ライ・クーダーが久々にニュー・アルバムをリリースするというニュースが入ってきた。彼は1987年の“Get Rhythm”以来、単独名義のオリジナル・アルバムを発表していない。もちろん、それ以前からサントラ仕事は多かったし、マリのアリ・ファルカ・トゥーレと連名の95年作“Talking Timbuktu”、キューバのヴェテラン・ミュージシャンたちにスポットを当てた97年のお馴染み「ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ」、そのつながりでキューバのギタリスト、マヌエル・ガルバンとコラボレイトした2003年の「マンボ・シヌエンド」など、コンスタントに彼の名が入ったアルバムは発売されてきた。しかし、単独作となると話は別。どんな内容なんだろう。期待が募る。
ぼくにとってクーダーは、とても思い入れの強いミュージシャンだ。たしか、高校卒業後に上京したとき、すでに日本盤LPを持ってきてたはず。今回は、そんな彼のアルバムをいくつか取り上げます。傑作揃いなので、選ぶのが難しいんですが…。
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まず、新進シンガー・ソングライターのアルバムだと思って購入し、びっくり仰天したのが70年のファースト“Ry Cooder”。自作曲が1曲しかない。しかも、ロック時代の70年作品とは思えないようなボトルネック・ギターによるインスト。コンテンポラリー・ソングはランディ・ニューマン作の‘Old Kentucky Home’だけで、あとはオリジナル・ヴァージョンなど聞いたこともない古いブルースやフォークのカヴァーが並ぶ。しかし、ハマりました。ボトルネック・ギターやマンドリンの達人なのは知っていたが、朴訥なヴォーカルがまたいい味で。プロデュースがレニー・ワロンカー&ヴァン・ダイク・パークスなので、ストリングスの入れ方などに“古いものを新しい手法で”という意欲が垣間見られるところも、好きになった理由かな。クーダー自身は気に入らなかったようだが、LPのA面にあたる前半6曲目までの流れは、やはり画期的でしょう。
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71年のセカンド「紫の峡谷(Into The Purple Valley)」は、まずB級映画のワン・シーンのようなジャケット(表裏に加え、見開きの内側も)がサイコー。もともと“グッド・オールド・デイズ”ならぬ“バッド・オールド・デイズ”、つまり1930年代の不況時代を自身の音楽のテーマとしたクーダーだけに、ここでもトラディショナル曲を3曲も取り上げるなど、趣向に抜かりはない。前作に続くウディ・ガスリー作品やブルース・ナンバーに混じって、多くのロックンロール・シンガーが録音してきた「マニー・ハニー」、ディッキー・ドゥー&ザ・ドンツ59年のヒット・バラード「ティアドロップス・ウィル・フォール」、バハマのジョセフ・スペンス作のインスト「天国からの夢」を取り上げているのが目を引く。プロデュースは、パークスが外れ、レニー・ワロンカー&ジム・ディッキンスン。
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アーシー&シンプル&激シブな72年の「流れ者の物語(Boomer's Story)」を挟み、74年に発表されたのが、ぼくが今もよく聞く「パラダイス・アンド・ランチ」。精緻なリズム・コンビネイションやギターの鳴りなどは従来どおりだが、プロデュースがゴールデン・コンビのレニー・ワロンカー&ラス・タイトルマンになったせいか、コーラスやホーンズの入れ方など非常にソフトで、耳触りいいこと、この上ない。ミルト・ホランドのパーカッションとジム・ケルトナーのドラムとの絡みが、南から吹きつける風を思い起こさせる曲もあり。ワシントン・フィリップス作「おしゃべり屋(Tattler)」、ボビー・ウォマック作「イッツ・オール・オーヴァー・ナウ」、バート・バカラック作で邦題がまったくそぐわない「恋するメキシカン(Mexican Divorce)」など曲も粒揃いで、こりゃ梅雨どきの晴れ間が覗いた休日の午後に、またプレイヤーにセットしそうだ。そうそう、有名な「ディティ・ワ・ディティ」では、アール・ハインズがピアノを弾いてます。
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76年の「チキン・スキン・ミュージック」でクーダーの音楽性は、さらなる広がりを見せる。柔軟な探求心と吸収力の先に見据えたのはメキシコとハワイ。テックス・メックス(音楽名)のボタン式アコーディオン奏者フラーコ・ヒメネスと、ハワイアン・スラック・キー・ギターの故ギャビー・パヒヌイ、この名手ふたりの参加が、それを物語っている。もちろん、クーダー自身もメキシコの12弦ギターであるバホ・セストやスラック・キー・ギターの奏法を手の内に。それにしても、この、時間がゆったりと流れていくような心地よさったらない。これも前作と並ぶ愛聴盤です。有名曲は「スマック・ダブ・イン・ザ・ミドル」、テックス・メックス風味にアレンジされた「スタンド・バイ・ミー」、ラストを締めくくるレッドベリーの「グッドナイト・アイリーン」あたりかな。
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ヒメネスたちテックス・メックスのバンドとボビー・キングらのコーラスを従えた76年のライヴ盤“Show Time”に続き、またまた驚かされたのが78年の“Jazz”だった。タイトルはすごいが、ここで取り上げられているのは1920〜30年代の曲で、多くの人がイメージする「ジャズ」とはかけ離れている。これは、カリブ海に向かって開かれていたジャズ誕生の地ニューオーリーンズの文化/民族混淆(クレオールとも言いますね)が生み出した音楽の一部を現代に再生させようという試みとも受け取れる異色作。ヴォーカル・ナンバーは3曲のみ、クーダーは全編アコースティック・ギターで通す。
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前作で大上段に振りかぶりすぎた点を反省したのか、79年の“Bop Till You Drop”ではR&Bやゴスペルに寄り添い、クーダー流“白人による黒人音楽”の完成形を導き出している。ティム・ドラモンドのベース、ジム・ケルトナーのドラムとリズム隊を固めたことも大きいが、絶妙なリズム感覚でデイヴィッド・リンドリーと絡むギター・アンサンブルが素晴らしい。ヴォーカルも自信にあふれ、ゲストのチャカ・カーンとも対等に渡り合う。もちろん、ボビー・キングをはじめコーラス隊も万全。これも、聞いててウキウキするような傑作です。
80年の“Borderline”は前作の路線を引き継いでいるが、ある高みに達してしまった者の宿命か、インパクトはイマイチ。それは自作曲や共作曲が増えた82年の“The Slide Area”でも同様で、アヴェレイジを軽くクリアしてる出来映えなのに、のめり込むまでは至らなかった。この頃からサントラ仕事に精を出すようになったことと、何か関係してるんだろうか。
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87年の“Get Rhythm”はダサダサのジャケットにガッカリしたが、なかなかの力作。沖縄の旋律を盛り込んだ自作曲‘Going Back To Okinawa’が話題になったが、ジョニー・キャッシュのタイトル曲、アコースティック・スライドの弾き語りで素晴らしくファンキーなチャック・ベリーの‘13 Question Method’、エルヴィス・プレスリーの代表曲でもある‘All Shook Up’と、ロックンロールに敬意を表すことも忘れない。カリプソの‘Woman Will Rule The World’もやってます。しかし、何と言ってもハイライトは珠玉の名曲‘Across The Borderline’。サントラ“Border”で既に発表済み、日本のTV-CMにも使われたことのあるこの自作曲を、クーダーは新たに録り直し、俳優ハリー・ディーン・スタントンとのデュエットという形で聞かせてくれる。一瞬にして、部屋の中に哀愁が漂いますよ。
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さて、6月29日に日本盤が予定されているニュー・アルバム「チャベス・ラヴィーン」だが、インフォによれば、今回は1940年代後半から50年代にかけてロサンジェルスに実在した街(エリア)の名をタイトルに冠し、当時の社会情勢とその街に暮らすヒスパニックの生活を映し出したコンセプト・アルバムだそう。おそらくチカーノ・ミュージック寄りの方向性でくると思うが、凝り性のクーダーのことだから、一筋縄ではいかないかもしれない。47年にロサンジェルスで生まれ、そこで育ったクーダーが、このテーマをどう料理するのか、興味は尽きません。
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コメント一覧
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ライ・クーダーの1stから3rdアルバムは、発売当時、友達から借りて良く聴いたものです。この辺からいろいろ興味が広がったのだなと改めて思いました。感謝します。
CDは、随分前に70年代半ばまでのものを収録したベスト盤(何とドイツ盤)を手に入れ、曲数が少ないと思いながら、いまだ良く聴いてます。
世情にはうといのですが、80年以降個人タイトルの作品がホント少ないことに驚きました。