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| 著者の岡野裕之氏 |
この連載でこれまで紹介してきた、「ビジネス・プロセス統合技術」や「データ統合技術」、「Webサービス技術」によって、企業間の連携(バリュー・チェーン)が進むと、共有された情報を利用して迅速に意思決定することが今後ますます重要になります。そこで不可欠な技術が、今回ご紹介する「最適化技術」です。
最適化とは?
「最適化」とは、ビジネスを反映した何らかのモデルをコンピュータ上に作り上げ、そのモデルに対して定義した評価指標を考慮して、望ましい計画を立案したり、意思決定を支援するシミュレーションを行うことを言います。適用分野はさまざまで、生産計画、輸送計画、拠点配置、要員配置、イールド・マネジメント、需要予測、製品ライフ・サイクルの予測などがあります。
頻繁に行われる意思決定
販売状況の変化に伴い、需要予測を見直して生産計画を変更する、あるいは販売戦略を見直す、といった意思決定が、より頻繁に行われるようになってきました。5年前は四半期に1回の意思決定をしていた企業が現在は毎日、あるいは1日に1回だった企業は数秒に1回の意思決定を行う、といった具合です。
あるお客様では、今まで月次で立てていた生産計画をさらに詳細にしたものを、日次で計画しようとしています。つまり、1ヶ月先までの詳細なスケジュールを毎日見直すわけです。それにより、生産効率向上や中間在庫を減少させることが可能となります。また、1ヶ月先までの納期を正確に把握できるようになることから、上流・下流の生産計画や輸送計画をより長期にわたって正確にたてられるようになるなど、バリュー・チェーンを共にするほかの企業にとっても大きなメリットになります。
これは、ビジネスのスピードがそれを要請したことのみならず、IT技術の進歩がそれを可能にしたと言えます。例えば、電気の需要予測と供給量の最適化を行うあるシステムでは、1分間で処理できる2値変数の数が、1996年から2000年の間で200倍にも増えています。これにはアルゴリズムの改良による努力も含まれますが、計算機パワーの増大が大きく寄与していることは言うまでもありません。
頻繁に行われる最適化
IT技術は最適化の使われ方も変えつつあります。これまでは、まとまった入力データに対してバッチで最適化処理を行うことが普通でした。しかし意思決定の頻度が高まるにつれ、繰り返し同じような入力データに対し、高速に解を算出する最適化が求められるようになったのです。このようなタイプの最適化を、IBMは「コンティニュアル最適化」(Continual Optimization:頻繁に行われる最適化という意味)と名づけました。IBMはe-ビジネス・オンデマンドの世界において、コンティニュアル最適化が、今後重要になると考えています。
この連載でも紹介した「エージェント技術」を利用すれば、バリュー・チェーンのいたるところにセンサー・エージェントを仕掛けておき、販売状況や在庫状況などを常に監視し、最適化に必要なデータを抜き出して、オンデマンドで最適化を行うことが可能になります。このようなしくみを「センス・アンド・レスポンド」と呼びます。こうしたIT技術が進歩することで、コンティニュアル最適化はますます一般的なものとなるでしょう。
コンティニュアル最適化の手法は?
コンティニュアル最適化には、望ましい意思決定のサイクルに見合う高速性が求められます。しかしこれを一気に解決する、特定のアルゴリズムがあるわけではありません。個別の問題に対して、その問題の性質を深く理解し、固有のアルゴリズムを設計する必要があります。
例えば、一言で生産計画といっても、生産枠間の段取り時間の有無などいろいろな種類があります。これら個別の問題に対して、高速なヒューリスティックスを適用する方法、問題を分割して効率的な解法の組み合わせで近似する方法、時間のかかる精緻なアルゴリズムで得られる解を高速な局所探索法で補間する方法などが試されています。
「今なぜコンティニュアル最適化か?」の理由として、頻繁に意思決定することへのニーズがあることはすでに述べましたが、それを可能にする手法が実用的なレベルに達したこともあげられます。数理計画法、局所探索法、メタヒューリスティックス、需要予測手法などの各種最適化手法の研究成果が出そろい、さまざまな問題への応用研究も広がってきました。それに加えて、計算機パワーが増大したことから、コンティニュアル最適化を可能とする素地が整ってきたのです。さらに、直前の計算結果を利用する計算方法、グリッド・コンピューティングの活用など、コンティニュアル最適化を実現するアルゴリズムの研究と応用が進められています。
IBMの取り組み
IBMは2002年11月に「オンデマンド・イノベーション・サービス」を発表し推進しています。オンデマンド・イノベーション・サービスとは、IBM研究部門が、IBMのサービス部門・コンサルティング部門と協業することで、お客様の先進的な問題を解決することをいい、サプライ・チェーン・ソリューション、ビジネス最適化&アナリティクス、セキュリティ&プライバシー、自動車業界向けソリューション、コール・センター・ソリューションなどのメニューをそろえています。コンティニュアル最適化はその一環として位置付けられています。
コンティニュアル最適化の事例
先進的なお客様に対して実施した、コンティニュアル最適化の事例のいくつかご紹介しましょう。
ある製造業のお客様は、半製品を複数工程で加工して製品に仕上げています。各工程では大きさや種類の近い半製品を連続して処理する必要があり、処理順序を決定する問題は「巡回セールスマン問題」に近い構造を持っていました。また、各工程については生産枠を生成して半製品を割り当てる必要があり、生産枠間には段取り時間や接続性があるため、やはり巡回セールスマン問題の構造を持っていました。そこでIBMは、この種類の問題の高速解法や配送経路問題の局所探索法の研究を応用して、高性能な生産計画アルゴリズムを開発しました。これにより、1ヶ月分の大規模なスケジュールを日次で立案することが可能になりました。
コンピュータの保守要員を、電話による要請(コール)にしたがって急行させるという問題では、保守要員のスキルや、コールされた地点までの距離、休憩時間、保守要員の負荷均衡といったことを考慮する必要がありました。これはスケジューリング問題に近い構造を持っていました。そこでIBMは、6000人の保守要員に2万コールという大規模な問題に対し、この問題に関する最新の手法を応用して、10分程度ごとに要員スケジュールを見直すことが可能な高速アルゴリズムを開発し、保守要員の休止時間を大幅に減少しました。
GPSを装備したタクシー(リムジン)を、電話による予約にしたがって急行させるという問題では、予約の発地と着地、車やドライバーに関する好み、到着の遅れに関するペナルティー、予約を断るペナルティー、車とドライバーのそれぞれ拠点位置・コスト・容量、地点間の移動時間など、さまざまな制約条件を考慮する必要がありました。これに対しIBMは、数理計画法による厳密な解法に加えて、新しい入力に対応するための局所探索法を組み合わせることで、10分程度ごとにルートを見直すことが可能な高速アルゴリズムを開発しました。
今後の可能性
コンティニュアル最適化によって、ビジネスにおける意思決定の頻度を大幅に短縮することで、生産の効率化、機会損失の減少、利益の最大化といったメリットが生まれる分野は数多く存在します。今後、コンティニュアル最適化の適用はますます増えてゆくでしょう。また、センス・アンド・レスポンドのしくみを使った各種ビジネス指標のモニタリングと、それをトリガーとしたオンデマンドな最適化により、迅速で効果的な意思決定が可能となります。このようなIT技術・最適化技術の導入は、経営を効率化し、バリュー・チェーンの競争力を高めるために不可欠なものとなるでしょう。
(岡野 裕之/日本IBM 東京基礎研究所 オートノミック・アンド・グリッド・コンピューティング主任研究員)