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豊崎 でも、東野さんは、そういうストライクゾーンものは書けないじゃないですか。

大森 いやいや。直木賞狙いなら、「白夜行」系列のヒューマン・ミステリーか、「さまよう刃」みたいな社会派的モチーフを扱った作品で来るでしょう。

豊崎由美氏。「GINZA」「本の雑誌」「TV Bros.」「文藝」などで書評を連載中。

豊崎 その「白夜行」を、〈作家と自負するなら、より深く誠実に、主人公の内面に分け入り、踏み込んで書くべきではないか〉って渡辺淳一にとんちんかんな大否定されて落とされた。だから、直木賞向け作品としては、「もうあの路線はダメだ」と断念しちゃってるんじゃないですか?

だから今回は、あえて得意な本格ミステリーを書いて、そこに分かりやすーい人間ドラマを入れてきたんじゃない? 石神のキャラに勝負を賭けた。ラスト、たいていの人が泣くって言ってるし。わたしは失笑しましたけど。

大森 でもこれ、「探偵ガリレオ」「予知夢」に続く、物理学者・湯川学が探偵役を務めるシリーズの第3弾でしょ。いくら版元が文春でも、直木賞狙いじゃなかったと思うけどね。少なくとも「オール讀物」で連載が始まった当初は。

豊崎 じゃあ、いらないの? 直木賞を取れをなくてもいいと思ってるの?

大森 そりゃ欲しいでしょう。連載中から手応えを感じ始めて、ラストは直木賞を意識した可能性はあるね。しかも、単行本が出版されるなり大反響。うるさがたのミステリー評論家筋も絶賛の嵐で、2005年の「このミステリーがすごい!」でも「週刊文春」の「ミステリーベスト10」でも、ダントツの1位。もはやミステリー界の統一候補という雰囲気になってしまった。って言っても、「半落ち」が落とされた例があるので油断できませんが。

豊崎 選考委員の北方謙三が、ミステリー界代表としてどこまでがんばれるか?

大森 「半落ち」のときは反対に回ったらしい。今回は、日本推理作家協会の前理事長として、不退転の覚悟で東野圭吾を推すかどうか、注目されるところですね。さらに、元理事長の阿刀田高がどう出るか。渡辺淳一はやっぱり反対するのか。今回、いちばんホットなポイントです。

豊崎 でもさ、死んだ子の年を数えてもしょうがないっていうけど、120回の「秘密」で決めておけばよかったんですよね。あれで授賞しとけば、こんなややこしいことにならなくてすんだのにさ。

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