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利用者の属性によって異なるプライオリティ

そうはいっても、これまでパーク&ライドがなかなか普及しなかったのには、それなりの理由があるはずだ。パーク&ライドに関する数々の社会実験や実証実験に参加してきた、横浜国立大学 大学院工学研究院の中村文彦教授によれば、普及に向けては「利用者が本当に便利と思える“仕組み”になっているかどうか?」という視点が重要だと言う。

そもそも利用者はなぜ鉄道やバスなどの公共交通ではなく、自家用車(クルマ)で移動するのか。「自宅(目的地)が駅やバス停から遠い」「鉄道やバスの本数が少ない」「最終便が早くて不便」「複数の人間で移動する場合、クルマの方が交通費が安くつく」……様々な理由があるだろう。逆に、クルマではなく公共交通を選ぶ理由としては、「渋滞がない」「時間が正確」「クルマよりも早く移動できる」「一人ならクルマよりも交通費が安い」「駐車場の心配がない」と、こちらも様々だ。

利用者は必ず何かしらの理由があって、色々な交通手段の中から適宜選んでいる。パーク&ライドの実証実験をしたものの、実際の導入と活用まで至らなかった事例の多くには、こうした利用者の心理に上手に“歩み寄っていない”ケースが散見される。例えば、バス停付近に駐車場は完備したものの、最終便のバスが21時台と早く、運行本数も1時間に数本と少なければ、利用者にとってはバスにわざわざ乗り換えるデメリットの方が大きい。あるいは、目的地まで大した渋滞がないうえに、目的地に適正な価格の駐車場が十分に用意されていれば、わざわざ公共交通を使う理由がない。「ドア・ツウ・ドア」で目的地に行けるし、買い物などをした祭の荷物も自由に運べるし、大雨などの悪天候でもクルマなら濡れなくて済むとなれば、「環境負荷軽減のため」や「二酸化炭素排出削減のため」などの理由だけで、公共交通の利用を促すのは非現実的だ。

パーク&ライド導入にあたっては、利用者の立場に立って「誰に、どの交通経路を、どう変更してもらいたいのか」を事前に議論し、全体の枠組みをきちんと考えておく必要がある。もちろん、警察や公共交通事業者など関係各位の協力も必須で、これら一連のプロセスに何かしらの障害があると、パーク&ライドは成功しない(詳しくは中村教授のインタビューを参照していただきたい)。

パーク&ライド導入と活用を考える際に外せないのが、「誰に」という視点だ。例えば、通勤者に向けたパーク&ライドなら、平日の利用を前提に計画するが、観光客向けなら土日・祝日などになろう。また、通勤者は土地勘があり、クルマの代替経路となる公共交通網のメリットやデメリットもよく知っている。生活拠点も近いことから、パーク&ライドの運用開始や利用者募集といった情報を比較的広めやすい。かたや、観光客は初めて現地を訪れる人も多く、通勤者向けとは全く異なった情報提供の手段が求められよう。

所要時間や費用に対する感覚も、通勤者と観光客では異なる。通勤者は時間的な制約が大きいが、交通費は一人分で済むし、会社が交通費を負担するケースも多いので、費用に対するプライオリティは高くない。一方、観光客は時間的な余裕はあるものの、複数人で移動すれば、公共交通の方が高額になる可能性が高く、費用に対してはシビアな目を持つ。つまり、通勤者は多少高額でも早くて確実な経路を、観光客は多少時間がかかっても安い経路を選ぶ傾向にあるという訳だ。

さらに、週末に近隣都市から訪れる「買い物客」という層も存在する。道路状況や公共交通網への理解度、時間や経費への考え方など、あらゆる側面において、通勤者とも観光客とも異なる視点を持っている。こうした利用者の属性と志向の違いを踏まえたうえで、誰に、どのように利用してもらいたいのかを十分に議論することが、パーク&ライドを成功させるに当たって必要不可欠だ。

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