前々回の当コラムでグラム・パースンズに触れたとき、実はエミルー・ハリスのその後についても書こうと思ったのだが、残念ながら紙幅が尽きてしまった。気づかぬうちにTV-CMでその歌声に接している人も多いと思うので、今回は彼女のアルバムを中心に、もうひとり、カントリー・ロックからオルタナティヴ・カントリーへの橋渡しをし、さらなる領域に踏み出そうとしているルシンダ・ウィリアムズについて書きます。
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とはいうものの、ハリスのアルバムは非常に数が多いので、すべてに触れることは無理。ぼくの場合、グラム・パースンズに見出され、1975年のソロ再デビューから長く籍を置いたリプリーズ時代は、代表曲をほとんど網羅した2枚組CD“Anthology: Warner/Reprise Years”で事足りてます。パースンズの遺志を継いだかのようなカントリー・ロック・サウンドに清楚な歌声が映え、聞き惚れること必至。亡きパースンズに捧げ、初ヒットとなった‘Boulder To Birmingham’は、フォークという彼女自身の音楽的出自を明らかにし、そこにカントリーの要素を融合した名曲だと思う。車のCMで流れていた‘Together Again’も入ってます。
これだけだったら当コラムで取り上げようとは思わなかったのだが、問題はそのあと。ここ10年くらい、つまり95年以降の彼女の活動成果が、実にめざましい。従来のカントリー・フィールドにも身を置きながら、そこから一歩も二歩もハミ出し、もはや変幻自在・八面六臂の活躍なのである。
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まず、久しぶりにハリスのアルバムを手にして(長かった黒髪がショートのブロンドになっていたことも含め)驚いたのが、95年の“Wrecking Ball”だった。U2やボブ・ディラン、ピーター・ゲイブリエルやネヴィル・ブラザーズらの諸作で独特の音空間を作り出し手腕を発揮していたダニエル・ラノワのプロデュースというのが購入のきっかけだったが、もはやカントリー(・ロック)の要素は微塵もなし。収録曲すべてが他人のカヴァーだが、ニール・ヤング作のタイトル・ソングをはじめ、ディランの曲にしても、それまで聞いたこともないようなアレンジ/サウンドで、音像の厚みや奥行きなど尋常じゃない。カナダ人ながらアメリカン・ルーツ・ミュージックに造詣が深く、米南部の納屋を改造したスタジオで蝋燭の灯りのもとレコーディングに臨むという噂さえあったラノワの面目躍如とも言えるが、そのサウンドに拮抗するようなハリスのヴォーカルも凄みを湛え、ダークなトーンに彩られた完成度の高い一枚となった。あとで触れるルシンダ・ウィリアムズの作品からも1曲取り上げてます。ちなみに、ほとんどの曲でドラムを担当するのは、U2のラリー・マレン・ジュニア。
以後もさまざまなセッションに顔を出しつつ、98年には、オルタナ・カントリー界の名ギタリスト兼シンガー・ソングライターのバディ・ミラーを含むグループ、スパイボーイ名義でライヴ・アルバムとDVDを発表。これらは現在、入手困難なので詳しくは触れないが、齢50にしてプラチナ・ブロンドに髪を染める(ルックスがいいので似合ってますね)心意気に見合った元気あふれるヴォーカルと演奏で、一時期はずっと愛聴していた。いい曲も揃ってたし。
2000年の「レッド・ダート・ガール」は、プロデューサーがラノワの片腕的存在だったマルコム・バーンに交替。サウンドはラノワの手法を受け継ぎ、相変わらず深淵だ。特筆すべきは、共作も含め、ほとんどの曲をハリス自身が書いていることだろう。いい曲書くんですよ、これが。能ある鷹は爪を隠す、でしょうか。これは、もはやオルタナティヴ・カントリーの進化形というより、この時点ではアメリカーナと呼ばれる音楽の最高峰と断言してもいい傑作だったと、ぼくは思っている。
ここで自身の立ち位置を確立したかのようなハリスは、2003年の「スタンブル・イントゥ・グレイス」でもほとんどの曲を書き、再びバーンにプロデュースを任せている。ジャケットこそエレガント路線だが、サウンドは一連の流れを引き継ぎ、ソングライティングにも磨きがかかった。ここまでくると、凛々しさとともに気高ささえ感じますね。彼女は47年生まれ。年上の人に生意気を言いますが、ほんと、いい年齢の重ね方をしてると思います。
そんなハリスの動きと連動するかのように、98年頃からめきめきと音楽性の幅を広げ、これまたオルタナ・カントリーの枠から逸脱するような動きを見せ始めたのが、ぼくが密かに「ナッシュヴィルのパティ・スミス」と呼んでいるルシンダ・ウィリアムズだ。
彼女の存在を知ったのは、88年頃だったと思う。ニュー・ウェイヴ/オルタナティヴ・ロック・ブームの一翼を担ったインディ・レーベル、ラフ・トレイドから出たセルフ・タイトルのサード・アルバムを手に入れたからだが、残念ながらフツーの女性シンガー・ソングライターっぽくて、発売レーベルの新奇さ以外はあまり印象に残らなかった。
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それから10年。98年の「カー・ウィールズ・オン・ア・グラヴェル・ロード」を聞いて、びっくり仰天。購入のきっかけは、オルタナ・カントリー界のアウトロー、スティーヴ・アールとレイ・ケネディのふたりによるザ・トワングトラストがプロデュースに噛んでいたからなのだが、ウィリアムズのややハスキーで気怠いヴォーカルにイチコロでヤラレました。ソングライティングの冴えが、それに拍車をかける。一時期話題となった“チャリ坊”ことチャーリー・セクストンや前述のバディ・ミラーがギターで参加、トム・ペティ&ザ・ハートブレイカーズのロイ・ビタン(プロデュースにも参加)が鍵盤類を操り、エミルー・ハリスもハーモニーをつけるし、とにかく的確な演奏でウィリアムズの個性をもり立てるバック陣が、また見事。ウィリアムズのルックスも好みだ。なんとなく、佇まいがパティ・スミスに似てるんですね。なお、このアルバムは国内盤と輸入盤でジャケットが違います。
このあとウィリアムズは、セクストンをプロデューサーに迎え、少し内省的になったような印象の「エッセンス」を2001年に発表。前作に続いて、このアルバムもグラミー賞を獲得した。そして、ロックンロールふうのナンバーも含み、さらにエモーショナルになった「ワールド・ウィズアウト・ティアーズ」は2003年作品。フォーク、ブルース、カントリーなどの融合は、さらに進んでいる。
…てなところで終わろうと思ったら、ウィリアムズの2枚組ライヴ・アルバムが出るというニュースが飛び込んできた。アメリカでの発売は5月10日。詳細は不明だが、タイトルは“Live @ The Fillmore”、そう、フィルモアでのライヴである。こりゃまた、黄金週間後も楽しみが増えたなぁ。素直に嬉しい。
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