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大のオトナも暗闇が怖い

博物学者の南方熊楠は、胎内めぐりには「信仰を強化するための装置」としての意味があると指摘しているそうだ。なるほど確かに、このように五感を遮断された状態で霊場をめぐるのは、一種の臨死体験であるとも言え、それは善男善女にとって強烈な宗教体験となることだろう。この心細さや畏れを越えて出口までたどり着いたとき、往時の人々はそこに明らかな神仏の加護を実感したはずだ。

もちろん多くの現代人は「神仏の加護」などナンセンスと一笑に付すことだろう。しかし、出口の明かりが見えてきたときの安堵感は筆舌に尽くしがたいものがあったことは強調しておきたい。これは裏を返せば、洞窟の絶対的な暗闇に本能的な恐怖を感じ続けていたことに他ならない。「出られなくなったらどうしよう」「もし何かいたらどうしよう」…。筆者は本気で恐れた。

大のオトナが、と笑うなかれ。光も音もない世界では人の妄想は何倍にも増幅されるのだから。それは遊園地のお化け屋敷やホラー映画などとはまったく異質の、別格と言ってもいいほどリアルな怖さだった。

これはつまり、いかによくできた遊園地であれ映画であれ、人間のイマジネーションにはかなわないということである。そして、こうしたイマジネーションを駆りたてる体験こそ、今の子どもたちに最も不足しているものではないだろうか。

子どもと一緒にこの洞窟を訪ねたら、後でぜひ感想を訊ねてみてほしい。間違いなく「怖かった」と言うだろう。そこで例えば「人間は、その怖さを克服するために文明を進歩させてきたんだよ」と言ってみてはいかがだろう。それは必ず、何かを感じさせるキッカケになるはずだ。

MEMO

威光寺
住所:東京都稲城市矢野口2411
電話:0423-77-6300
京王線・京王よみうりランド前駅から都道231号線をよみうりランド方面に進んで徒歩5分。駐車場あり。弁天洞窟の拝観料は300円。毎週火曜定休。

諏訪 弘

1970年生まれ。広島県出身。大学卒業後、新聞社・出版社勤務などを経て、現在はフリーランスのライター・エディター兼カメラマン。PC・ビジネス系 をはじめ、エンタテインメントや書評関連などの仕事を多く手がける。

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