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伊藤 たかみ「八月の路上に捨てる」

大森 3回連続で候補になった、伊藤たかみです。

豊崎 この人には前回ずいぶんきついことを言いましたが、「八月の路上に捨てる」は、今まで読んだ中ではいちばんましだと思います。やれば、できる子だったんだね!

評価もBを付けましたよ。前回はDでしたから、わたしの中ではすごいランクアップです。日本語のヘンなところも少なくなりました。

大森 今回は誉めますねえ。また罪滅ぼし? 文章はそんな変わってないでしょう。ダメ男ふたりというホモソーシャルな設定から脱却して、女性読者にも読んでもらえるものを書いたとは言えるけど。

豊崎 これ、ずいぶん単純な話なんですよね。主人公は、水城さんという年上の女性と組んで自動販売機のルートドライバーをしています。水城さんは今日いっぱいでドライバーを辞めて事務職に移ってしまう。で、主人公は、水城さんに聞き出されるままに、自分が離婚にいたった経緯を話す、と。ただそれだけの話です。

…だから、なに? はっきり言って、わたしの人生にはまったく必要のない小説だってことは確かなんですよ。でも、それでも前のくそくだらない小説と比べれば、ぜんぜんマシ。

大森 僕は前の作品の方が好きだな。“B級純文学”とか“激安純文学”とか勝手に呼んだけど、そういう独自の路線を開拓してたじゃないですか。今回の伊藤たかみは、確かに完成度は高いけど、なんだか普通になっちゃった。伊藤たかみらしさがない。こんなの書くひと他にいくらもいるでしょう。

豊崎 でも、ちょっといいシーンもありましたよ。主人公が美容師と浮気する。で、美容師とキスしながらヘルペスを伝染し(うつし)合う。

“今度は美容師が、敦の水疱を唇でつぶした。とろりとした蜜のようなものが、あごを伝って落ちた。シーツの上にはじけた。そこからまたヘルペスが広がり、終いにはこの部屋全体がひとつの大きな水疱になる”。

ここ、すごく気持ちが悪くて好きだなあ。

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