総務省がまとめた「平成15年通信利用動向調査」によると携帯電話の世帯普及率は93.9%に達したという。しかし、インターネットに接続できる携帯電話となると56.5%。それでも十分多いとは思うが、買い控えている層もかなり居ることが想像できる。
携帯電話からインターネットにアクセスする用途として真っ先に思い浮かぶのは、おそらく電子メールではないだろうか。「利用動向調査」を見ても、用途として最も多いのは電子メールで74.3%。「音楽のダウンロード・視聴」が50.1%で続いている。
また同調査によると、50〜59歳代の利用率が、昨年度(平成14年度)に比べ約8ポイント、60〜64歳代も約6ポイント伸びている。80歳以上の利用率も1.3%から4.1%に高まった。65〜69歳代、70〜79歳代がそれぞれ1ポイントほど下がってはいるものの、高齢者の利用率は全体的に増加傾向にある。
利用率の向上に、パケット通信の定額制が導入されている第3世代携帯電話の登場がどのように影響を及ぼしているのか、今回の調査結果からはまだ見えない。だが、平成16年度の調査で、その度合いが見えてくることだろう。
さて、「ユニバーサルデザインの携帯電話」と言えば、NTTドコモの「らくらくホンシリーズ」が特に有名である。今回はその開発を担当する、富士通 パーソナルビジネス本部 ユビキタスクライアント事業部 モバイルホン企画部 プロジェクト課の林田健 課長と、同本部 パーソナルマーケティング統括部 モバイルホン推進部の坂本秀幸氏にお話を伺った。歴代の「らくらくホン」シリーズを実際にお持ちいただいたので、実機を触りながら貴重なお話を伺うことができた。
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| 歴代らくらくホン 右から F671i、F671iS、F672i、F880iES |
先日発表になったFOMA版らくらくホン「F880iES」も実際に触らせていただいたので、主にこの製品について話をさせていただく。
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| FOMA版らくらくホン 右から ブロンズ、シルバー、ダークグリーン |
まずは歴代らくらくホンでどんな工夫がなされたのかを順に紹介していく。
歴代のらくらくホン
・F671i(らくらくホンII)2001年
初代は、いろいろな意味で初めての端末である。従って、あれこれと注文をつけたくなるところが少なからずあった。
だが、フリップタイプの持ちやすいデザイン、大きな画面に読みやすい大きさの文字(20ドット表示6文字×6行)、シンプルで分かりやすい簡単メニュー、そして簡単メニューの操作説明とメールを読み上げる機能があった。
簡単メニューは、よく使うと思われる操作のために用意されており、メニュー内での迷子になったり、誤操作を防止するのに役立った。読み上げボタンを押すだけで、画面に表示された文字を読み上げてくれるので、非常にお手軽だった。音量も、側面にある回転式のボリュームで容易に調節できた。
「簡単メニューは使いづらい」と感じるユーザー向けには、「詳細メニュー」と呼ばれる“普通”のメニューがちゃんと用意されていた。
ボタンデザインも優れていた。押しやすい大きなボタンを採用しており、よく電話を架ける先を3件まで登録できた。フリップを閉じた状態で押せるワンタッチダイヤルボタンもあった。
幸運にもかつて、この機種に一度、触れる機会に恵まれた。あれこれと遊ばせてもらう中、メールを読み上げてくれる機能は特にありがたかった。全盲の人であっても、メニュー操作を覚えてしまえば、とりあえずメールを読むことが可能になった。
メニュー項目を読み上げてくれなかったり、音声読み上げボタンが背面にあり手の不自由なユーザーが押しにくかったりと多少のハードルがあったとは言え、障害者や高齢者、携帯電話に苦手意識を持つ世代に対して、「使う」気を起こさせるに十分な製品であった。当時の携帯電話の平均的なスペックを考えると、よく頑張った端末だったと評価できる。実際、筆者の知り合いが数人、このF671iを購入し、今でも大事に使っている。
・F671iS(らくらくホンII S)2002年
「初代」の製品を、折り畳みタイプにしたのが「2代目」である。初代と比べて0.1インチ大きくなった液晶は、6万5536色表示のTFT。このため、従来と同じ大きさの文字でも、くっきりと見えるようになった。文字表示も8文字×6行となったので、メニューが読みやすくなった。目新しい機能がたくさん搭載されたわけではないが、初代以上に「かゆい所に手が届くようになった」という印象があった。
・F672i(らくらくホンIII)2003年
現行機種として頑張っているのが、F672iである。F671iSと比べて厚みが6mm薄くなり、よりスタイリッシュになった。重さも5gほど軽くなった。
F671iSは、開いた状態で机に置くと液晶側の重みで倒れてしまうことがあったが、F672iは安定感が増し、そのようなことは起きなくなった。またこの機種からは、メニューやメール、電話帳だけではなく、iモードサイトの文字も読み上げられるようになった。
ただし、携帯電話用のコンテンツにはALT属性にテキストが入っていないことが多い。このため、必要な情報が正しく読み上げられているかどうかは分からない。携帯電話用コンテンツを作成する場合には、こういった読み上げ機能を持った端末があることを十分に意識するべきだろう。
この他、音声で操作ができる「音声認識機能」が搭載された。音声操作で電話を架けられるようになったため、操作が難しいと感じる層にも便利だ。呼び出し機能は、通話だけではなく、「電卓」などあらかじめ10件が登録されている。
また、かばんの中に入れておいてもカウントできる歩数計が搭載されている。登録しておいたアドレスに、1日の歩数を自動的にメールで送ってくれるという機能は面白いものだ。歩くことを医者に薦められている中高年層は、ぜひ積極的に活用していただきたい。
当然ではあるがワンタッチダイヤルボタンは健在である。
FOMA版らくらくホン
・F880iES(FOMAらくらくホン)2004年
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| F880iESを開いたところ |
今度新しく登場したのがF880iESである。厚みは、FOMA最薄の23mm。実際に見てみると分かるが、かなり薄く感じる。アンテナがなくなったこととカメラが搭載されたことで、従来機とはだいぶ印象が違う。
液晶は2.4インチで、8文字×8行が表示できる。高精細デカ文字フォント(30ドット)を採用。液晶が大きくなったおかげで、「見たままガイド」という画像付きのガイドを見ることができるようになった。従来以上に操作しやすく、また迷いにくくなった。
大きなボタンやワンタッチダイヤルはもちろん健在。ただし、回転式の音量ボリュームは「シーソー音量ボタン」に変更された。従来の回転式は、「どこが最初なのかが分からない」というユーザーの声を反映した結果だそうである。
全体的に曲線を生かしたたデザイン(ソフトスロープデザイン)になっており、ボタンもかなり押しやすくなった。特によく使うボタンの周りは緩やかな坂になっており、他のボタンへ干渉することが少なくなった。
「着信時」などに押すべきボタンが光るため、迷うこともかなり減るだろう。実際に光っているボタンを見せていただいた。コントラストもはっきりしていて非常に見やすい印象を受けた。今回は室内で見せていただいたので、屋外だともう少し分かりづらいかもしれない。だたし、何日か繰り返し操作していれば、どこを押せばよいのかは自然と分かるようになるだろう。
FOMAと言えば、やはりTV電話機能が目玉になると思われる。このF880iESも、当然のことながらTV電話機能を装備している。他のFOMA端末の使い勝手は分からない。しかし、F880iESの実機を操作させていただいたところ、かなり容易にTV電話機能を使うことができた。これなら初心者であっても2〜3回試すだけで普通に使えるようになるのではないだろうか。少し慣れると、操作で迷うことはほとんどなかった。
F880iESは、電話としてはもちろん、通常のデジタルカメラとしても簡単に使えるように工夫がなされている。カメラの絵の横にあるボタンを押せばよいのだ。一瞬、どこにボタンがあるのか戸惑って しまうが、カメラの絵の上にある矢印(と言うか三角形)の意味に気付けば問題はないだろう。
カメラボタンのすぐ上に読み上げボタンがある。このため、うっかり間違えると、必要ないときにカメラが起動したり、文字が読み上げられたりするかもしれない。ただし、こうした誤操作を防止するよう、ボタンに突起を付けるなどの工夫がなされている。
筆者が所有しているauのW21SAも、ボタン一つでカメラが起動するにはする。だが、ワンタッチといった感じではない。使い方は同じようなものだが、使いやすさではF880iESの方がずっと上である。
従来機に搭載されていた「はっきりボイス」、「簡単メニュー」、「操作ガイド機能」などは健在だ。しかし「歩数計」はなくなっている。F672iは依然として現役機種なので、歩数計が必要な人はそちらを使ってもらえばよいだろう。
ナビゲーションに従うだけでメールが作成できる「簡単メール」や、メールで音声データを送れる「ボイスメール(FOMA端末あてのみ)」機能が新たに使えるようになった。簡単メールは、要するにテンプレートを使いこなすためのツール。実際に使ってみると、これが案外、使える代物であることが分かった。多くの場合において定型文が役に立つことは実体験で身にしみている。簡単メールは、この便利な定型文を、入力方式の面でより使いやすく発展させた形と言える。
「入力操作が苦手」、もしくは「あまりよくできない」障害がある人にとって、ボイスメールはとても便利なツールである。FOMA端末同士でないと使えないのは残念だが、FOMAが普及していけば、その問題が解消されていくことだろう。
なお、デコメールは、閲覧はできるが作成はできない。しかしiモーションメールは容易に作成、送信できる。
文字入力や、iモードサイトの「文字読み上げ」は、もちろん健在である。また「音声認識」はコマンドが拡張され100件になっている。携帯電話のCPUパワーでどこまで音声認識が可能なのか? 筆者が見せてもらったところ、健闘しているといった感じがした。まだ精度はそれほど高くはないが、手が不自由な人、例えば頚髄損傷を負った人などにとっては便利な機能かもしれない。
なお、富士通端末マニアが密かに期待しているであろう電池残量表示の裏技(特定の操作をすることで、電池残量のアイコンが変更できる)は、「ない」とのことだ。
筆者は普段、障害者向けのパソコン相談をやっている。最近、携帯電話に関する質問も受け付けるようになった。おおむね60歳以上の障害者が携帯電話に関する質問をしてくる。ここでもやはり電子メールに関する質問が圧倒的に多い。
面白いことにこれらの方は、iモード端末の場合、ほぼ例外なく富士通の「らくらくホン」シリーズを所持している。そして、たいていの場合は、ちょっと説明するだけで、すぐに分かるようになる。こうしたことから、らくらくホンシリーズの「簡単さ」が、他の端末に比べて群を抜いて優れていることが実感できる。
なお「らくらくホン」シリーズを開発する過程では、多くのユーザーテストを行ったという。通常のユーザーテストの他に、各障害者団体の協力を得て、様々なデータを集めた。ユニバーサルデザインをうたっている以上、これは非常に重要な作業である。その場しのぎだけの対応をしている企業が多い中、これは素晴らしいことである。流行に乗って、右へ倣えでやっているわけではなく、ユーザーのことをちゃんと考えている証拠だ。
「らくらくホン」シリーズの開発チームは、現在の地位を築いても、なお決して「完璧」とは言わず、「まだまだこれから」という真摯(しんし)で積極的な姿勢で取り組んでいる。このため、他の端末の追随を許さぬ勢いが保てるのだろう。注目である。
筆者が西日本方面に出張ででかけたときに気づいたこと。富士通はこれらの機種を、西日本方面では「らくらくホン」の名前では売っていない。CMの作り方もだいぶ違う。型番を知らなければ同じものであるとは気付かなかったかもしれない。
(くまぷう)