10月に合併する東京三菱銀行とUFJ銀行の情報システム統合方針が決まり、ほぼすべてのシステムを東京三菱銀のものに一本化することになった。ただし、統合方針を現場の情報システム部門がなかなかまとめきれず、東京三菱銀の畔柳信雄頭取が決着をつけた格好だ。
統合方針をまとめるまでの顛末(てんまつ)を好意的に評すれば、我が国の金融機関トップの中で最もIT(情報技術)に強い畔柳頭取がトップダウンで決めた、となる。畔柳頭取は情報システム部門の実務経験があり、さらにシステム担当役員として三菱銀行・東京銀行のシステム統合を指揮した成功体験を持っている(本欄2004年8月3日付「『エンジニアこそ本流』、7年後に分かった東京三菱銀トップの真意」を参照)。
いっぽう、批判的に解説すれば、あまりにもITに詳しい畔柳頭取の存在ゆえに、かえって東京三菱銀とUFJ銀の間がぎくしゃくした、とも言える。強烈な成功体験を持つ経営者が、いちばん得意としている領域でかえって手こずるというのは、歴史上散見される事例である。
「東京三菱銀システムかUFJ銀か」ではない
決定の過程を見る前に、今回、東京三菱銀とUFJ銀がシステムを巡って決めなければならなかったことを整理しておこう。まず巷間報道されていた「東京三菱が採用している日本IBM製システムか、UFJ銀が採用している日立製作所製システムか」という問題設定は間違っている。
両行が採用しているシステムはそれぞれ、両行の行員が開発したものであって、コンピューターメーカー製ではない。正しくは、旧・三菱銀行の行員が開発したコンピュータープログラムが日本IBM製コンピューターの上で、また、UFJ銀の前身行の一つである旧・三和銀行の行員が開発したプログラムが日立製コンピューターの上で動いているのである。
次に「三菱銀製システムか、三和銀製システムか」という問題設定も適切ではない。重要な問いは「現行システムを一本化するか、新システムを開発するか」であった。東京三菱銀とUFJ銀は合併して一つの銀行になるわけで、最終的に情報システムも一つにする必要がある。その場合、現在使っている三菱銀製システムあるいは三和銀製システムのどちらかを残し、もう一方を廃棄するやり方と、新銀行用の新システムを開発してそれを利用するやり方があった。後者の場合、乱暴に言えば、現行の三菱銀製システムと三和銀製システムの両方を廃棄し、新システムへ切り替えるということである。
もし現行システムを生かすのであれば、存続させるシステムは三菱銀製にせざるを得ない。三菱銀製システムが三和銀製システムより優れていようが劣っていようが関係ない話である。存続行は東京三菱銀なのであるから、事務の仕組みは東京三菱銀に統一される。従って事務を支える情報システムも三菱銀製ということになる。システムは事務に従い、事務は経営に従うのである。
しかし理想的なやり方は新システムへ移行することであった。そもそも三菱銀製システムにしろ、三和銀製システムにせよ、根幹部分はともに20年近く前に設計・開発されたものである。一長一短はあっても、ともに古いことに違いはない。しかも金融ビジネスの規制緩和に伴って、これから新しい商品を次々に開発する必要がある。できれば古いシステムへの一本化作業などやめて、新しいシステムの上で新商品を開発していきたいところだ。それに現行システムを一本化するとなると、みずほ銀行や三井住友銀行が既に完了した作業を今からやるという印象を与えてしまう。
東京三菱銀もUFJ銀もシステムの将来計画をそれぞれ持っており、できれば旧システムへの一本化は避けたいという考えがあったはずである。しかしある段階から、東京三菱銀は急速に、現行システムへの一本化に傾く。新システムを開発するとなると、開発している間、二つの旧システムを併用しなければならず、コスト削減がなかなかできないと判断したのであろう。実際、2月18日に発表した合併計画案の大半は、人員削減と店舗統廃合によるコストダウンに関するものであった。またUFJ銀の事務及びシステムに関して東京三菱銀側が納得できない点があったという説もあるが、その詳細は不明である。
それぞれの立場ゆえに意思統一が難しい
ともあれ現行システム一本化の道を選ぶと、先に述べた理由でUFJ銀のシステムを残すという選択肢はなくなる。本来はここで畔柳頭取が経営判断をしてもよかった。しかし畔柳頭取は現場部門に取りまとめを任せた。
その理由を推測すると以下のようになるだろう。畔柳頭取が決めてしまうと「自分が作った愛着があるシステムだから残した」と言われかねない。システムの一本化を成功させるには、東京三菱銀とUFJ銀のシステム担当者が一枚岩になって作業に当たらなければならない。そのためには現場で話し合い、納得してもらう必要があった。
しかし現場同士の話し合いはけんかにこそならなかったものの、なかなか噛み合わなかった。当初はお互いの現行システムを理解しようと、相互に説明する場を設けた。しかし、「技術面の意見交換をしているときに、UFJ銀の担当者の方に説得力があるように聞こえることもあった」(関係者)。東京三菱銀の情報システム部門は、システム一本化の段取りに関し、畔柳頭取に相談しようとしたが、頭取としては先の事情もあり「現場でまとめられないのか」という姿勢を取らざるを得なかった。
一方、東京三菱銀で実際の金融ビジネスを手がける現業部門の一部からは「いっそのことUFJ銀のシステムでもいいのではないか」という意見が漏れてきた。これは東京三菱銀ならではの現象と言える。
東京三菱銀は歴代の経営トップに情報システム部門責任者を極力経験させる、という人事を実施してきた。このため経営トップと情報システム部門の結びつきは他の銀行に比べはるかに強い。これが同行の強みである。ただ東京三菱銀の現業部門は「システム部門がなかなかこちらの言うことを聞いてくれない。経営トップに掛け合っても『システムを作るというのは大変な仕事なんだ。あまりわがままを言うな』と却下されてしまう」という気持ちになることもあった。
通常の企業では経営トップもビジネス部門も、情報システムのことをほとんど理解しておらず、システム部門ばかりが無理難題を背負い込まされることが多い。東京三菱銀はこの問題を回避することに成功した。しかし、成功しすぎたゆえに、両行の関係者の間がぎくしゃくするという事態を招いてしまった。経営、現業、システムをうまく連携させることはどんな企業にとっても永遠の課題と言える。
最終的には畔柳頭取がトップ判断で、システム一本化方針を決めた。畔柳頭取はUFJ銀に対し「東京三菱銀製システムを地方銀行数行に提供しており、引き続き機能強化すると約束している。従って東京三菱銀システムを継続します」などと説明した。
畔柳頭取は2月18日に日銀記者クラブで会見し「システム統合は、顧客の利便性とシステムの安定性、統合作業の安全性を考慮したうえで、総合的に判断して決めた」と述べた(関連記事)。この言葉通りにシステムを統合できるかどうかが今後の課題となる。重要なことは顧客の利便性をどう考えるかである。対顧客戦略を早急に練り直し、そのために必要なシステム像を描き、それが現行三菱銀製システムと合っているかどうかを検証しなければならない。
(谷島 宣之=日経ビズテック・日経ビジネス・日経コンピュータ編集委員)
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