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T.301 Forged Titanium〈セイコーエスヤード〉
ゴルフを本当に楽しむために、ゴルフクラブにできることは何なのか。これまでのメーカー主導型の商品供給から脱却し、ユーザーの立場に立ったクラブ開発により、空前のブームを巻き起したブランドがある。 これまでのゴルフクラブ開発は、メーカー主導による大量生産型で、ゴルファーはその中から自分に最適なクラブを見つけ出していかなければならなかった。機能性や新理論、素材の進歩など、メーカーが打ち出す宣伝を頼りに数多あるクラブの中からベストな1本を探し出すことは、ほとんど不可能である。 だが、ゴルフには全く無関係であった新興メーカーが、その流れを断ち切った。 それこそ、当時、服部セイコー(現:セイコーエスヤード)から登場した「S-YARD」ブランドのクラブ群であり、中でもゴルフクラブ界に衝撃を与えたのが、ドライバーの『T.301 Forged Titanium』であったのだ。 95年。折しもバブル経済の栄華にすがり、もがいていた日本経済は、一気に下降線を辿りはじめる。娯楽やビジネスアイテムのひとつであったゴルフ業界もその例外になく大打撃を受けはじめていた。 当然のことながら、ゴルフクラブも新製品を出すものの売れず、ヒット商品がなく、どこもその起爆剤となる新製品の開発に躍起になっていた。だが、どこのメーカーもメーカー主導という、これまでのクラブ開発と同じ視点では、新たな扉を開くことはできなかったのだ。 そこに登場したのが「S-YARD」だったのである。“服部セイコーがゴルフクラブを発売するらしい”という噂は、前年度から業界を駆け巡ったものの“所詮、時計屋が作るクラブなどたかが知れているし、消えるのも時間の問題”という声や“ゴルフ業界が下降しているときにゴルフクラブの常識も知らない会社に何ができる”という排他的な意見がその大多数を占めていた。 そして、95年の春に『T.301 Forged Titanium』が登場したときも、フェースアングルを極端にフックフェースに作り、ロフト角も10.5度と11.5度と大きく設定されていたため、その顔付きに“こんな顔付きでゴルファーが手にするわけがない”と、まさに罵倒する声が非常に多かったのだ。 しかし、いざ蓋を開けてみると自社で開催した全国の試打会やゴルファー間の口コミで“スライスしないでまっすぐに飛んでいく”という声や“ラクにボールが上がって、こんなに飛ばせるなんて。ゴルフが楽しくてしょうがない”と、その評判が一気に広まっていったのだ。
ユーザーの立場に立ったクラブ開発を打ち出した服部セイコーでは、多くのゴルファーを悩ませているスライスは、インパクト時にフェースが開いてボールと当たったり、カット軌道によるスライス回転が生まれることに着目。多くのメーカーが“フェースが被って気持ちが悪い”と称した極端なフックフェースによって、このインパクト時のフェースの開きが補われ、大目に設定されたロフト角によって、インパクト直後からの高弾道が約束され、スライスに悩む多くのゴルファーにとって、ドライバーでの大きな飛距離を実現する、まさに救世主と謳われたドライバーに仕上げられていたのだ。 さらに、当時のドライバーの時流は、チタンウッドが人気を集め始めていたが、素材価格と製造過程の複雑化が、商品価格にフィードバックされてしまい、平均して12万円前後の値をつけていた。しかし、この『T.301 Forged Titanium』は、その平均を大幅に下回る8万8000円で上市し、値ごろ感と高い機能性が、爆発的な大ヒットを加速させていったのだ。 既存のメーカーにしてみれば、まさに青天の霹靂であり、過熱する「S-YARD人気」が速く通り過ぎるのを見守るしかなかったが、さらなる追い討ちとして、服部セイコーは販路をデパートや一部のゴルフショップに絞っていたため、店舗によってはバックオーダーが2000本を超えるなど、その品薄感から、さらなる「S-YARD人気」があおられていったのだ。 そして、人気商品の宿命ともいえる海外からの偽物やデザインを模したフェイク物なども数多く出回るようになり、その後も「S-YARD人気」は止まることを知らなかった。 この時を境に、クラブ開発のベクトルをメーカー主導型から、ユーザー主導型へと変換させたメーカーが多くなり、ゴルファーが実感できる“やさしさ”の追求に、この「S-YARD」の登場があったことは間違いない。 今や、ゴルフクラブ界でもその動向が常に注目されている「S-YARD」のクラブ群。そのクラブの根底には、常にゴルファーの立場に立ったクラブ開発の流れが継承されているのだ。 |
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