
大森 僕は、消去法ですうっと上がってくるとしたら恩田陸じゃないかと踏んでます。
豊崎 「蒲公英草紙」の時代設定は明治後期。「ハルカ・エイティ」の始まり部分と近い。おじいさん、おばあさん委員が好みそうな時代設定ではありますね。
大森 一人の女性が、第二次世界大戦の終わりから、50年前の出来事を振り返るという設定。宮城県南部を舞台にしたノスタルジックな話で、あんまり反対しそうな選考委員がいない。短いし、「光の帝国」の続編だし、ちょっと地味かなとも思ったんだけど、よくよく考えると意外にいけるんじゃないか。
直木賞の候補にもならなかった「夜のピクニック」が、本屋大賞、吉川英治新人賞を取って、がんがん売れたことも考慮されるだろうし。
ノミネート6回目の東野圭吾と同時に受賞させるなら、恩田陸はちょうどいいバランス。と言うか、「容疑者Xの献身」単独より、「蒲公英草紙」との2作受賞の方がすんなり決まりそう。だから今回は、東野、恩田のダブル受賞を一点買い。
豊崎 「蒲公英草紙」って、恩田さんの小説にしては、珍しくラストが苦いんですよね。これは直木賞候補作としては強みになるかもしれません。今までの恩田作品は、選考委員には子どもっぽいという印象があったと思うんです。今回は苦みが考慮されて、前回候補になった「ユージニア」よりは真剣に扱われそうな気がします。
あー、そっか、あるね、うんうん。自分で言ってたら、気づいた。確かに恩田さんの線が見えて来ました。ツモ爺も「蒲公英草紙」には反対しないでしょうし。
大森 「蒲公英草紙」が連載されてたのは、2000年の1月からほぼ1年間。連載終了後、恩田さんがなかなか単行本用の直しに手が付けられなくて、去年やっと出版された。

大森望氏。本の雑誌」「週刊新潮」「小説すばる」などで書評欄を担当。「このミステリーがすごい!」大賞選考委員のほか、各種小説賞の選考に数多く関わっている。
不思議なのは、9.11以前に書かれた小説なのに、内容が9.11以降の時代状況とシンクロしていること。ある大きな喪失のあとに〈「この国で生きていくことを決めた時から、僕たちはみんなを『しまう』ようになったんだ。みんなの思いをこの先のこの国に役立てるために。僕は、自分の一族に生まれついたことや、この生活を後悔してないよ」〉という言葉が語られたりする。
豊崎 その嗅覚の鋭さもまた恩田陸という作家の優れたところですよね。
大森 今書こうとすると、9.11以後を意識しすぎちゃって、こういうふうにさらっとは書けない。その意味ではタイミングよく出版された作品だという気がします。
豊崎 直木賞が嫌う、SFファンタジー要素が入ってる点はどうですか?
大森 この程度の超能力ならぎりぎり大丈夫じゃないですか。前回受賞の朱川湊人「花まんま」に続く「すこしふしぎ」ラインってことで。「死神の精度」まで行くとどうかと思うけど。
(後編に続く)
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