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これがピートか! 上陸したポート・エレンは、やけに寂れた波止場だった。 フェリー客が三々五々に散ってしまえば人影は絶え、男たちが静かに網を直す漁船の間から、時折、アザラシがひょうきんな顔を出す。 「アイラ・バー」と書かれたレンガ造りの窓は板が打ちつけられ、「1888」と刻まれている。かつての賑わいを偲ばせるアイラ・ホテルの廃墟は、すっかり夏草に覆われ、どこかで鳩がククルッと鳴いた。それでも、一軒だけ開いていた雑貨屋には、野菜や菓子と並んでラガブリンやボウモアのボトルが並べられていた。
A846は島を縦断する唯一の幹線道路である。ポート・エレンから島の中心地、ボウモアとの中間に空港があり、その手前に今夜の宿になるマクリー・ホテル&ゴルフリンクスが横たわっている。 一本道で迷うはずもないが標識もないため、つい行き過ぎた。夜の9時近くになるが、夏のスコットランドは10時過ぎまで明るい。しかも、急ぐ旅でもない。そのまま原野を割って進むと、所々に四角く切り取られた土塊が並んでいた。それは、スタア・バーで見せてもらった写真の風景だった。 荒廃地に見えたその一帯はピート・バンクで、厚さ5センチほどの長方形に切り出されたピートが、立てかけられ乾されていた。指でほじれば植物繊維がほぐれるほどだから、亜炭よりずっと若いのだろう。匂いを嗅いでもピート臭はなく、果たしてこんなものが燃えるのかという疑問がわいた。 行き過ぎた道を引き返し、マクリー・ホテル&ゴルフリンクスにチェックイン。旅人にとって寝床の確保は最大の安堵である。ざっと眺めても、独立ロッジが整然と並び、予想以上の高級感と清潔感に満足し、口笛まじりにトイレの水を流してぎょっとした。ほとばしる水が茶色に濁っている。まさか血尿か……。枕元に『飲料はこちらをお使いください』とミネラルウォーターが置いてあった。
宿のバーでは、アメリカからのグループと一緒になった。他にゴルフと無縁に見える若い家族連れが滞在していたのは、独立したロッジが希望だったのだろう。イングランドからの客が多いのはもちろんだが、北米や北欧から訪れるゴルファーも多いという。 そう話したのはアシスタント・マネジャーのブライアン・オニールさんである。風は強いが、気温は下がってもせいぜい摂氏8度あたりまで、雪は降らず霜が降りることもないから通年プレーが可能で、毎年1月1、2日にニューイヤー・コンペが開かれ、賑わうという。 と、蒸留所見学ツアーを勧められた。早速、ラガブリンを訪問することにした。 次回「リンクスコースとシングルモルトの旅 (後編)」につづく
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