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林に入ったボールを安全に,確実にフェアウェイに戻す,という当たり前で単純なことが,なかなかできない。どうしてもグリーンに向かって,なんとか木々の合間を潜り抜けて脱出させたいという欲望にかられる。 バンカーからのショットで,確実に出すことを飛び越えて,ピンに向かって少しでも近づけようとする。左足下がりのライでも,距離がたっぷりあれば,フェアウエイウッドやロングアイアンを持ち出して少しでも距離を出そうとする。
誰もが,ゴルフになると欲望の塊になって,自分を見失う。いや,実力以上のことができるのではないか,と思ってしまう。それが時には,うまくいくという奇跡的なことがあるから,何度も何度も,起こりうると期待してしまう。 奇跡的なことは,稀有だから奇跡的ということを忘れてしまうのである。 ベン・ホーガンは,奇跡的という言葉を信じていなかったに違いない。完璧主義だった彼は,1949年初頭に大交通事故に遭遇して重体,再起不能と見られた。けれども強靭な精神力と肉体で再起して翌年のマスターズに現れた。そして翌1951年にホーガンは,マスターズで初優勝した。その翌年は,サム・スニードが優勝し,そして1953年は,再びホーガンが勝った。通算274の14アンダーは,12年後の1965年にニクラスによって更新されるまでトーナメント記録として輝いた。 スニードは,生まれながらのナチュラル・ゴルファーだ。その澱みない自然なスウィングから自在な球筋を打ち分ける。ホーガンが,練習を積んでいく完璧主義者なら,スニードはむしろ野生児的なタイプである。 1954年。前年度勝者のホーガンは,この年も3日目を終えて1オーバーで首位。スニードは3打差の2位。彼は13番でつまずき,スニードが3打差をつめてプレーオフに持ち込んだ。結局,ホーガンはプレーオフ(当時は18ホールのストロークプレー)の16番で1メートル強のパットを外して,70対71の1打差で敗れた。 |
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