょ。テンポがいい、それはこの小説の美点と思いました。

大森 あと、町田市に住んでる人はうれしいでしょう。

豊崎 あー、まほろ市って町田市ですもんね。

大森 ただね、本格ミステリに「まほろ市の殺人」っていう祥伝社文庫から出てるシリーズがあるんですよ。まほろ市という架空の街を設定して、春夏秋冬の連作で、を倉知淳、を我孫子武丸、を麻耶雄嵩、を有栖川有栖が書いてる。勝手に使われたと、我孫子さんがむっとしてましたね。こっちの真幌市は東京じゃなくて“D県”だけど。

豊崎 三浦さんは、なんで使っちゃったんでしょうか?

大森 知らなかったんじゃないですかね。まあ、知らないのは怠慢だって声もあるけど。それはともかく、三浦しをんの作品としては、133回の候補になった「むかしのはなし」より落ちると思う。

豊崎 それはそう。読み心地はいいけど、ベタですからね。好き嫌いでいうと、こっちが好きだけど、小説としての価値は「むかしのはなし」の方が高いと思います。

なぜなら、これは、別に三浦さんじゃなくても、ライトノベルとかBL系の作家でいくらでも書ける人がいそうだから。

大森 前回候補になったときはクソミソに言われてたから、今回はもうちょっとほめてもらえるかもしれないけど、まあ、受賞はないでしょうね。

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