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テクノロジ解説
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第12回  「使いやすさ」を追求するには

2003/07/15

使いやすさとアクセシビリティ

著者近影
著者の吉永秀志氏
  ビジネスの柔軟性とスピードを上げるためには、さまざまなお客様のICT (Information and Communication Technology) の利用形態を考慮したシステム作りが必要となります。このシステム構築は、たとえばお客様がどのような機器を経由してこのシステムを利用するか、どのような身体能力を持った方が利用するかといった観点からの考慮も必要です。さらにそのシステムで利用される情報をどのように加工して提供するか、その情報そのものの開発は、どのようなプロセスに基づいてなされるべきかといった考慮も必要になるのです。

 情報にアクセスできることを「情報アクセシビリティ」と呼び、これに関する研究は、当初、障害を持つ人や高齢者などが情報にアクセスできるようなることを目標として発展してきました。その技術の多くは、子供を含めて広く一般に「情報システムの使いやすさを追求する」ために非常に有益です。そのためIBMでは、「情報アクセシビリティ」をすべての人のための技術として位置づけています。

 これらの技術としては、たとえば、視力の弱い人ための文字拡大や文章の読み上げ、聴力の弱い人のための字幕作成や日常コミュニケーション支援、肢体不自由者のためのキーボード以外からの入力支援などが挙げられます。日常生活で言えば、コンタクトレンズを使用したり、騒音の中で電話をかけたり、外国人と会話したりするなどと同様のものと考えて下さい。今回は、このアクセシビリティについての観点から新しい技術を紹介します。

e-ビジネス・オンデマンドでのアクセシビリティの展開

 アクセシビリティの実現のために、さまざまな分野に取り組む必要があります。特にe-ビジネスの中心となっているウェブは、電子商取引、電子政府、企業のイントラネットの基幹として利用されているため、ウェブ上での情報のアクセシビリティは、今後最も重要な研究・応用分野であると言えるでしょう。

 さらにブロードバンドの普及により、このウェブのe-workplace, e-learningとしての応用やモバイルデバイスでの利用は、「使いやすさを追求する」アクセシビリティの重要な対象分野なのです。さらには、そのウェブでの多様なコンテンツに対応して、作成・利用の面から検討することにより、ウェブを活用したビジネスの柔軟性とスピードが向上すると考えられます。ここでいくつかの例を挙げてみましょう。

(1)ウェブ・アクセシビリティとウェブの閲覧支援

 ウェブをアクセシブルにするために、アクセシビリティ・チェックリストにあるように、「画像やアニメーションに説明をつける」、「動画やオーディオにスクリプトをつける」など、テキスト以外の情報にテキストの情報を付加し、読み上げソフトで利用できる形式にすることが主に行われてきました。また「キーボード以外の代替入力手段の提供」も重要な条件として規定されています。「こちら」にその様々な例が掲載してあるので、ご参照下さい。

 日本IBM東京基礎研究所で研究された「ホームページ・リーダー」というウェブ読み上げ機能を持つソフトウエアは、ウェブ・コンテンツ利用の観点から全盲の人を対象に開発され、現在世界中で広く使われています。ウェブを利用する人口が増えると、小さな子供から、高齢者まで快適にウェブを利用できるような技術も必要になります。

 日本IBMでは、特に高齢者の多様なニーズに応えることを目的として「ITryプロジェクト」を実施しました。このプロジェクトでは、トランスコーディング技術を用い、ユーザー一人ひとりの視覚特性に合わせた文字・行間・画像の大きさや配色の変更を行うシステムを開発し実証実験をしたのです。また文字サイズや色だけでなく、コンテンツの並び替えやダイジェストを行って、ウェブページのレイアウトを変更することによってアクセシビリティを向上させる技術についての研究も実施したのです。

 これらの製品・研究に基づき、日本IBMが発表した「らくらくウェブ散策」は、ポインティング・デバイスを利用できる視力の弱い人やIT初心者など、ホームページ・リーダーに比べてさらに幅広い対象ユーザーを想定しています。「らくらくウェブ散策」サービスが導入されているウェブサイトから「らくらくウェブ散策」起動リンクをクリックすると、サービスに必要な電子署名つきソフトウエアが自動的にダウンロードされ、セットアップ、起動されます。

 起動後は、読みづらいところをポインティング・デバイスで指示するだけでその文字列が拡大表示され、オプションで読み上げもできます。また文字の色や背景色の組み合わせを色盲、色弱、老人性白内障などの人のために変更できる機能を持つのです。このサービスは、「らくらくウェブ散策」が導入されているウェブサイト内(ドメイン)のみで利用できる形態で提供しています。この概要は「こちら」で公開しています。

 このサービスは、電子自治体・電子政府などの「行政サービス」の分野で広く利用されています。e-Japanの成果であるブロードバンドの普及により、このような支援技術は、従来の個人が購入して使うという形態から、ウェブサイト上でサービス事業者が標準ツールとして利用できるようにしておき、利用者が必要なときにダウンロードして利用する形態に変化しました。

 このサービスが実現した機能、運用、ビジネスモデルの工夫として、

・サービス事業者による標準サービスとしてアクセシビリティ機能の実現
・サービス事業者にとってモジュール管理が容易で、既存のコンテンツの変更なしでのサービス提供が可能
・サービス事業者が管理するウェブサイト内のみを対象にしたサービスとして実現
・ユーザー側でのインストールをなくし、オンデマンドでサーバーからソフトウエアを呼び出し起動
・ユーザーのために機能を絞り込んだユーザー・インタフェース

 が挙げられます。

 また、中心となる文字表示、読み上げ機能としては、

・ポインティング・デバイスで指定した部分の拡大表示と読み上げ機能
・文字の色と背景色の組み合わせ変更機能
・日本語特有の読み違いをなくすためのW3Cで定義されたルビ読み上げ機能
・日本語以外の言語に対する読み上げ機能(検討中)

 などがあります。

 このような技術を応用し、アクセシビリティに配慮した子供から高齢者まで利用できるツールが開発され、簡単に利用できるようになったため、行政サービスの柔軟性とスピードを上げることに役立っているのです。今後、先進的な民間企業においてもこのような取り組みが進むものと考えられます。

(2)大量かつ多様なコンテンツへの対応

 多様化するコンテンツへの対応もさまざまな形で行われています。従来までのウェブのアクセシビリティでは、HTMLという言語で記述されたものに対してアクセシビリティをチェックしてきました。IBMは、多くのツールを使用してアクセシビリティ・チェックを行ない、さらにホームページ・リーダーでの最終確認を推奨しています。

 今後、ウェブ・データが大量になるにつれ、ますます自動的に大量のデータをチェックし、また、的確な修正をするためのシステム管理者向けツールが必要となるのです。また最近、コンテンツもプログラムから動的に作られることが多くなりました。従来のチェッカーでは、プログラムが生成するアクセシブルでないページを検出することは不可能でした。

 日本IBM東京基礎研究所では、全盲だけでなく弱視ユーザーにとってのアクセシビリティをチェックするツールとともに、動的に作られHTMLとなるコンテンツもアクセシビリティ・チェックの対象にできるようなツールを研究中です。このツールと従来のツールとを組み合わせることにより、ポータル環境も含めてさらに高度なコンテンツ・チェックが可能となるのです。

(3)デジタル・メディアへの対応

 今後ますます増えてゆくコンテンツに動画データがあります。これは、動画と音声が共存しブロードバンドの普及とともに主流となってゆくデータ形式です。この動画データをより見やすく、聞きやすくするには、どのようにしたらよいでしょうか。

 日本IBMでは重要な社内ビデオは、字幕付きで提供しています。この字幕は、聴覚障害者にとって無くてはならない情報ですが、同時に健常者にとっても実に有益な情報であるのです。この字幕を付けるために文字情報を動画作成時から取り込み、さらに容易に加工するための研究も音声認識の組み合わせとともに行っています。

 日本IBM東京基礎研究所では単体の機能としてではなく、一連のコンテンツ作成、運用、管理という総合的な視点に立ち、基礎技術を組み合わせてより幅広い実験と実用化に取り組んでゆく予定です。

すべての人に便利なe-ビジネス・オンデマンドの実現のために

 ビジネスの柔軟性とスピードを上げるためにアクセシビリティ向上を目指した製品と技術を説明してきました。これらの製品と技術を有効に利用するためには、企業内におけるアクセシビリティへの認識が必要であると考えています。今後の課題として、次のようなことが挙げられます。

・標準化の実現と、それに基づいた企業によるワールドワイドを対象とした品質の高い共通サービスの提供を実現すること。これは、標準に基づいた製品の開発として最も効率的で、品質の高いサービスの提供を実現する唯一のアプローチと考えられます。

・技術・製品に加え、運用・利用を考えた体制作りも必要不可欠です。ビジネスの柔軟性とスピードを上げるための「使いやすさを追求する」とは、技術のみならず技術を組み合わせた「アクセシブルなウェブサイトを運用するプロセスの確立」、「障害を持った人を含めたすべての利用者に対するサポート体制・プロセスの確立」などのビジネスプロセスを社内に作り上げることが成功のための重要な要素となるのです。

 ここで十分取り上げられなかった技術や取り組みは日本IBM「バリアフリーの扉」にリードストーリーとして紹介しています。どうぞ「こちら」をご参照下さい。

(吉永 秀志/東京基礎研究所 アクセシビリティ・センターAP担当)

吉永 秀志

東京基礎研究所 アクセシビリティ・センターAP担当。1983年日本IBM入社。AIX開発、組み込み型ソフトウエア開発、マーケティングを経て、2001年より東京基礎研究所にてアクセシビリティ技術を応用したサービス&ソリューション開発と標準化に従事。
バックナンバー
■第21回[2003/9/22]
・XMLを使った高度な情報管理

■第20回[2003/9/16]
・オープンなWebサービスでの安全性

■第19回[2003/9/9]
・システム全体の安全を確保する

■第18回[2003/9/2]
・問題の所在を明らかにする--複雑なシステムの問題判別技術

■第17回[2003/8/26]
・ThinkPadとオートノミック・パーソナル・コンピューティング

■第16回[2003/8/19]
・自律的に動くコンピュータ

■第15回[2003/8/5]
・最適化技術でビジネスの効率を上げる

■第14回[2003/7/29]
・大量のデータを効率的に配信する

■第13回[2003/7/22]
・音声認識技術で"声"を活用する

■第12回[2003/7/15]
・「使いやすさ」を追求するには

■第11回[2003/7/8]
・ユビキタス時代のID技術(その2)

■第10回[2003/7/1]
・ユビキタス時代のID技術(その1)

■第9回[2003/6/24]
・データの洪水から何かを見つけ出す

■第8回[2003/6/17]
・進化する分散処理

■第7回[2003/6/10]
・ビジネスにおけるグリッドの真価

■第6回[2003/6/3]
・グリッド・コンピューティングとは?

■第5回[2003/5/27]
・エージェント技術でモバイルサービスの領域を広げる

■第4回[2003/5/20]
・Webサービス

■第3回[2003/5/13]
・データ構造を把握する

■第2回[2003/5/6]
・ビジネス・プロセスをはっきりさせる

■第1回[2003/4/25]
・オンデマンドへのビジネス変革を支えるITシステムとは


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