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もっと心配なことがある。iTMSで何千曲も買いました、Moraで何百曲も買いましたという人が、ある日、突然iPodは販売中止、あるいはネットワークウオークマンは標準仕様合戦に負けました、新しい仕様に変更しますという悲劇に直面することもあるかも知れない。ベータ・ビデオのときのように。

私の仕事机の引出しには8インチフロッピーディスク、5.25インチフロッピーディスク、3.5インチフロッピーディスク、jaz、zip、PCカードメモリー、スマートメディアカード、コンパクトフラッシュカード、マイクロドライブ、SDカードなどが、文字通り、ゴロゴロしている。いずれも、パソコン、デジタルカメラや携帯音楽プレーヤー、シリコンオーディオ録音機器などのために愛用してきたものだが、本体の機器仕様が時代とともに変化し、今となっては使えなくなってしまったものたちだ。

ベータのビデオテープ、レーザーディスク、各種記憶メディア、今となっては聞いたこともない製品規格も数多い。絶滅、ないしは絶滅危惧品種に追いつめられてしまった製品は枚挙にいとまが無い。

一部のデジタルカメラメーカーとメモリー供給元は当時、「これからの時代、最も信頼のおける記憶媒体」とスマートメディアカードを積極的にプロモートして来た。ところが、今は全く知らん顔。メーカーの一時的な都合でユーザーは振り回されただけだった。

このまま、メーカーのエゴで囲い込み作戦が続くなら、過去の思い出したくもないおぞましい事態がデジタルコンテンツの世界でも起こることは目に見えている。メモリカードなら読み出し機器さえ確保できれば、中身を吸い出して別の規格のメモリーに移し替えたり、以前とは異なる再生ソフトで楽しむことも可能だ。しかし、不正コピーをさせないためのプロテクトをかけた以上、再生用のソフトやデバイスが変わるか、無くなってしまえば使えなくなる。

さまざまな型式のデジタルコンテンツが次々に生まれている今、絶滅を危惧するなど、早すぎるという読者も多いことだろう。しかし、それを出発点で考えておかなければ市場そのものが健全に成長しない。

広い世界でシームレスに使ってもらってこその配信基盤だ。積極的に技術を相互ライセンスし、「本物の標準化」をしない限り、絶滅の危機は目前に迫る。今のように、再生機器、再生ソフトごとに異なるプロテクト技術(DRM)が組込まれ、その環境に固定されてしまう不自由さを早く克服しなければならない。買った本人、あるいは家庭では環境が変わろうとも再生できる共通の認証方式を早く作り出し、普及させる必要がある。

Windowsマシンでしか使えません、iPodでしか再生できません、こんな柔らかくないデジタルコンテンツに、柔らかい発想を今すぐにでも取り入れてほしいものだ。

林 伸夫

インフォメーション・コンシェルジェ

1983年、ユーザーのためのパソコン情報誌「日経パソコン」の創刊に参加。91年日経パソコン編集長、92年日経MAC編集長。2001年3月から編集委員室主席編集委員。日経パソコンでは「コンピューターに詳しくない」一般のビジネスマンにとって、パソコンはどうあるべきかというテーマを追求、ビジネスの創造性、効率向上のためにPCやネットワークとどうかかわって行くかを提言してきた。2006年4月、フリーに転進後、迷えるインターネットユーザー、Macユーザーに役立つ情報提供サービスを模索中。

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