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パーク&ライド再考(前編)

2007年3月9日

●米映画界で最高の栄誉とされる「アカデミー賞」──。第79回となる今回、米現地時間で2月25日に授賞式が行われ、長編ドキュメンタリー部門賞ではアル・ゴア元米国副大統領の『不都合な真実』が輝いた。同作品のエンドロールにはゴア氏が提唱する「私にできる10の事」が映し出されるが、10項目のうち2項目がクルマの使用方法に関することになっている。これは地球環境に対して、クルマが及ぼす影響がそれだけ大きいということであり、地球温暖化問題への個人の取り組みとしても、クルマの使用方法を見直すことがいかに有効であるかを示唆しているともいえる。

●とはいえ、今の日本を見渡せば、クルマが我々の生活に必要不可欠であることは間違いない。電車やバスといった公共交通手段と異なり、時間や経路に“縛られる”ことなく、自由に行きたい場所へ行くことができる便利な手段──それがクルマなのだ。同時に、クルマを自らの意志で自在に操れるという快感や、自分たちで好きなようにクルマに手を加えて(アレンジして)乗りたいなどといった思いもあるだろう。しかし、少しだけ考えてみてほしい――どこかに移動するということを考えた場合、クルマ、特に自家用車だけを使うということが必要不可欠な絶対条件なのだろうか?

●道中において、クルマから電車やバスなどの公共交通に乗り換える「パーク&ライド」は、クルマの便利さを享受しつつ、環境負荷低減にも効果が期待できる施策である。わが国では10年以上前から注目されているものの、実のところ、パーク&ライドの成功事例はあまり多くない。それは一体なぜなのだろうか。今回の特集では、パーク&ライドを取り巻く現状を整理して踏まえたうえで、何がメリットで何がデメリットなのか、普及のヒントはどこに隠されているのか、今後の可能性はどうなのかなどについて考えてみたい。

構成・文/林 愛子

5tのアフリカ象を乗せてドライブするとしたら……

「そろそろクルマでも買い替えようかな」と考えたとき、読者の皆さんはどのような点を重視するだろうか。スタイル、デザイン、大きさ(車内空間)、走行性能、燃費、付随機能、車体価格……10人いれば10通り、100人いれば100通りのクルマに対する多種多様な価値観があるだろう。それだけではない。クルマは今や確固たる“文化”であり、個人あるいは家族などの“ライフスタイル”として定着している。そこには、各人の趣味や嗜好(しこう)が入り込み、一口に「移動のための手段」とは言い切れない。

最近では原油価格が高値で推移していることから「燃費」を最重視し、軽自動車を選ぶユーザーが増えているという。統計上でも、軽自動車の保有台数が増加傾向にあることは明らかだ。国土交通省の平成18年6月の調査では、トラックやバスなどを除く乗用車の保有台数は約4245万台、同じく軽自動車は約2617万台。5年前の平成13年度調査と比べると、乗用車が約8万台減少しているのに対して、軽自動車は約365万台増加している。一世帯で複数台所有する場合も、2台目は維持費の安い軽自動車を選ぶケースが少なくない。

しかし、軽自動車の燃費が良いかといえば、単純に「YES」とは言い切れない。燃費の良さではハイブリッド車に軍配が上がるし、普通乗用車でも車種によっては軽自動車にそん色ない燃費性能を誇る。少し前置きが長くなったが、クルマ選びの際に燃費という項目をぜひ考慮してほしいということだ。「そんなの、当たり前じゃないか」というお叱りの声を頂きそうだが、重要なのはクルマの燃費と環境に対する負荷は、関係がきわめて深いためである。

冒頭で紹介したように、米国元副大統領のアル・ゴア氏は著書および映画『不都合な真実』の中で、「私にできる10の事」として、個人が取り組める地球温暖化防止策を提唱している。そのうちの2項目はクルマに関することで、「停車中は、エンジンを切り、エコ・ドライブしましょう」「タイヤの空気圧をチェックしましょう。クルマの燃費を良くすれば、無駄なエネルギー消費を防げます」とある。

米国がクルマ大国であることを考えれば、10項目のうち2項目もクルマに関連するトピックが入るのは当然かもしれないが、クルマの保有台数が今なお右肩上がりのわが国でも、この提言は他人事ではないのだ。

環境省が発表した2003年度二酸化炭素排出量(速報値)によれば、日本全体の二酸化炭素排出量12億5500万tのうち、自家用車による排出量は6%も占める。家電や一般廃棄物など、その他の家庭の排出量は13%なので、家庭が排出する二酸化炭素のうち、約3分の1をクルマが“担っている”ことになるわけだ。

また、ある計算によると、1台のクルマが1年間に1万km走行すると、排出される二酸化炭素は約5tに達するという(こちらを参照)。二酸化炭素は排出と同時に空気中に拡散していくため、どの程度の量を排出しているのかを日常的に実感するのは難しい。しかし5tという重さはアフリカ象と同じくらいだ。あの巨大なアフリカ象があなたの愛車に乗っているとしたら、読者の皆さん、どうだろうか。しかも、クルマを乗り続けている限り、あなたはアフリカ象を何頭も“出現”させることになる……?

しかし、現代社会において、クルマの利用をゼロにすることはもはや不可能だ。クルマでしかアクセスできないエリアもあるし、時刻表や運行経路に左右されないというクルマならではのメリットもある。電車やバスなどの公共交通には渋滞や駐場の心配がないといった利点があるが、それでも自家用車を手放してまで公共交通へシフトしなさいというのは、あまりに非現実的である。

そこで今回の特集のテーマである「パーク&ライド」という考え方が出てくる。運転するだけで“自然”と愛車に乗ってしまうアフリカ象を、せめてひと回り小さなインド象にするために、つまり、クルマの二酸化炭素の排出量を少しでも減らして環境負荷を低減するために、パーク&ライドという取り組みが頭をもたげてくる。

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