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芥川賞候補作紹介

伊藤たかみ 「ボギー、愛しているか」(群像12月号)
 妻と話すのがおっくうで家に帰りたくない飯島と、売れない作家の加藤は、中学時代からの同郷の仲間。30歳を過ぎた二人が思い出すのは、保木という男だ。

保木はボギーと呼ばれていた。ボギーは馬鹿だった。母親の愛人を憎み、殺したいと思っていた。加藤は昔、「金をくれるならやってやる」と言い、ボギーから金を巻き上げた。それは総額20万円にもなり、さすがに責任を感じた加藤は、飯島と一緒に愛人を襲い、脅して街から追い出してしまう。

ボギーは19歳のとき、死んでW島の海岸に打ち上げられた。死因は分からない。20万円は加藤がそのまま持っている。今になって加藤は、かつて売春島と呼ばれた地であるW島まで出かけて、「二人で散財してしまおう、それがボギー供養だ、いっしょに行こう」と飯島にもちかける。

西村賢太 「どうで死ぬ身のひと踊り」(群像9月号)
 主人公の“私”は、大正期のマイナーな作家・藤澤清造にはまり、全集を発行しようとしている。

清造忌の法要に出かける際、同棲中の女とケンカする。法要の酒席でうれしく飲んでいると、寺の副住職が「もう少し人が集まるといいですね」と言っているのが聞こえる。これを耳障りに思い、激しく反論してしまう。

東京に帰ってくると、女とのけんかを蒸し返してしまう。“私”は6歳下のこの女に執着があるが、どうしても暴力をふるってしまう性向があり、女との仲はこじれる一方だ。

ある日、“私”の暴力が原因で、女は田舎に帰ってしまう。“私”は戻ってもらえないかと女のもとへ出向き、なんとか連れ戻しに成功する。しかし、女が不在の間に自慰行為で女の下着を汚してしまったことを告白。女に「変態!」と罵られる。さらに、カツカレーの食べ方を「豚みたい」とばかにされる。頭に血が昇った“私”は、女をぶったり、足蹴にしてしまったり…。

思えば、藤澤清造のことでうまくいったときに限って、女とこんな事態になってしまうのだと自分を恨めしく感じる。

松尾スズキ 「クワイエットルームにようこそ」(文學界7月号)
 明日香は口さびしくて、酒を飲みながら向精神薬をかじった挙句、オーバードーズで意識を失い、精神病院の一室に拘束された。別れた夫が自殺してから鬱病だったとはいえ、自分では、自殺するつもりも狂っているつもりもなかった。

不本意に社会から遮断された10日間の病院生活の中で、さまざまな程度の過食や拒食の摂食障害、境界性人格障害、統合失調症などの女性患者たちと合う。彼女たちとの交流が深まり、人望を集めたりもするが、そんなエピソードは病院から出たら通用しないのだと思う。

狂っていないはずの明日香だったが、同棲中の恋人・鉄っちゃんからの手紙で、オーバードーズで意識を失っている間の酷い自分のありさまを知り、暴れ、病院内でまた拘束される。明日香は、鉄っちゃんと別れることにする。

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